【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
104 / 307
第四章 王都騒乱

95.王都脱出!(2)

しおりを挟む
 ――わ、私ですか……?


 アイカは、祖霊を降ろしたニーナに指差されて、戸惑った。

 つい先ほどまで、再び目にすることが出来た、踊り巫女たちの官能的なダンスに目を奪われ、ポオッと見惚れていただけであったのに、突然の指名に息を呑んだ。

 トランス状態のニーナの声は、低く重い。


『将来、我が子ら、草原の民を救う者である』


 アイカは後ろを振り返ったが誰もいない。

 ニーナの美しく伸びた指は、明らかに自分を指している。

 ニーナをトランス状態に導くために両脇で踊っていたラウラとイエヴァが、荒い息のままアイカを見詰めた。


『そなたらは、この者を救けよ』


 と言ったニーナが、膝から崩れ落ちた。

 ラウラとイエヴァが駆け寄り、介抱する。


「決まりだな」


 と言ったイエヴァに、意識を取り戻したニーナも頷いた。

 日の高いうちに踊り巫女の装束がリティア宮殿に届けられた。その晩、祖霊の託宣を伝え聞いた多数の踊り巫女たちが、ニーナと共に、王都を離れる挨拶に訪れた。

 宮殿入口のホールに立つヴィアナ騎士団の見張りの騎士たちに、愛嬌を振りまきながら薄絹をまとった踊り巫女たちが次々に訪れる。


「リティア殿下には『無頼の束ね』として、私たちを保護していただきましたから」

「仲間の許可証を盗んだ悪漢も捕えていただきました」


 多くの来訪に驚いた見張りの騎士に、踊り巫女たちは口々に答えた。

 来訪の意図を尋ねながらも、胸元や細い腰に目線を泳がせる騎士に、踊り巫女たちもにこやかに振る舞って見せる。

 やがて、応接室からは皆が披露する踊りへの歓声が響き始めた。

 その頃、奥殿では、ようやくすべての工作を終えたカリュが、踊り巫女の装束を試着して、アイカを唸らせていた。


 ――で、でけぇ。


 踊り巫女たちの“急な来訪”をもてなすために、侍女や女官たちが料理や酒を運んで、宮殿内を慌ただしく行き来している。

 アイカとカリュが席を外していても、入口ホールより内に入らない見張りの騎士が、不審に思うことはなかった。
 

「変ではないかな……?」

「変ではないですね」


 大きすぎる乳房に対して覆い切れない布地はマイクロビキニのようであったが、アイカは親指を立てて見せた。

 リティア宮殿からは、数人が姿を消している。

 間諜であった。


「殿下が斬りたくないようでしたら、分かっているぞと、それとなく知らせれば、勝手に出て行きます」


 というカリュの助言で、穏便に退出させた。

 自分が思うよりも多くの間諜が紛れていたことに、リティアは苦笑いしたが、魑魅魍魎の跋扈する王宮の実相に触れ、改めて気を引き締められた。

 宴もたけなわというところで、西街区で大きな騒ぎが起きていると報せが入った。


「『無頼の束ね』のお役目である」


 として、見張りの騎士を押し切って、ジリコたちの一団が宮殿から出動した。

 初老の旗衛騎士ジリコが率いる一団は、すべて男性で、リティアやペトラたちの動向を見張る騎士も、押し止めることができなかった。

 にわかに『束ね』としての政務の慌ただしさに包まれたリティア宮殿に憚って、踊り巫女たちがその場を辞する。


「また、来年会うことを楽しみにしているぞ」


 入口ホールまで見送りに出たリティアは、微笑みを浮かべて踊り巫女たちに別れを告げた。


「なにやら騒ぎが起きているらしい。“陛下の狼”たちを護衛に付けよう。アイカ。見事な舞いを披露してくれた踊り巫女たちを、宿までお送りせよ」


 と、リティアから命じられたアイカも、タロウとジロウを伴ってリティア宮殿を出た。

 アイカの胸がドキドキと高鳴るのは、美しい踊り巫女たちに囲まれているからだけではない。この後の段取りを、心の中で何度も確認していた。

 そして、いつ戻れるか分からないリティア宮殿をもう一度、目に焼き付けておこうと、振り返った。


 ――さようなら。私の楽園……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...