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第五章 王国動乱
115.交錯(4)
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西南伯ヴール候ベスニクの出立を見送った後、ロマナは祖母ウラニアに付き添った。
「しばしの間、警護のため滞在させていただきますぞ」
と、恩に着せるような物言いのエズレア候に、もてなしの宴席を設けた後は、ウラニアの寝室でソファに並んで座り、肩を寄せ合って話した。
「ロマナにいい人はいないのかしら?」
「まだ早いですわよ」
「あら。私がロマナの歳には、もうヴールに嫁いでいたのよ?」
「それはそれでございます」
「でも、そうね。私がベスニク様と結ばれたのは、テノリアとヴールの戦争終結の証し。今は平和な時代だものね……」
ウラニアは、王国を包む戦乱の兆しを、敢えて無視した。認めてしまえば夫ベスニクが、無事には戻れないような気がした。
「……お祖母さまは、ヴールに嫁いで……お嫌でしたか?」
「ううん。そんなことはないわ。そりゃ、最初は敵地に乗り込むつもりで、こう、背筋をピッと伸ばして、あごをツンと上げて……」
「ふふふ」
「でも、ベスニク様はとても温かく迎えてくださったし、ヴールの民も歓迎してくれて……。あら、恥ずかしい。思い出したら、ちょっと涙が出ちゃった」
「お祖母さまは、嬉しかったんですね?」
「ええ、そうよ。貴女に会うことも出来ましたしね」
「へへへっ」
とりとめない会話は、2人の不安を穏やかに埋め合った。
やがて、
「ありがとう。ロマナのお陰で眠れそうだわ」
と言ったウラニアの部屋を辞し、ロマナは近衛兵の詰所に足を向けた。
「アーロン。リアンドラ」
ロマナは男女2人の近衛兵を奥の部屋に呼び、公宮内や領内の様子を報告させる。
「公宮内はエズレア候が督励して回っておられ、比較的、落ち着きを取り戻してきております」
「領内では戦争の噂が絶えませぬが、目だった動きは見られません」
「母上は? 兄上のところか?」
「はっ。昨晩より発熱されたとのことで、お側で看病されているよし」
ロマナは領内慰撫の指示をいくつか出した後、自室に戻ろうと席を立った。
そして、アーロンとリアンドラ、2人の近衛兵とすれ違いざま、小声で、
「エズレア候の動向を見張れ。怪しい動きがあれば、すぐに報告するのだ」
と、命じた。
2人は少し目を大きくしたが、かしこまりましたと、これも小さな声で応えた。
自室に戻ったロマナは大きく息を吐いて、机に手を乗せた。聖山の民で17歳は立派な成人とはいえ、その肩に圧し掛かるものは重たい。
机の上には、投げ捨てたままにしてある書状が乱雑に散らばっている。
――しかし、あいつは阿呆か。
書状は、アルナヴィスに逃れている第4王子サヴィアスからの、求婚の手紙であった。
《父王ファウロスからの寵愛が最も篤かった側妃サフィナの息子である私こそが、王位に最も相応しいことは言うまでもない。父王より王都を追放されたバシリオスとルカスごとき、すぐに蹴散らして王位に就くので、そなたを王妃にしてやろう》
この調子では、アルナヴィスでも持て余されているに違いない。
――だいたい、してやろうって何なのよ。失礼しちゃうわ。
ベッドに身を投げ出し、天蓋を眺めた。
次に、リティアと会って、サヴィアスをこき下ろして笑えるのは、いつのことだろうか――。
「しばしの間、警護のため滞在させていただきますぞ」
と、恩に着せるような物言いのエズレア候に、もてなしの宴席を設けた後は、ウラニアの寝室でソファに並んで座り、肩を寄せ合って話した。
「ロマナにいい人はいないのかしら?」
「まだ早いですわよ」
「あら。私がロマナの歳には、もうヴールに嫁いでいたのよ?」
「それはそれでございます」
「でも、そうね。私がベスニク様と結ばれたのは、テノリアとヴールの戦争終結の証し。今は平和な時代だものね……」
ウラニアは、王国を包む戦乱の兆しを、敢えて無視した。認めてしまえば夫ベスニクが、無事には戻れないような気がした。
「……お祖母さまは、ヴールに嫁いで……お嫌でしたか?」
「ううん。そんなことはないわ。そりゃ、最初は敵地に乗り込むつもりで、こう、背筋をピッと伸ばして、あごをツンと上げて……」
「ふふふ」
「でも、ベスニク様はとても温かく迎えてくださったし、ヴールの民も歓迎してくれて……。あら、恥ずかしい。思い出したら、ちょっと涙が出ちゃった」
「お祖母さまは、嬉しかったんですね?」
「ええ、そうよ。貴女に会うことも出来ましたしね」
「へへへっ」
とりとめない会話は、2人の不安を穏やかに埋め合った。
やがて、
「ありがとう。ロマナのお陰で眠れそうだわ」
と言ったウラニアの部屋を辞し、ロマナは近衛兵の詰所に足を向けた。
「アーロン。リアンドラ」
ロマナは男女2人の近衛兵を奥の部屋に呼び、公宮内や領内の様子を報告させる。
「公宮内はエズレア候が督励して回っておられ、比較的、落ち着きを取り戻してきております」
「領内では戦争の噂が絶えませぬが、目だった動きは見られません」
「母上は? 兄上のところか?」
「はっ。昨晩より発熱されたとのことで、お側で看病されているよし」
ロマナは領内慰撫の指示をいくつか出した後、自室に戻ろうと席を立った。
そして、アーロンとリアンドラ、2人の近衛兵とすれ違いざま、小声で、
「エズレア候の動向を見張れ。怪しい動きがあれば、すぐに報告するのだ」
と、命じた。
2人は少し目を大きくしたが、かしこまりましたと、これも小さな声で応えた。
自室に戻ったロマナは大きく息を吐いて、机に手を乗せた。聖山の民で17歳は立派な成人とはいえ、その肩に圧し掛かるものは重たい。
机の上には、投げ捨てたままにしてある書状が乱雑に散らばっている。
――しかし、あいつは阿呆か。
書状は、アルナヴィスに逃れている第4王子サヴィアスからの、求婚の手紙であった。
《父王ファウロスからの寵愛が最も篤かった側妃サフィナの息子である私こそが、王位に最も相応しいことは言うまでもない。父王より王都を追放されたバシリオスとルカスごとき、すぐに蹴散らして王位に就くので、そなたを王妃にしてやろう》
この調子では、アルナヴィスでも持て余されているに違いない。
――だいたい、してやろうって何なのよ。失礼しちゃうわ。
ベッドに身を投げ出し、天蓋を眺めた。
次に、リティアと会って、サヴィアスをこき下ろして笑えるのは、いつのことだろうか――。
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