【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第七章 姉妹契誓

151.手を撫でる

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 エメーウがリティアに近付いて申し渡した。


「ジロウの背に乗るのです」

「母上……?」

「アイカもタロウの背に。早く! プシャンの狼が、危機を報せてくれているのです! 抗わず委ねるのです!」

「……分かりました、ただちに」


 ジロウの首を抱き、リティアが指示を飛ばす。


「全軍! 我に続け! タロウとジロウの示す進路を取る!」


 リティアはジロウの背に飛び乗り、アイカも続いた。

 そして、第六騎士団全軍が慌ただしく移動を開始する。

 タロウもジロウも、足下が砂地とは思えないスピードで駆けてゆき、続く兵たちも駱駝を急かしそれを必死で追う。時にはアイカを乗せたタロウが回り込んで、駱駝を威嚇して急がせることもあった。

 そうして駆けに駆けて、タロウとジロウの足が止まった瞬間、その背後を轟音とともに鉄砲水が通り抜けた。

 荒涼としていた砂漠が、たちまち激しい勢いの水で埋め尽くされていく。荒くれ者ぞろいの第六騎士団であったが、皆、その景色を茫然と眺めた。

 エメーウがリティアとアイカに近寄った。


「砂漠で一番の死因は、溺死なのよ」

「溺死……」


 王都育ちのリティアにはピンとこなかったが、目の当たりにする大洪水に、エメーウの言葉には説得力があった。


「乾ききった砂漠は海綿スポンジのように水を吸うと思われがちだけど、そうではないの。簡単には水を通さないほどに固まって乾燥しているのよ。だから、雨が降ったら砂漠には吸収されず、砂の上を滑るように大洪水を起こすことがあるの」

「……それをタロウとジロウが教えてくれていたんですね」

「そうね。さすがプシャンの狼だわ」


 と、《砂漠の民》の首長家に生まれたエメーウは、褒賞を与えるように狼たちを撫でた。

 だが、《聖山の民》であるリティアは、


 ――さすがは『道案内の神』の守護聖霊がある狼だ。


 と、感心し、神々に感謝していた。

 砂漠の大洪水という危機を間一髪でかわしたリティアたち一行であったが、それによってもルートは大きく北に逸れた。

 かつ賊の襲撃を受け止めつつの旅は、予定より長引き、食糧が尽きる寸前にようやくルーファに到着することができた。

 一行が街並みに近付くにつれ、感嘆の声が広がった。


 ――繁栄しているとは聞いていたが、これほどまでか。


 そして、アイカが自分の目を疑う建物が見えてきた。


 ――き、北離宮じゃん!


 王都でエメーウが過ごした北離宮。寸分違わず再現された姿で建っていた。

 見るとまだ真新しい。

 エメーウたちを受け入れるために新造されているのが明らかであった。


 ――恐るべき財力。


 テノリア王家に育ったリティアでさえ、驚きを禁じ得ない。

 街の中心に広がる首長家の屋敷では、大首長セミールとその息子、首長のシャヒンが出迎えた。

 エメーウとリティアが並んで、膝を突いた。


「お祖父様、お父様。エメーウ、娘リティアと共に、ただいま戻りました」


 恭しく頭を下げるエメーウの顔には、安堵と首長家の長女としての誇りが浮かんでいた。

 しかし、その笑顔はすぐに困惑と怒りに染まった。


「なぜです⁉ なぜ、私がリティアと離れて住まなくてはならないのですか!」


 なんと、再現された北離宮の街を挟んだ反対側には、リティア宮殿が再現されていた。

 積層型の王宮のすべてという訳ではなかったが、見れば一目でリティアの宮殿だと分かる白亜の建物が、屋敷からも見渡せた。

 しかも、その隣には小振りながら王家の主祭神『天空神ラトゥパヌ』の拝殿も見えた。


「エメーウ、我が孫よ」


 大首長のセミールは、腰を落とし優しく話しかけた。


「よくぞルーファに戻った。そなたは《砂漠の民》のためにその身を捧げ、ルーファ首長家の娘として立派に役目を果たした。このセミール、誇りに思うぞ」

「お祖父様……」

「そして、テノリア王国第3王女リティア殿下を、よくぞルーファにお連れ申した。役目、大儀であった。褒めてつかわす」

「そんな! ……リティアは私の娘です! 首長家の娘です!」

「リティア殿下……」

「はっ。大お祖父様」

「よくぞ、ルーファにお運びいただいた。《聖山の民》の王女殿下よ」


 エメーウが、リティアの腕を力いっぱいに握った。


「リティア!」

「母上……」


 指が喰い込まんばかりに握り締めるエメーウの手を、リティアはそっと撫でた。


「遊びに行きます! 北離宮に! 母上に寂しい思いはさせません! 必ず参上いたします!」


 その屈託のない笑顔に、エメーウは目を見開き、やがて項垂れた。


「きっとよ……、きっと来てね…………」


 侍女のセヒラに伴われ、エメーウは北離宮へと去った。

 その背中を見送るリティアの隣に、そっと近寄ったのは叔母のヨルダナであった――。
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