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第五章 王国動乱
129.審神者の郷(2)
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リティアたちが駱駝騎乗の練習をしている中、無頼の娘アイラは、アイカとチーナから弓を習っている。
第六騎士団に同行させてもらう中、自分がなんの役にも立たないことを痛感したためだ。
王都にあるときには、リティアのいわば諜報員として活躍したアイラだが、王都を離れればカリュには遠く及ばない。今も、周辺列候領の情勢を探りに出ている。
元締シモンの娘として、最低限の護身術は身に付けていたが、野盗に襲撃されれば戦力にはならない。騎士たちに守ってもらう立場だ。
そこで、フェトクリシスに逗留している期間を利用して、弓矢の扱いを習いたいと申し出た。
愛で友であるアイカは快諾してくれたし、西南伯軍随一とも謳われる弓の名手チーナも協力を申し出てくれた。
もちろん、アイカにすると愛でる対象の一人であるアイラの側にいられるのは望むところであったし、眼帯美少女チーナを側で愛でられるのも思わぬ僥倖であった。
ただ、聖山の民であるチーナが側にいることで、アイラと愛で語りできないことは、少し残念であった。
弓の修練の休憩中は、皆、ついリティアとエメーウの様子を窺ってしまう。
この母娘の緊張関係は、一行の誰もが気にかかる問題であって、第六騎士団では末端の歩兵でさえ様子を盗み見ているのが分かる。
そして、駱駝の乗り方を母から教わるリティアの笑顔が砕けていくほどに、皆、安堵のほどを深めている。
ただ、アイカだけは少し違った目で、リティアを見ていた。
フェトクリシスに入る少し前から、リティアはアイカを抱き締めていないと寝付けなくなっていた。
野営の天幕の中で、最初にギュウッと抱き締められたときは、
――うっひょい!
と、思い、
――いいんスか? いいんスか? こんな、美少女、美少女王女に抱き締められて、私はどうすればいいんスか!?
と、舞い上がっていたアイカだった。
だが、それが毎日毎晩のこととなると、リティアの心の中に開いた、暗くて深い穴から目をそらすことが出来なくなった。
タロウとジロウにはさまれ、アイカを痛いほどに抱き締めて、ようやく眠りに落ちていくリティア。その眠りは、心身を安らげるものというよりは、逃げ込むようであり、アイカは身体以上に心が締め付けられる思いで夜を過ごした。
自分などで良ければ、いくらでも抱き枕にしてくれていいから……、という思いで、リティアのなすがままに任せている。
フェトクリシスに入ってからも、その状況は続き、毎晩、リティアはアイカに寝物語に他愛もない雑談を聞かせる。
「フェトクリシスは『審神者の郷』とも呼ばれる、審神の業発祥の地なんだ。街ゆく人たちが皆、アイカのことを振り返るだろう? あれは皆んな審神者なんだ」
たぶん、リティアが選ぶ話題の選択に意味はなく、眠りに落ちるまでの時間を埋めるためだけに話しているのだろうと察しながら、へぇーっと、興味深そうに相槌を打つ。
「聖山戦争の最初期にフェトクリシスは参朝した。聖山の民の誰もが忘れていた古神を祀っているのが発見されて、審神神ネシュムモネと審神の業が王国に伝わった。父上には……天空神ラトゥパヌの守護があることが分かり……、カリストス叔父上には鍛冶神サーバヌの守護がある……ことが分かった……」
リティアは眠気で半分閉じた瞳で、アイカの桃色の髪を眺め、時には撫でる――。
激しい睡魔に襲われいながら、あと一歩、眠りに踏み出すのにアイカの存在を必要としていた。一人では意識を途絶えさせる勇気が出ない。
それが分かるアイカは、自分の方が先に眠りに落ちないように気を付けながら、リティアを現で一人にしてしまわないように注意しながら、かといって眠気を覚ましてしまわないように穏やかな相槌を返し続ける――。
第六騎士団に同行させてもらう中、自分がなんの役にも立たないことを痛感したためだ。
王都にあるときには、リティアのいわば諜報員として活躍したアイラだが、王都を離れればカリュには遠く及ばない。今も、周辺列候領の情勢を探りに出ている。
元締シモンの娘として、最低限の護身術は身に付けていたが、野盗に襲撃されれば戦力にはならない。騎士たちに守ってもらう立場だ。
そこで、フェトクリシスに逗留している期間を利用して、弓矢の扱いを習いたいと申し出た。
愛で友であるアイカは快諾してくれたし、西南伯軍随一とも謳われる弓の名手チーナも協力を申し出てくれた。
もちろん、アイカにすると愛でる対象の一人であるアイラの側にいられるのは望むところであったし、眼帯美少女チーナを側で愛でられるのも思わぬ僥倖であった。
ただ、聖山の民であるチーナが側にいることで、アイラと愛で語りできないことは、少し残念であった。
弓の修練の休憩中は、皆、ついリティアとエメーウの様子を窺ってしまう。
この母娘の緊張関係は、一行の誰もが気にかかる問題であって、第六騎士団では末端の歩兵でさえ様子を盗み見ているのが分かる。
そして、駱駝の乗り方を母から教わるリティアの笑顔が砕けていくほどに、皆、安堵のほどを深めている。
ただ、アイカだけは少し違った目で、リティアを見ていた。
フェトクリシスに入る少し前から、リティアはアイカを抱き締めていないと寝付けなくなっていた。
野営の天幕の中で、最初にギュウッと抱き締められたときは、
――うっひょい!
と、思い、
――いいんスか? いいんスか? こんな、美少女、美少女王女に抱き締められて、私はどうすればいいんスか!?
と、舞い上がっていたアイカだった。
だが、それが毎日毎晩のこととなると、リティアの心の中に開いた、暗くて深い穴から目をそらすことが出来なくなった。
タロウとジロウにはさまれ、アイカを痛いほどに抱き締めて、ようやく眠りに落ちていくリティア。その眠りは、心身を安らげるものというよりは、逃げ込むようであり、アイカは身体以上に心が締め付けられる思いで夜を過ごした。
自分などで良ければ、いくらでも抱き枕にしてくれていいから……、という思いで、リティアのなすがままに任せている。
フェトクリシスに入ってからも、その状況は続き、毎晩、リティアはアイカに寝物語に他愛もない雑談を聞かせる。
「フェトクリシスは『審神者の郷』とも呼ばれる、審神の業発祥の地なんだ。街ゆく人たちが皆、アイカのことを振り返るだろう? あれは皆んな審神者なんだ」
たぶん、リティアが選ぶ話題の選択に意味はなく、眠りに落ちるまでの時間を埋めるためだけに話しているのだろうと察しながら、へぇーっと、興味深そうに相槌を打つ。
「聖山戦争の最初期にフェトクリシスは参朝した。聖山の民の誰もが忘れていた古神を祀っているのが発見されて、審神神ネシュムモネと審神の業が王国に伝わった。父上には……天空神ラトゥパヌの守護があることが分かり……、カリストス叔父上には鍛冶神サーバヌの守護がある……ことが分かった……」
リティアは眠気で半分閉じた瞳で、アイカの桃色の髪を眺め、時には撫でる――。
激しい睡魔に襲われいながら、あと一歩、眠りに踏み出すのにアイカの存在を必要としていた。一人では意識を途絶えさせる勇気が出ない。
それが分かるアイカは、自分の方が先に眠りに落ちないように気を付けながら、リティアを現で一人にしてしまわないように注意しながら、かといって眠気を覚ましてしまわないように穏やかな相槌を返し続ける――。
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