276 / 307
第十一章 繚乱三姫
261.繚乱三姫
しおりを挟む
西方会盟最後の列候領フィエラを包囲する、ロマナ率いる西南伯軍にあって、
アイカはリティアの檄文を受取り、ただちに旧都に向かうと決める。
しかし、ロマナが唇を尖らせた。
「……最後まで見ていかぬのか?」
「そんな、寂しそうにしないでくださいよぉ~。すぐです! すぐ! どうせリティア義姉様からすぐ集合がかかりますって!」
「ん~~っ! 抱っこさせろ、抱っこ!」
「んもぉ~~~~っ!! ……ちょっとだけですよ?」
「……だ、出し惜しみするなよぉ」
「なに言ってるんですか? はい、どうぞ!!」
と、両腕をひろげるアイカ。
求められると、すこし勝手が違うのだがと苦笑いを浮かべながら、ロマナはアイカを抱き締めた。
「すぐですよ、すぐ。もうすぐです」
「うん……、そうだな」
「王都で会いましょう」
「ああ、楽しみだ」
「はいっ!」
*
ながい旅をともに戦ってきた、歴戦の将兵を従えた堂々たる行軍。
アイカは旧都テノリクアに入城した。
緋色のドレスを身にまとい、桃色の長い髪をたなびかせ、無機質な表情で天を見据える黄金色の瞳。
精強な兵士と二頭の狼を随従させ、公宮へと続く街路を粛然とすすむ。
威厳と美貌は、伝統を重んじる偏屈な旧都の民をしても思わず膝を突かせ、アイカの行軍を仰ぎみる。
王国の歴史が刻み込まれた重厚にして瀟洒な公宮。
その前では屈強なる第2王子ステファノスとヴィツェ太守ミハイが、ともに片膝を突き、かしずいてアイカを出迎えた。
「わが妹リティアが義妹にしてザノクリフ女王、イエリナ=アイカ陛下。ご到着をお待ちしておりました」
「テノリアの偉大なる国王であられたファウロス陛下の庶長子、聖山戦争における勇名たかき、第2王子ステファノス殿下からの丁重なるお出迎え。このイエリナ=アイカ、ふかく感謝いたします」
王太后カタリナの協賛を受け、旧都テノリクアの主座に就いたアイカは、
《無頼姫の狼少女》こと第3王女義妹アイカが、ザノクリフ女王イエリナ=アイカその人であることを正式に布告した。
そして、
――義姉リティアを援け、テノリア王国平定の一助とならん。
と、その意志を明らかにした。
また、ほぼ同時にコノクリア王国から送られた《草原兵団》1万の兵が旧都に着陣する。
煌びやかな鎧を身にまとい、わかく意気軒昂な兵団を率いるのは――、
「アナスタシア陛下――っ!!」
「ノンノン」
「ノンノン?」
「イエリナ=アイカ陛下。わたしはコノクリア王国草原兵団の鎮東将軍、ナーシャでありますぞ?」
「……ち、鎮東将軍? ナーシャ?」
「左様。バシリオス陛下の勅命により、アイカ殿下の援軍に参りました」
「んもぅ! ナーシャさ――っん!」
と、胸に飛び込み、
「痛った……」
「よ、鎧を着こんでおるからの……。なんか、すまんの。大丈夫か? たんこぶになどなっておらぬか? たんこぶ姫にはなっておらぬか?」
「もう! ……たんこぶ姫って」
なごやかに笑い合うナーシャとアイカ。
この草原兵団の旧都着陣にあわせ、コノクリア王国の建国、およびバシリオスの王位登極が公表される。
蜂の巣をつついたような騒ぎになる王国全土に向け、さらに、
バシリオスは、ルカスの即位に与えた賛同を、取り下げる意向を明らかにした。
また、王太子決起の真相もあわせて布告され、配下の筆頭万騎兵長ピオンがなした暴挙への遺憾の意を表し、
即位賛同への撤回とあわせ、
バシリオスのテノリア王家からの離脱が宣言された。
王都ヴィアナの国王宮殿では、
「ザノクリフ王国!? コノクリア王国!? ルカスの即位賛同取り消し!? 次から次に、なんなんだ!? これは!?」
と、怒鳴り散らす摂政サミュエルの姿に、ペトラが冷ややかな眼差しを向ける。
――父ルカスの命運もこれまでか。どうせ、ながく会えてもおらんが……。大神殿で享楽に耽りつづけ、どんなひどい有り様になっておることやら……。
くわえて、サミュエルを錯乱状態にまで追いやる打撃をあたえたのは、
