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第四章 王都騒乱
98.王都脱出!(5)
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リティアの声に押されて、放たれた矢はカリトンの太ももを射抜いた。
後方から、カリトンが落馬する音が聞こえる。
「アイカ」
興奮状態のアイカに、リティアが優しく声を掛けた。
「すまなかった」
弓の名手として既に王都にその名が鳴り響いていたアイカだったが、人間に向けて放ったのは初めてであった。
リティアの申し訳なさそうな笑みと、言葉で、なんとか心を落ちつけようと、前を向いた。
――この先、リティアさんを守るために、何度も矢を放つことになる。
自分が選んだ道であったが、自分の心がもつかどうか、自信がない。
やがて、先行して宮殿を出ていた旗衛騎士ジリコたちの一団とも合流し、神殿街を抜け、北街区をひた走った。
北離宮の前には、第六騎士団の本隊が既に陣取っていた。
西街区の騒ぎから北離宮を警護するという名目で、総員が配置に付いていた。
リティア達は騎乗したまま北離宮に入り、中庭に馬を止めた。運び込んでいた旅装に着替えるため、急いで離宮の中に向かう。
その時、クレイアがアイカの顔を、優しくその胸に抱き止めた。
「殿下のために、ありがとう」
踊り巫女のビキニ姿をしたクレイアの、柔らかな胸に顔を埋められて、アイカの混乱は収まった。自分でも可笑しくなるくらいに、気持ちが落ち着いた。
――おっぱい、すげえ。
チラッと見たアイカに応えて、カリュも抱き締めてくれた。
「アイカは、女の子なのに、おっぱいが好きですよね」
「えっ? えへへ……」
「大丈夫。みんな、知ってますよ」
カリュの言葉に、豊かな胸をした侍女たちをはじめ、リティアも笑いに包まれ、緊迫した脱出劇の中で、和んだ空気がひととき流れた。
そんなリティア一行を迎えたのは、すっかり旅支度を終えた側妃エメーウであった。
「さあ! ルーファに帰るわよ!」
満面の笑みで迎えるエメーウに、リティアはすべてを悟った。長年、目にしてきた、病に伏せった姿のすべてが偽りであったことを。
娘である自分をも欺き、心を操られていたことを。
はっ、と、短い笑い声を発したリティアは、顔の上半分を右手で覆い、口元だけで笑顔をつくった。
「帰りましょう! 母上の故郷に!」
屈託ない笑顔のエメーウに急かされて、皆が着替えを始める中、リティアは口元だけの貼り付いたような笑顔のまま動けなかった。
アイカがそっと近寄り、リティアを抱き締めた。
「もう少しだから……」
「そうだな……」
「泣くのは、後にしよう」
「うむ……。そうだな」
泣いていいんだよと、エディンの悲報に言ってくれたアイカが、今度は「後にしよう」と言ってくれる。
リティアは、アイカの桃色の頭を軽く撫でると、いつもの快活な笑顔を浮かべていた。
「父より、殿下のお供をせよと命じられました」
旅装を整えたリティアの下に、元締シモンの娘、アイラが膝を突いた。
「許す」
短く応えたリティアは、愛馬の背に乗った。
「王都を脱出する!」
三衛騎士に護られたリティアを先頭に、第六騎士団は王都の北方に向けて出発した。
◇
夜が明け、王都に残った女官長シルヴァの手によって、第3王女リティアの王都退出が布告された。
――王国の正義を探す旅に出る。帰還の折りには、必ずや正義を携えて戻るであろう。
という、『天衣無縫の無頼姫』の布告は、ヴィアナ騎士団の目を欺く鮮やかな退出劇と合せて、王太子の謀反以来、釈然としない思いを抱えていた、王都の人々の溜飲を下げた。
無頼姫の帰還がいつのことになるのか、しばらくの間、王都の民の話題はそのことばかりであった。
後方から、カリトンが落馬する音が聞こえる。
「アイカ」
興奮状態のアイカに、リティアが優しく声を掛けた。
「すまなかった」
弓の名手として既に王都にその名が鳴り響いていたアイカだったが、人間に向けて放ったのは初めてであった。
リティアの申し訳なさそうな笑みと、言葉で、なんとか心を落ちつけようと、前を向いた。
――この先、リティアさんを守るために、何度も矢を放つことになる。
自分が選んだ道であったが、自分の心がもつかどうか、自信がない。
やがて、先行して宮殿を出ていた旗衛騎士ジリコたちの一団とも合流し、神殿街を抜け、北街区をひた走った。
北離宮の前には、第六騎士団の本隊が既に陣取っていた。
西街区の騒ぎから北離宮を警護するという名目で、総員が配置に付いていた。
リティア達は騎乗したまま北離宮に入り、中庭に馬を止めた。運び込んでいた旅装に着替えるため、急いで離宮の中に向かう。
その時、クレイアがアイカの顔を、優しくその胸に抱き止めた。
「殿下のために、ありがとう」
踊り巫女のビキニ姿をしたクレイアの、柔らかな胸に顔を埋められて、アイカの混乱は収まった。自分でも可笑しくなるくらいに、気持ちが落ち着いた。
――おっぱい、すげえ。
チラッと見たアイカに応えて、カリュも抱き締めてくれた。
「アイカは、女の子なのに、おっぱいが好きですよね」
「えっ? えへへ……」
「大丈夫。みんな、知ってますよ」
カリュの言葉に、豊かな胸をした侍女たちをはじめ、リティアも笑いに包まれ、緊迫した脱出劇の中で、和んだ空気がひととき流れた。
そんなリティア一行を迎えたのは、すっかり旅支度を終えた側妃エメーウであった。
「さあ! ルーファに帰るわよ!」
満面の笑みで迎えるエメーウに、リティアはすべてを悟った。長年、目にしてきた、病に伏せった姿のすべてが偽りであったことを。
娘である自分をも欺き、心を操られていたことを。
はっ、と、短い笑い声を発したリティアは、顔の上半分を右手で覆い、口元だけで笑顔をつくった。
「帰りましょう! 母上の故郷に!」
屈託ない笑顔のエメーウに急かされて、皆が着替えを始める中、リティアは口元だけの貼り付いたような笑顔のまま動けなかった。
アイカがそっと近寄り、リティアを抱き締めた。
「もう少しだから……」
「そうだな……」
「泣くのは、後にしよう」
「うむ……。そうだな」
泣いていいんだよと、エディンの悲報に言ってくれたアイカが、今度は「後にしよう」と言ってくれる。
リティアは、アイカの桃色の頭を軽く撫でると、いつもの快活な笑顔を浮かべていた。
「父より、殿下のお供をせよと命じられました」
旅装を整えたリティアの下に、元締シモンの娘、アイラが膝を突いた。
「許す」
短く応えたリティアは、愛馬の背に乗った。
「王都を脱出する!」
三衛騎士に護られたリティアを先頭に、第六騎士団は王都の北方に向けて出発した。
◇
夜が明け、王都に残った女官長シルヴァの手によって、第3王女リティアの王都退出が布告された。
――王国の正義を探す旅に出る。帰還の折りには、必ずや正義を携えて戻るであろう。
という、『天衣無縫の無頼姫』の布告は、ヴィアナ騎士団の目を欺く鮮やかな退出劇と合せて、王太子の謀反以来、釈然としない思いを抱えていた、王都の人々の溜飲を下げた。
無頼姫の帰還がいつのことになるのか、しばらくの間、王都の民の話題はそのことばかりであった。
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