【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第五章 王国動乱

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 ルカスの布告が届くや、西南伯ヴール候ベスニクは、王都参朝の準備を命じた。


「せめて全軍を率いてくださいませ」


 と、伯妃にして王国第2王女のウラニアが懇願したが、ベスニクは取り合わなかった。


「なにも、戦を仕掛けようというのではない」

「ですが……」

「列候が自由に参朝できる権利を確認しに行くだけのこと。王国唯一の方伯である私の責務であるし、参朝の格式に則って兵は200のみを率いる」

「王都は、平時ではございませぬ。リーヤボルクの兵を引き入れるなど、愚弟ルカスが正気とは思えませぬ」

「さりとて、大軍を率いて王都に参朝しては、臆病者の誹りを受けよう。案ずることはない。ルカス殿といえど、西南六〇列候を敵に回すようなことはせぬよ」


 ベスニクが小勢で王都に向かうというだけでも、ヴールは上を下への大騒ぎになったが、加えて、太子であるレオノラも随行を申し出たことで、動揺はさらに広がった。

 レオノラはベスニクの長男で、公女ロマナの父にあたる。


「お祖父様の参朝をお止め出来ないまでも、せめて、父上の随行は思い留まってください!」


 ロマナが詰め寄ったが、忠義者の父は穏やかに微笑んでみせた。


「ヴールには、西南六〇列候の参朝の権を保証する責務がある」

「それは分かりますが、なにも父上まで王都に向かうことはないではありませんか!?」

「ロマナ。そなたのお祖父様は偉大なお方だ。我が父ながら、王国の安寧には欠かせぬお方よ。いざというときには、私が身を挺してでもお守りし、必ずヴールにお帰りいただかなくてはならない」

「そのような『いざ』を考えなくてはいけないのでしたら、なおさら行かないでくださいませ! むしろ、お祖父様を止めてくださいませ!」

「はは。そう揚げ足を取るな。王都に向かうは200といえど精兵よ。案ずるには及ばぬ」


 ウラニアとロマナの懇願虚しく、ベスニクとレオノラが出立する朝が来た。

 親戚筋にあたり、西南六〇列候ではベスニクの側近ともいえるエズレア候も、見送りに駆け付けている。

 王弟カリストスが侍女長サラリスに指摘したように、王都の神殿に祀られている累代の神像への参拝は、列候の権威に関わる。「くれぐれも参朝の権を」と、ベスニクに何度も頭を下げている。


 ――ならば、自分も随行すれば良いものを。


 と、ロマナは冷めた目で見ているが、祖父と父に関しては、もはや笑顔で見送るほかないと心を定めていた。

 いざ出発しようというその時、馬上のベスニクが、ロマナに大きなまさかりを授けた。

 ロマナの細腕には、ずしりと重い。

 豪奢な意匠を施されたまさかりは、西南伯の大権を象徴している。


「ロマナ。ファウロス陛下より賜ったえつは、西南六〇列候を王の裁可なく討ってよいという、方伯の証し。留守中、そなたに預ける」

「お祖父様……」

「ヴールを頼んだぞ」

「……我らが主祭神、狩猟神パイパルに、お祖父様とお父様のご無事をお祈りしております」

「帰ったら、返してくれよ?」

「そんな軽口……」

「はははっ」

「……言ってる場合ではございませぬ」


 つられて笑ってしまったロマナを背に、西南伯ベスニクとその太子レオノラは、王都に向けて出発した。

 その背中が見えなくなるまで、ロマナとウラニアは、じっと見送っていた。
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