コノクリア王国から発せられた、
《リーヤボルク王アンドレアス虜囚》
の布告であった。
「なんだと……、アンドレアスが? ……本軍15万が潰滅とは、なんだ? ……なにがどうすれば、そんなことに? マタイスはなにをしておった? ……レオナールは? ……マエルはどこに行ったのだ?」
消え入るような呟きを垂れ流し、茫然と立ち尽くすサミュエル。
すべての布告が、あまねく《聖山の大地》に知れ渡ったころ、
ロマナはフィエラを陥落させた。
西方会盟に参加していたすべての列候領が、西南伯ロマナの手に落ちた。
時を同じくして、王国南方の雄アルナヴィスのリティアへの帰順が布告され、
アルナヴィス軍は新都メテピュリアに入城する。
「つよ~っい! アルナヴィスの兵よ! 待っておったぞ!!」
というリティアの呼び掛けに、感無量になるアルナヴィス軍。士気は高い。
また、ルーファに渡る際に協力したフェトクリシスも、リティアへの帰順を表明。
これにより――、
新都メテピュリアの北にミトクリア、〈審神の郷〉フェトクリシス、南にラヴナラ、アルナヴィスに至る、テノリア王国の東半分を、
《天衣無縫の無頼姫》リティアが手中に収める。
そして、ヴールから西南伯幕下六〇列侯領、第1王女ソフィアの嫁ぎ先バンコレア、シュリエデュクラ、ペノリクウス、交易の大路に面したフィエラに至る、王国の西半分は、
《清楚可憐の蹂躙姫》ロマナが制圧し威服せしめた。
さらに、ザノクリフ王国、コノクリア王国から聖山テノポトリの麓、旧都テノリクアを中心とした王国の北辺が、
《奇想天外の救国姫》アイカに従う。
わかく美しい三姫が、王国全土の覇権を三分して握り、圧倒的な武力で君臨する。
のこすは交易の大都、大地の心臓、王国の絢爛たる繁栄を象徴する王都ヴィアナの行く末のみ。
《聖山の大地》の命運は、繚乱と咲き誇る三姫の可憐なその手に握られた。
無頼姫リティア、蹂躙姫ロマナ、救国姫アイカ、――繚乱三姫が、
王都にむけて進軍を開始する。
アイカはリティアの檄文を受取り、ただちに旧都に向かうと決める。
しかし、ロマナが唇を尖らせた。
「……最後まで見ていかぬのか?」
「そんな、寂しそうにしないでくださいよぉ~。すぐです! すぐ! どうせリティア義姉様からすぐ集合がかかりますって!」
「ん~~っ! 抱っこさせろ、抱っこ!」
「んもぉ~~~~っ!! ……ちょっとだけですよ?」
「……だ、出し惜しみするなよぉ」
「なに言ってるんですか? はい、どうぞ!!」
と、両腕をひろげるアイカ。
求められると、すこし勝手が違うのだがと苦笑いを浮かべながら、ロマナはアイカを抱き締めた。
「すぐですよ、すぐ。もうすぐです」
「うん……、そうだな」
「王都で会いましょう」
「ああ、楽しみだ」
「はいっ!」
*
ながい旅をともに戦ってきた、歴戦の将兵を従えた堂々たる行軍。
アイカは旧都テノリクアに入城した。
緋色のドレスを身にまとい、桃色の長い髪をたなびかせ、無機質な表情で天を見据える黄金色の瞳。
精強な兵士と二頭の狼を随従させ、公宮へと続く街路を粛然とすすむ。
威厳と美貌は、伝統を重んじる偏屈な旧都の民をしても思わず膝を突かせ、アイカの行軍を仰ぎみる。
王国の歴史が刻み込まれた重厚にして瀟洒な公宮。
その前では屈強なる第2王子ステファノスとヴィツェ太守ミハイが、ともに片膝を突き、かしずいてアイカを出迎えた。
「わが妹リティアが義妹にしてザノクリフ女王、イエリナ=アイカ陛下。ご到着をお待ちしておりました」
「テノリアの偉大なる国王であられたファウロス陛下の庶長子、聖山戦争における勇名たかき、第2王子ステファノス殿下からの丁重なるお出迎え。このイエリナ=アイカ、ふかく感謝いたします」
王太后カタリナの協賛を受け、旧都テノリクアの主座に就いたアイカは、
《無頼姫の狼少女》こと第3王女義妹アイカが、ザノクリフ女王イエリナ=アイカその人であることを正式に布告した。
そして、
――義姉リティアを援け、テノリア王国平定の一助とならん。
