【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
106 / 307
第四章 王都騒乱

97.王都脱出!(4)

しおりを挟む
 アイカと合流したリティアたちは、踊り巫女姿で白いローブをたなびかせながら、神殿街の隘路を小走りに駆ける。

 総候参朝において、リティアが招きに応じた列候の一人、アルデバラン候が祀る太陽神カフラヌスの神殿を目指す。その裏手には、理由わけも聞かれず、馬を繋がせてもらっている。


 ――恐るべきは、ロザリーの慧眼。


 王都脱出後、メルヴェが駱駝を用意してくれているフェトクリシスを目指すとして、そこに至るルートを検討する中で、リティアは深く唸った。

 総候参朝で、リティアが臨席する宴を選定したのは、国王付きの侍女長ロザリーであった。

 その列候領を地図上で線に結ぶと、フェトクリシスに至った。

 また、反対側に目をやると、西南伯領ヴールにも至る。

 変事を予期していたとまでは思わないが、ロザリーによる選定基準は明らかであった。


 ――ルーファかヴールに逃れよと、ロザリーが言っている。


 リティアは、しばし考え込んだ。

 ロザリーは、ヴール、いや、その公女であるロマナと、リティアの秘めた友情も見透かしていた。


「するめを贈った列候さんたちだ……」


 と、アイカも地図が示す脱出ルートに気が付く。

 すると、カリュがおもむろに地図に印を描き加えた。


「これは……?」

「サフィナ様の差配で、サヴィアス様を招いた列候でございます」


 数は少なかったが、王都ヴィアナとフェトクリシスの中間に位置するミトクリアなど、要所を押さえている。

 今は姿なきロザリーとサフィナが、互いの腹を読み合い、牽制し合っているかのような図が浮かび上がる。

 決して関係が悪かった訳ではない、ロザリーとサフィナ。

 それでも、聖山の大地を舞台に、思惑が交錯している。


「するめを辿ればいいんですね!」

「そうだな」


 無邪気な笑顔を向けるアイカに、リティアも微笑みを返した。

 今はロザリーが遺した道を信じるほかないと、心を定めたリティアだったが、アイカがボソッと呟いた「天衣無縫のするめ姫」という言葉だけは全力で拒否した。

 そんな、するめを贈った列候の一人がアルデバラン候であり、貴領の神殿で馬を休ませたいというリティアの申し出を、快く引き受けてくれていた。


「よし! 北離宮まで駆けるぞ!」


 愛馬に跨ったリティアの掛け声で、騎馬の一団が地面を轟かせ始める。

 ここまで来れば、速度勝負であった。

 西街区の騒ぎの対処に人手を割いているヴィアナ騎士団が、リティアの脱出に気が付くのが速いか、リティアが北離宮にたどり着くのが速いか。

 夜の静けさに包まれた神殿街を、一目散に駆けて行く。

 ペトラ姉内親王は、右衛騎士のクロエの馬に乗せ、ファイナ妹内親王は、左衛騎士のヤニスの馬に乗せている。


 ――さすが、美少年。


 踊り巫女姿のヤニスを、タロウに跨るアイカが、チラチラ見ている。


 ――男の娘姿もバッチリです!


 その時、後方から聞き覚えのある声が響いた。


「待たれよ! そこを行かれるは、リティア殿下とお見受けいたす!」


 ――見つかった!


 と、思わず弓を構えたアイカの目に入ったのは、騎馬で追うカリトンの姿だった。

 ヤニスもクロエも、踊り巫女の装束に隠せる短剣しか装備していない。

 弓矢を持つのは、トレードマークとして定着していた西南伯の紋が入った弓矢を持ち歩くアイカだけであった。

 リティアが脱出を決意したとき、アイカはもちろん付いて行くと言った。その時から、人に向けて弓を構える場面に出くわすかもしれないと覚悟はしていた。が、その相手が浅からぬ因縁のある千騎兵長カリトンであるとは思ってもみなかった。

 人に向けるだけでも心に重たいアイカが、さらに逡巡してしまうには充分な状況だった。


 ――訳を話せば、笑顔で見送ってくれるのでは?


 などと、都合良い考えもよぎるが、そんな訳がないと、刹那の時間に思考がグルグルと答えに辿り着かない。

 アイカの考えをひとつに収束させたのは、リティアの声だった。


「アイカ! 脚だ! 脚を狙え!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...