【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第五章 王国動乱

111.呼び声

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 王都を出て以来、アイカを縛っていた緊迫感は、いささか和らいだ。

 行動をともにする、第六騎士団の強さを目の当たりにしたことが大きい。

 また、リティアが魅了したのはミトクリア侯だけではなかった。捕縛された野盗の首領たちもまた、リティアの前に首を垂れた。


「荷の五分でどうだ?」


 取り引きを持ちかけるリティアの笑みに、首領たちの心はすっかり吸い込まれていた。


 ――ねっ! ねっ! ウチの無頼姫、カッコイイでしょ?


 と、アイカも誇らしい気持ちでいっぱいになる。

 ミトクリア候が扇動した野盗たちは、隊商を襲うようなではなかった。

 大路を外れたミトクリア近郊を通る、小さな隊商の用心棒を主な生業にしていた。断れば――、という恐喝ではあったが、無頼の延長線上になくもない。


「ならば、これ以降は【無頼の束ね】たる第3王女リティアの名の下に、隊商を護衛せよ」


 リティアの思いがけない宣言に、野盗たちは息を呑んだ。


「王都の変事は耳に入っておろう。騎士団は機能しておらぬし、大路を避ける隊商も増えてこよう」


 リティアは、側に控えるクレイアから受け取ったペンを走らせ、署名入りの任状をしたためた。


「正当な対価も受け取れ」


 護衛の値段は、積荷の仕入れ値の5%――荷の価五分と定めた。


「ミトクリア近郊なら安全に行けると評判になれば、そなたらの生活も安定しよう」


 任状を受け取った首領の手は震えていた。

 王国から正規に認められることなど考えられない生活をしてきた。

 ましてや、王女自らしたためた任状を授けられるなど、夢のような栄誉であった。


「そなたらの縄張りがどれほどか知らぬが、近辺の者たちとも話を付けて、隊商の安全を守ってやってくれ」


 と、リティアが微笑むと、首領たちはなお一層、深く頭を下げた。

 そして、今は、深い森の秘密の抜け道を先導してくれている。


「そなたらが護衛する最初の荷は、私か」


 リティアが笑うと、元は性情の明るい首領たちも笑った。

 使えると見たら、素早く取り立てる。

 極刑も覚悟していた首領たちは、若き王女の度量に、完全に呑まれ、魅せられていた。


 ――いつものことだ。


 と、配下のうちに、リティアに異を唱える者はいなかった。

 母のエメーウを除いて――。


「リティアの身を狙った者たちを許すなど! ドーラ! ネビ! 首を刎ねるのです! 今すぐ!」


 千騎兵長のドーラも、百騎兵長のネビも、礼を失するようなことはなかったが、エメーウの言葉を受け流すようになっていた。

 侍女長のセヒラと、アイシェ、ゼルフィアが宥めながら、エメーウを馬車の中に導く。

 アイシェとゼルフィアは、エメーウの側から離れなくなっていた。

 アイカは考える。


 ――なんで、私はリティアさんの側から離れられないんだろう?


 赤茶色の髪をたなびかせて馬を駆るリティアを見上げる。

 美しい。

 はじめに土間で救ってくれたときから、魅了されているのは確かだ。

 だが、現代日本に生まれ、歪ではあったがごく普通の中流家庭に育ったアイカに「忠義」や「忠誠」という概念は難しい。実の所「身分」でさえあやふやだ。憧れはある。けれど、芯の部分には根強く平等という概念が根付いている。

 リティアの周囲を見渡すと、衛騎士のクロエ、ヤニスにしても、侍女のクレイア、カリュにしても「忠義」で従っているように見える。

 が、同じように「忠義」を捧げていたはずのアイシェとゼルフィアは離れた。

 自分の感情を、


 ――好き。


 で、片付けられたら良いのだが、人間に揉まれることなく育ってしまったアイカには「好き」も難しい。


 ――人を好きになるって……?


 馬車に押し込められるエメーウの背中を、チラッと眺めるリティアの横顔を見て、アイカは考え込んでしまう。

 半狂乱になった母の喚き声――自分を呼ぶ声が、耳に蘇って、身震いをひとつした。
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