と、その意志を明らかにした。
また、ほぼ同時にコノクリア王国から送られた《草原兵団》1万の兵が旧都に着陣する。
煌びやかな鎧を身にまとい、わかく意気軒昂な兵団を率いるのは――、
「アナスタシア陛下――っ!!」
「ノンノン」
「ノンノン?」
「イエリナ=アイカ陛下。わたしはコノクリア王国草原兵団の鎮東将軍、ナーシャでありますぞ?」
「……ち、鎮東将軍? ナーシャ?」
「左様。バシリオス陛下の勅命により、アイカ殿下の援軍に参りました」
「んもぅ! ナーシャさ――っん!」
と、胸に飛び込み、
「痛った……」
「よ、鎧を着こんでおるからの……。なんか、すまんの。大丈夫か? たんこぶになどなっておらぬか? たんこぶ姫にはなっておらぬか?」
「もう! ……たんこぶ姫って」
なごやかに笑い合うナーシャとアイカ。
この草原兵団の旧都着陣にあわせ、コノクリア王国の建国、およびバシリオスの王位登極が公表される。
蜂の巣をつついたような騒ぎになる王国全土に向け、さらに、
バシリオスは、ルカスの即位に与えた賛同を、取り下げる意向を明らかにした。
また、王太子決起の真相もあわせて布告され、配下の筆頭万騎兵長ピオンがなした暴挙への遺憾の意を表し、
即位賛同への撤回とあわせ、
バシリオスのテノリア王家からの離脱が宣言された。
王都ヴィアナの国王宮殿では、
「ザノクリフ王国!? コノクリア王国!? ルカスの即位賛同取り消し!? 次から次に、なんなんだ!? これは!?」
と、怒鳴り散らす摂政サミュエルの姿に、ペトラが冷ややかな眼差しを向ける。
――父ルカスの命運もこれまでか。どうせ、ながく会えてもおらんが……。大神殿で享楽に耽りつづけ、どんなひどい有り様になっておることやら……。
くわえて、サミュエルを錯乱状態にまで追いやる打撃をあたえたのは、
コノクリア王国から発せられた、
《リーヤボルク王アンドレアス虜囚》
の布告であった。
「なんだと……、アンドレアスが? ……本軍15万が潰滅とは、なんだ? ……なにがどうすれば、そんなことに? マタイスはなにをしておった? ……レオナールは? ……マエルはどこに行ったのだ?」
消え入るような呟きを垂れ流し、茫然と立ち尽くすサミュエル。
すべての布告が、あまねく《聖山の大地》に知れ渡ったころ、
ロマナはフィエラを陥落させた。
西方会盟に参加していたすべての列候領が、西南伯ロマナの手に落ちた。
時を同じくして、王国南方の雄アルナヴィスのリティアへの帰順が布告され、
アルナヴィス軍は新都メテピュリアに入城する。
「つよ~っい! アルナヴィスの兵よ! 待っておったぞ!!」
というリティアの呼び掛けに、感無量になるアルナヴィス軍。士気は高い。
また、ルーファに渡る際に協力したフェトクリシスも、リティアへの帰順を表明。
これにより――、
新都メテピュリアの北にミトクリア、〈審神の郷〉フェトクリシス、南にラヴナラ、アルナヴィスに至る、テノリア王国の東半分を、
《天衣無縫の無頼姫》リティアが手中に収める。
そして、ヴールから西南伯幕下六〇列侯領、第1王女ソフィアの嫁ぎ先バンコレア、シュリエデュクラ、ペノリクウス、交易の大路に面したフィエラに至る、王国の西半分は、
《清楚可憐の蹂躙姫》ロマナが制圧し威服せしめた。
さらに、ザノクリフ王国、コノクリア王国から聖山テノポトリの麓、旧都テノリクアを中心とした王国の北辺が、
《奇想天外の救国姫》アイカに従う。
わかく美しい三姫が、王国全土の覇権を三分して握り、圧倒的な武力で君臨する。
のこすは交易の大都、大地の心臓、王国の絢爛たる繁栄を象徴する王都ヴィアナの行く末のみ。
《聖山の大地》の命運は、繚乱と咲き誇る三姫の可憐なその手に握られた。
無頼姫リティア、蹂躙姫ロマナ、救国姫アイカ、――繚乱三姫が、
王都にむけて進軍を開始する。
76
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる