【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

42.愛おしい図面(2)

「避難してる皆みなさんの仮設住宅かせつじゅうたくの件で、進捗しんちょくを確認したくて」

という、俺の言葉にミンリンさんは、いそいそと図面を取り出して俺の前に広げた。

そして、俺のピッタリ横に回って、膝ひざをつき、図面を指差ゆびさしながら説明し始めてくれたんだけど……、その四よつん這ばい的な姿勢しせい、……お好きですね。湯船でも見ました。ワザとですか？

すぐ横に来たミンリンさんからは、いい香りもして気が散ちったけど、説明は分かりやすい。

最小限さいしょうげんの資材しざいで、最短さいたんで建たてられて、ある程度のプライバシーも守られる。コンセプトも完璧かんぺきだと思う。

そして何より、万一まんいち、人獣じんじゅうの侵入しんにゅうを許してしまったとき、障害物しょうがいぶつになるような仕掛しかけと配置はいちが工夫くふうされてる。これは、想像以上だ。

ただ、そうか。俺がＯＫを出さないと進まない感じか。城主の代行だいこうって、こういうことだな。ちょっと肩かたにズシッとくるものがあったけど、今は気にしても仕方ない。

「とてもいいと思います！ 素晴らしいです！ これで進めましょう」

と、俺が言うと、ミンリンさんは嬉うれしそうな顔を見せてくれた。褒ほめられ慣なれてないけど、褒められて嬉しい感じが可愛らしい、年上のお姉さんだ。

そして、文机ふづくえから別の書類を出して、俺に見せてくれた。

「こちらの建物たてものを作るのに必要な資材を書き出しております。シーシも確認済かくにんずみです。こちらを司徒しとのウンラン様に許可いただいて……」

あ、これ。苦手な手続てつづきなんだな。というのが、気配けはいで分かった。あの、人の良さそうな小太こぶとりのウンランさんが苦手というより、手続きや交渉こうしょうすること自体が苦手なんだろうな。

「分かりました。ウンランさんは、資材管理担当のスイランさんに、俺の要望ようぼうには全部従したがうように言ってくれてるそうです。なので、俺からスイランさんに言ったので大丈夫ですよね？」

「そうですか。ええ、大丈夫だと思います」

ホッとした表情になった。想像そうぞうだけど、本当に図面を描かくことだけが好きなんだろうな。

「それでは、私は資材が届き次第しだい、建造けんぞうにかかるよう指示を出しておきます」

ふと気になって、部屋中に吊つり下げられてる、たくさんの図面について尋たずねた。どの図面にも、何度も書き加えた跡あとがある。

「すべて、このジーウォ城を改修かいしゅうするための図面です。城主さまは、そのために私を呼よび寄よせてくださったと言っても良いので……」

ミンリンさんは、人獣じんじゅうに襲おそわれた最初の晩ばんに亡なくなったという城主を、悼いたむ色を目に浮かべた。

「……女の身では、いくら土木どぼくや建築けんちくを学んでも、出世しゅっせは望のぞめませんし、大きな仕事に関わることも出来ません。あ、王都にいる頃ころの話です。城主さまは、そんな私を見付けてくださって、辺境へんきょうの城とはいえ、司空しくうだなんて身に余る役職やくしょくに就つけてくださいました」

「優しい方だったんですね」

「はいっ！ 私、嬉しくて、楽しくて、こんなに図面を描かいてしまって。城主さまも嬉しそうに、ひとつひとつ丁寧ていねいにご覧らんくださって……。なのに……」

ミンリンさんは一瞬、切せつなそうな表情で、口元くちもとをキュッと締しめた。

「ほんとうに……、悔くやしくて」

９歳年上のお姉さんが、恩人おんじんの死に心を痛いためている。形見かたみのようになった図面を、ひとつひとつ愛いとおしそうに眺ながめている。城主を思い出しているのか、微かすかに笑えみを浮うかべている。

今の俺では、かける言葉は見付けられない。

せめて、出来ることを一生懸命いっしょうけんめいやろう。

一歩ずつ、一歩ずつ進めて、ミンリンさんに「さぁ！ 仇かたきを討うってやりましょう！」って言える時を迎むかえたい。

黙だまって図面を眺ながめ続けるミンリンさんの切せつなげな微笑ほほえみに、その想おもいを強くした。