【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第五章 王国動乱

112.交錯(1)

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 リティアが野盗の抜け道を進軍している頃、王都ヴィアナ近郊の列候領から順に、ルカス名義の布告が届き始めた。

 曰く――、


 ――第3王子ルカスは、友国リーヤボルク王国の助勢を得て、王太子バシリオスの叛乱軍を鎮圧した。

 ――王都安寧のため、ルカスはヴィアナ候を襲位し、王権を代行する。

 ――王都ヴィアナの交易は、ヴィアナ候ルカスが従前通りに保護する。


 王弟カリストスは、届いた書状を一読して机に伏せた。


「勢いに任せて攻めてくるかと思うたが……」


 という、カリストスの呟きを受け止めたのは、侍女長のサラリスであった。リティアに同行する審神者さにわメラニアと同い年の24歳。次代を睨んで世代交代に熱心なカリストス配下にあっても、特に若い側近である。

 細身の侍女長は、主君に似て感情を面に表さない。


「いかがなさいますか?」

「所詮は、後手で始まった戦よ。時間ができたなら有効に使わせてもらうほかあるまい。方針通り、周辺列候の慰撫に務めよ」


 切れ者と評されるカリストスだが、バシリオスの決起も、ルカスがリーヤボルク兵を引き入れることも察知できなかった。口惜しい限りだが、素早く、態勢の立て直しに取り掛かっている。

 亡き妻の故地である要衝ラヴナラに入り、離宮に居を構え、配下のサーバヌ騎士団を集結させた。

 甥にあたるラヴナラ候を立てつつ、周辺列候への調略を開始している。既に10以上の列候が、非公式ながらカリストスへの忠誠を報せて来ており、着々と勢力圏を築き始めている。


「……リーヤボルクは、王都に居座るつもりだな」


 カリストスにとって王都ヴィアナは、自分の『作品』であるという意識が強く、他国の兵に蹂躙されていることは腹立たしい。

 ふと、自分の呟きに、戸惑った表情を浮かべるサラリスに気が付いた。

 サラリスには、主君が何故その答えを導き出したのかが読み取れない。息子や孫を支えていくであろう若き侍女長に、カリストスは穏やかな口調でを始めた。


「布告や外交文書を読むときには、書かれておらぬことに目を凝らすのだ」

「はっ」

「この布告では、まず、交易に触れながら、参朝――つまり、王都の神殿参拝について触れておらん。列候にとって、累代の神像への参拝は統治権の証しでもある」


 神をしちに取る――まさに、カリストスが作り上げた聖山三六〇列候への支配システムである。


「そこを曖昧にすることで、疑心暗鬼を誘い、分断を図っておる」

「なるほど……」


 狡猾な……という言葉を、サラリスは呑み込んだ。布告は飽くまでも王子ルカス名義のもので、不敬は働けない。

 素早く理解していくサラリスの思案顔に満足したカリストスは、話を続けた。


「参朝を保証しないとなれば、列候の領内統治の権威に関わる。かと言って、うかうか王都に行けば虜囚の憂き目に遭うやもしれぬ。となれば、列候はルカスの統治に追随した方が得かどうか、大いに頭を悩ます」

「虜囚……」

「さらに、王位はおろかルカス自身の即位についても一切言及がない。それどころか形式上残っていただけの『ヴィアナ候』に就き、王権を代行するとは、随分、持って回ったやり口だ。あのルカスが考え付くことではない」

「たしかに……」

「リーヤボルクが武力で征服するつもりなら、こんなややこしいことはするまい。剣と弓矢の戦争ではなく、紙とペンの戦争を始めている。王都に残る者を見渡して、そのような芸当が出来る者は、バシリオスの侍女長サラナくらいだが、アレが主君を討ったルカスのために働くとは思えん」


 サラリスにとって、先輩侍女長であるサラナは尊敬の対象であり、カリストスの言葉に深く頷いた。

 そして、国王侍女長ロザリーの不在に思いが至り、瞳は微かに悲痛なものを映した。側妃サフィナの侍女長カリュは、リティアに従っていると伝わるが、壮健であろうか……。

 世話になった先輩侍女長の顔が次々に浮かぶが、表情は変えない。


「つまり、リーヤボルクから来た者のうちに知恵者がいると考えるのが妥当で、リーヤボルクの意図までは読めぬが、事態を膠着させようとしていることは分かる」

「あの……」

「なんだ?」

「……布告は、バシリオス殿下ご本人の生死にも触れておりません」

「うむ。よく気が付いた。バシリオスが生きておるなら……と、考えさせるのも狙いであろう」

「生きて……おられるでしょうか……?」


 サラリスの問いに、カリストスは直接は答えず、その瞳をじっと見詰めた――。
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