【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
296 / 307
最終章 聖山桃契

280.時を刻んでもらうがため

しおりを挟む
 ペトラは北離宮の奥の部屋へと、リティアたちを招き入れた。

 近侍の者たちにも部屋に近付くことを禁じて人払いをし、扉を堅く閉めた。

 かつて部屋にはルーファ産の豪華な調度品がならんでいたが、リーヤボルクの蛮兵たちに盗み出されてしまったのであろう、

 簡素な丸テーブルと椅子だけが無造作に置かれていた。

 リティアにとっては母エメーウとの思い出ぶかい一室でもあったが、いまは忘れることにしてペトラを見詰める。

 そして、ペトラの勧めるまま、踊り巫女姿の三姫とファイナが椅子に腰をおろし、ともにテーブルを囲んだ。

 静けさが5人の女性王族に、ぬらりと絡みつくような重たさを感じさせる。

 しかし、ペトラは内心の動揺を押さえ込んだ微笑をたたえ、妹ファイナに声をかけた。


「……久しいの、ファイナ。今はどうしておるのじゃ?」

「ロマナ様に保護していただいております」


 ファイナは、今にも叫びながら姉ペトラにしがみ付き「一緒に王都を出ましょう!」と訴えたいのをグッとこらえた。

 まずは、ペトラとゆっくり話をしようと、三姫から言い含められている。


 ――ペトラの覚悟は、情理を超えたところに置かれている。


 と言われては、その通りだとしか、ファイナにも思えなかった。

 ペトラはぎこちない笑みを、ロマナに向けた。

 大軍を率いるとはいえ、いまだペトラにとってロマナは〈列候の娘〉である。


「……公女殿。ファイナが世話になっておるようで、私からも礼を申したい」

「いえ……、ペトラ殿下のご苦難を思えば、この程度のこと誇れるようなことではございません」


 と、踊り巫女姿のロマナが恭しく頭を下げると、ペトラの眉がピクリと動いた。

 その表情を見て、ロマナは静かに話を続けた。


「リーヤボルクめに祖父ベスニクを囚われ、王都に偵人を潜ませておりました」

「……当然のことにございましょう」

「偵人から届く断片的な報告からだけでも、ペトラ殿下の気高きお振る舞いに、ふかい感銘を受けておりました」

「……それは、過分なお言葉。痛み入ります」

「ペトラ殿下のご苦難、身を挺して王国を守られた誇り高き行いは、遠くヴールの地まで鳴り響いております」

「そのような、ではございません……」


 と、ペトラの声に自嘲が帯びようとしたとき、アイカが口をひらいた。


「旧都のカタリナ陛下もっ! ……ペトラ殿下のお祖母さまであるアナスタシア陛下も……、ずっと、ずぅ――っと、ペトラ殿下のことを案じていらっしゃいます」


 内親王たる妹ファイナが、公女ロマナの庇護下にあって恥じるところを見せないこと以上に、

 アイカの存在は理解に苦しむ。

 報告は受けている。


 ――リティアが義姉妹しまいの契りを与えた。

 ――ザノクリフの新女王イエリナ=アイカと同一人物であった。

 ――バシリオスが草原に建国したコノクリア王国を援けた。


 しかし、ペトラの記憶の中では、まだまだリティアの可愛がる内気な少女、《無頼姫の狼少女》としての印象の方が強い。

 審神みわけを受けたカタリナはともかく、祖母アナスタシアの名にも親しみがこもる理由が理解できない。

 ただ、


 ――王都の外で、時を刻んでもらうがための、わが苦難の道であった。


 と思えば、状況に取り残されているように感じることには、むしろ心が満たされた。

 自分が実感することは出来ないが、この桃色髪の少女は、王国の要人となり、みなから愛されているのであろう。

 きっと、自分とはまったく違う苦難の道を歩んだ末に、ひかり輝く御座に就いたのだ。


「いや……、玉座か」


 と、ペトラはクスリと笑った。


「アイカ殿どの……、いえ、アイカ陛下。ザノクリフ女王におなりあそばされたとか。まことに、おめでとうございます」

「あ、いえ、そんな……、ありがとうございます」

「カタリナ陛下を通じ、われらとも血縁があったとは、不思議なご縁です」

「……そうですね」

「ザノクリフ王国は、わがテノリア王国の建国に賛意を与えてくださった要国。どうぞ末永い友好関係を、わたしからもお願い申し上げます」


 アイカに対してふかく頭をさげたペトラに、


「お姉様! いますぐ、このまま北に走り王都を出ましょう!」


 と、ファイナが悲鳴を上げるように訴えた。

 穏やかに語るペトラの、アイカへの申し様に「自分のいなくなったテノリア王国を託す」という響きを感じとり、耐えることが出来なくなったのだ。

 瞳にいっぱいの涙をためたファイナに、ペトラは優しく微笑みかけた。


「わたしは行かぬ。……行ってはならんのだ」


 穏やかな響きのする声、やわらかな拒絶。

 ファイナはそれ以上に言葉を継ぐことが出来なかった――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...