【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第十一章 繚乱三姫

261.繚乱三姫

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 西方会盟最後の列候領フィエラを包囲する、ロマナ率いる西南伯軍にあって、

 アイカはリティアの檄文を受取り、ただちに旧都に向かうと決める。

 しかし、ロマナが唇を尖らせた。


「……最後まで見ていかぬのか?」

「そんな、寂しそうにしないでくださいよぉ~。すぐです! すぐ! どうせリティア義姉ねえ様からすぐがかかりますって!」

「ん~~っ! 抱っこさせろ、抱っこ!」

「んもぉ~~~~っ!! ……ちょっとだけですよ?」

「……だ、出し惜しみするなよぉ」

「なに言ってるんですか? はい、どうぞ!!」


 と、両腕をひろげるアイカ。

 求められると、すこし勝手が違うのだがと苦笑いを浮かべながら、ロマナはアイカを抱き締めた。


「すぐですよ、すぐ。もうすぐです」

「うん……、そうだな」

「王都で会いましょう」

「ああ、楽しみだ」

「はいっ!」


   *


 ながい旅をともに戦ってきた、歴戦の将兵を従えた堂々たる行軍。

 アイカは旧都テノリクアに入城した。

 緋色のドレスを身にまとい、桃色の長い髪をたなびかせ、無機質な表情で天を見据える黄金色の瞳。

 精強な兵士と二頭の狼を随従させ、公宮へと続く街路を粛然とすすむ。

 威厳と美貌は、伝統を重んじる偏屈な旧都の民をしても思わず膝を突かせ、アイカの行軍を仰ぎみる。

 王国の歴史が刻み込まれた重厚にして瀟洒な公宮。

 その前では屈強なる第2王子ステファノスとヴィツェ太守ミハイが、ともに片膝を突き、かしずいてアイカを出迎えた。


「わが妹リティアが義妹にしてザノクリフ女王、イエリナ=アイカ陛下。ご到着をお待ちしておりました」

「テノリアの偉大なる国王であられたファウロス陛下の庶長子、聖山戦争における勇名たかき、第2王子ステファノス殿下からの丁重なるお出迎え。このイエリナ=アイカ、ふかく感謝いたします」


 王太后カタリナの協賛を受け、旧都テノリクアの主座に就いたアイカは、

 《無頼姫の狼少女》こと第3王女義妹アイカが、ザノクリフ女王イエリナ=アイカその人であることを正式に布告した。

 そして、


 ――義姉リティアを援け、テノリア王国平定の一助とならん。


 と、その意志を明らかにした。

 また、ほぼ同時にコノクリア王国から送られた《草原兵団》1万の兵が旧都に着陣する。

 煌びやかな鎧を身にまとい、わかく意気軒昂な兵団を率いるのは――、


「アナスタシア陛下――っ!!」

「ノンノン」

「ノンノン?」

「イエリナ=アイカ陛下。わたしはコノクリア王国草原兵団の鎮東将軍、ナーシャでありますぞ?」

「……ち、鎮東将軍? ナーシャ?」

「左様。バシリオス陛下の勅命により、アイカ殿下の援軍に参りました」

「んもぅ! ナーシャさ――っん!」


 と、胸に飛び込み、


った……」

「よ、鎧を着こんでおるからの……。なんか、すまんの。大丈夫か? たんこぶになどなっておらぬか? たんこぶ姫にはなっておらぬか?」

「もう! ……たんこぶ姫って」


 なごやかに笑い合うナーシャとアイカ。

 この草原兵団の旧都着陣にあわせ、コノクリア王国の建国、およびバシリオスの王位登極が公表される。

 蜂の巣をつついたような騒ぎになる王国全土に向け、さらに、

 バシリオスは、ルカスの即位に与えた賛同を、取り下げる意向を明らかにした。

 また、王太子決起の真相もあわせて布告され、配下の筆頭万騎兵長ピオンがなした暴挙への遺憾の意を表し、

 即位賛同への撤回とあわせ、

 バシリオスのテノリア王家からの離脱が宣言された。


 王都ヴィアナの国王宮殿では、


「ザノクリフ王国!? コノクリア王国!? ルカスの即位賛同取り消し!? 次から次に、なんなんだ!? これは!?」


 と、怒鳴り散らす摂政サミュエルの姿に、ペトラが冷ややかな眼差しを向ける。


 ――父ルカスの命運もこれまでか。どうせ、ながく会えてもおらんが……。大神殿で享楽に耽りつづけ、どんなひどい有り様になっておることやら……。


 くわえて、サミュエルを錯乱状態にまで追いやる打撃をあたえたのは、

 コノクリア王国から発せられた、


《リーヤボルク王アンドレアス虜囚》


 の布告であった。


「なんだと……、アンドレアスが? ……本軍15万が潰滅とは、なんだ? ……なにがどうすれば、そんなことに? マタイスはなにをしておった? ……レオナールは? ……マエルはどこに行ったのだ?」


 消え入るような呟きを垂れ流し、茫然と立ち尽くすサミュエル。

 すべての布告が、あまねく《聖山の大地》に知れ渡ったころ、

 ロマナはフィエラを陥落させた。

 西方会盟に参加していたすべての列候領が、西南伯ロマナの手に落ちた。

 時を同じくして、王国南方の雄アルナヴィスのリティアへの帰順が布告され、

 アルナヴィス軍は新都メテピュリアに入城する。


「つよ~っい! アルナヴィスの兵よ! 待っておったぞ!!」


 というリティアの呼び掛けに、感無量になるアルナヴィス軍。士気は高い。

 また、ルーファに渡る際に協力したフェトクリシスも、リティアへの帰順を表明。

 これにより――、


 新都メテピュリアの北にミトクリア、〈審神さにわさと〉フェトクリシス、南にラヴナラ、アルナヴィスに至る、テノリア王国の東半分を、

 《天衣無縫の無頼姫》リティアが手中に収める。


 そして、ヴールから西南伯幕下六〇列侯領、第1王女ソフィアの嫁ぎ先バンコレア、シュリエデュクラ、ペノリクウス、交易の大路に面したフィエラに至る、王国の西半分は、

 《清楚可憐の蹂躙姫》ロマナが制圧し威服せしめた。


 さらに、ザノクリフ王国、コノクリア王国から聖山テノポトリの麓、旧都テノリクアを中心とした王国の北辺が、

 《奇想天外の救国姫》アイカに従う。


 わかく美しい三姫さんきが、王国全土の覇権を三分して握り、圧倒的な武力で君臨する。

 のこすは交易の大都、大地の心臓、王国の絢爛たる繁栄を象徴する王都ヴィアナの行く末のみ。

 《聖山の大地》の命運は、繚乱と咲き誇る三姫の可憐なその手に握られた。



 無頼姫リティア、蹂躙姫ロマナ、救国姫アイカ、――繚乱三姫が、

 王都にむけて進軍を開始する。
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