【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
187 / 307
第八章 旧都邂逅

175.無頼の母娘

しおりを挟む
 のんきな顔で湯に浸かる二頭の狼を見て、ルクシアが手を打った。


「そうかそうか! あんたが《無頼姫の狼少女》かぁ~!」

「あ、ええ……、まあ……」

「リティアの義妹いもうとに収まったかぁ~。うんうん、それは良かった」


 感無量といった様子で、何度も頷くルクシアに、アイカが恐る恐る問いかけた。

 渋滞が解消して、もとの人との関わりが苦手なアイカが顔をのぞかせている。


「……それで、なんでアイラさんを置いて家をでちゃったんですか?」

「ああ……」


 ルクシアも湯煙の向こうに、アイラの真剣な眼差しを見付けた。


「……アイラは聖山戦争が終わって3年後、私が44歳のときに出来た娘さ」


 アイラは18歳……。ということは、ルクシアは現在62歳かと、アイカは思ったが、テノリア王家の女性がいつまでも美しく若く見えるのには、もう慣れていた。

 68歳の王妃アナスタシアと58歳の第2王女ウラニアのちょうど中間くらい。そう思えば、むしろ年齢相応の大人の女性に見えなくもない……。

 などと考えながら、黙って頷く。


「親父は私が生まれた年に王太子を返上して、無頼に身を投じた。私が物心ついたときには大親分アレクとして《聖山の大地》を駆け回ってた」

「へぇ~」

「ま。ありていに言えば、聖山戦争の裏で暗躍してたって訳だ。私も15歳の頃――追贈女王オリガ陛下が崩御された頃には、親父の名代としてアチコチ駆けずり回ってた」


 ルクシアは楽しかった日々を思い返すように、目を細めた。


「カリュの親父、マテオともアルナヴィス戦役の時から顔見知りだ」

「えっ?」と、カリュが声をあげた。

「赤ん坊だったカリュを抱いたこともあるんだぜ?」


 と、顔に浮かべた笑顔は見覚えある悪戯っぽいもので、たしかにテノリア王家の血統を示しているように、アイカには思えた。


「ヴールのアーロンは、親父のハビエルがヴール戦役当時の知り合いで、何度も飲んだことがある」

「そうでしたか」


 と、チーナが真面目な表情を崩さずに頷いた。


「……聖山三六〇列侯を、どれひとつ滅ぼさずに王国に参朝させた裏には、親父や私、シモンやチリッサなんかの、無頼の働きがあったって訳だ」


 ルクシアは照れ隠しのような苦笑いを浮かべた。


「話が脱線しちまったが、要するに生まれた時から無頼として育って、走り回って、ついに聖山戦争が終結して、ポケッと過ごしてたら娘が出来ちまった。……いや、相手とは惚れあってたし嬉しかったんだが、……その相手が、アイラが生まれる前に病いでポックリ死んじまった……」


 アイラは表情にこそ驚きを浮かべている。

 が、口には出さず真剣に母ルクシアの話を聞いている。


「そしたらだ、親父が急に、私に、この無頼の世界しか知らない私に、王家に戻れとぬかしやがった。……いやぁ、喧嘩したした。丸5年。お互い一切折れないし、口をきかないなんて器用なマネも出来ないから、ずっと喧嘩してた」


 ルクシアは鼻の頭をかいた。


「見かねたシモンが私とアイラを自分の家に引き取って……、でまあ、アイラも5歳だ。5歳といえば立派に分別もつく歳だし、私は家を出た……って訳だ」


 ――5歳で分別は、無理では?


 と、アイカは思ったが、話を聞いている面々は「さすが聖山戦争世代は言うことが違う」と、呆れ気味に敬意を抱いていた。

 それは、娘のアイラも同様であった。

 ルクシアがそのアイラを真っ直ぐ見詰めた。


「ずっと《聖山の大地》を旅して過ごした13年だからよ、王都に戻ってるときはアイラの顔も見てたんだ」

「そっか……」

「そんなに寂しがってくれてたんなら、声くらいかけたら良かった。気の効かない母親ですまなかった」


 と、ルクシアは湯面に鼻をつけて、頭を下げた。

 アイカが、ススススッとアイラに近寄った。


「……どうですか?」

「ん?」

「お母さんの話、納得できました?」

「納得なんかする訳ないだろっ!」


 と、アイラが大笑いした。


「……アイラさん」

「でも、お母さんにはお母さんの人生があって、しかも、私を捨てたつもりはなかった。じゃあ、それでいいんじゃないか?」


 アイラはニヤリと笑った。

 どことなく悪戯っぽい《王家の笑い》のように、アイカは感じた。

 カリュもアイラに近寄り、肩に手を置き微笑んだ。アイラは先輩に認められたような照れくささを覚えて、顔に赤味がさす。

 湯の中で触れ合う大きな胸同士に、アイカの目は釘付けになっていたが、そんな場合ではないと断腸の思いで振り切る。

 アイカはルクシアに向き直った。


「それで、ルクシアさんはこれからどうされるんですか?」

「そうだなぁ……。王家の内輪揉めに首突っ込む気にもならないし、しばらく他国よそを旅すっかなぁ」

「それならっ!」


 と、思わず出てしまった大声に、アイカは頬を赤くした。


「……それなら、提案があるんですけど……」


 ひかえめな小声ながら、確たる意志を持って人と交わるアイカを、ヒメ様がにこやかに見守り続けていた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...