【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

233.里佳の事情⑨

「どうか、マレビト様と結ばれていただけませんでしょうか」

と、私は居並いならぶ22人の純潔じゅんけつの乙女おとめたちに手をつき頭を下げた。

天帝てんていの言葉と佐藤さん初代マレビトの推論すいろんは見事に一致いっちしていた。もはや疑いの余地はない。

「あと23の霊縁れいえんが結ばれたら、あの世界の理ことわりは全て解とき明あかされると思うんだ」

と、佐藤さんは言った。

「え？ それは、どういう……？」

「マレビトが作った子ども、つまり結んだ霊縁はボクが76、２人目が９、３人目が４って言ったよね？」

「はい。そう伝わっています」

「里佳さんは人間の遺伝子、DNAが４つの塩基えんきで出来てるの知ってるよね？」

「はい。生物で習いました」

「アデニン、チミン、グアニン、シトシン。ＡＴＧＣの四文字で、地球の生物は表現されている」

「表現、ですか……？」

「そう。だけど時間の流れが28倍のあの世界ダーシャンでは、文字も28倍。112文字で表現されてるんじゃないかって思ったんだ」

「それって、すごくややこし……」

「そうなんだ、冗長じょうちょうすぎる。自然法則は全然違うのに起きてる現象は殆ほとんど同じ。春が来れば花が咲くし、水は上から下に流れる。同じことを表現するのに、文字をたくさん必要とするあの世界の神様は、相当なヘボ作家だと思うね」

「なるほど……」

「だけど、冗長だから歪ゆがみが生まれて、呪力じゅりょくなんてバグも使える訳わけだけど」

「確かにバグですね」

「76＋９＋４で89。あの世界の理ことわりが全部で112だとすると、残りは23だと思うんだ」

そして、天帝は残り22だと言った。私を通じて結ばれた霊縁が１つ理ことわりを解き明かしたからだ。

純潔じゅんけつの乙女おとめたちは皆みな一様いちように戸惑とまどいの表情を浮かべている。

「私たちの子や孫に再び人獣じんじゅうのような、怖い思いをさせたくないのです」

と、語り掛けるが、私の個人的な都合もある。

勇吾と再会するという最初の目標を果たし、思いがけず天帝と会えたあと、これからのことを話し合った。

「適度てきどなところでお別れするというのがひとつ」

「それは、イヤだな……」

と、勇吾は言った。

「ダーシャンこっちで私は80年は生きられると思う。でも私がお婆ばあちゃんになってるとき勇吾はまだ21歳にもなってない」

「そうか……」

「呪術じゅじゅつを研究して、もう一度、日本あっちに戻れたとしても、ダーシャンこっちの私の寿命じゅみょうが尽つきる21歳の頃に、里佳の寿命も尽きると思うの」

「そ、それは、もっとイヤだ」

「ごめんね……。ややこしい女で……」

「ややこしいが過ぎるわ」

と、勇吾は笑ってくれたけど、本当に申し訳ない。だけど好き合っているからこそ、ベストな形を２人で探さぐりたい……。

「勇吾はマレビトとしての呪力じゅりょくで帰ることが出来ると思うの。人獣じんじゅうは退しりぞけた訳だし……」

「うん……」

「だから、出来る方法は２つ」

「２つ？」

「こっちで満足するまで２人の時間を楽しんで、勇吾は１人で帰る」

「うん……。もう一つは？」

「すべての理ことわりを解き明かして、こっちの神様になる」

「え？」

「すべての理ことわりを解き明かした存在って神様でしょ、それはもう」

「だけど……」

「神様になれば、なんかもっとスゴいこと出来ると思うのよね。ブワッと」

「うわっ。肝心かんじんなとこ曖昧あいまい」

「だって、神様になったことないし」

「それはそうだけど」

「もちろん、勇吾が１人で帰っても、全然、恨うらまない」

「……すべての理ことわりを解き明かすって、あと22の霊縁れいえんを結むすぶ。要するに、あと22人と……、するっていうことだよね……？」

「うん、そう」

「うーん……」

「側室そくしつになってくれた純潔じゅんけつの乙女おとめも22人。私は祖霊の、ひいては天帝の、強い意志を感じてる」

勇吾は考え込んだまま動かなくなってしまった。

「勇吾が決めてくれたのでいいから」

と、言って抱き締めると、勇吾も優しく抱いてくれた。いつかお別れがくるかもしれないと思うと、勇吾の肌の温もりをしっかり記憶に焼き付けておきたかった。

私の気持ちもグチャグチャだ。

勇吾の子どもを身籠みごもっている。だから、勇吾が１人で帰ることを選択しても大切に育てたい。

けれど、このままこの世界ダーシャンが続いても、その子どもを人獣じんじゅうのような怖い目に遭あわせてしまうだけかもしれない。

なにがベストな選択なのか、まったく分からない。

だから、勇吾を私と同じように大切に思ってくれている純潔じゅんけつの乙女おとめたちを頼ることにした。包つつみ隠かくさず、すべてを話した。それが勇吾の築いたジーウォのやり方だったし、何より私がひとりでは抱かかえ切きれなかったのだ。

彼女たちは、私の話を真剣に聞いてくれた。

「分かったのだ！！！」

と、紅あかい髪をしたシーシが仁王立ちで明るく声を上げた。

「マレビト様を口説くどいていいと、お妃きさき様からお許しが出たのだ！ 遠慮なく全力で口説くのだ！」

純潔じゅんけつの乙女おとめたちが笑いに包まれた。

「でも、もう色いろ仕掛じかけは通用しないから、なかなか難しいのだ」

純潔じゅんけつの乙女おとめたちは嬉々として、勇吾の攻略法を議論し始めた。

彼女たちがこうして勇吾マレビトを支え、あの危難に立ち向かってきたのだと、その情景じょうけいが思い浮かぶようだった。

「マレビト様が単なる性欲大魔神だったら、話は簡単だったのになあ」

と、緋色ひいろの髪をした衛士のメイユイがボヤいた。

「そんなマレビト様では好きにならなかったのだ！」

「それもそっか。てへっ」

そして、彼女たちは私のグチャグチャな気持ちも思い遣やってくれ、そっと輪の中に加えてくれる。

「勇吾は妙みょうなところでめんどくさいのよ」

と、私の言葉に皆みながドッとウケた。

「皆みんなが本当に望んでるんだって……、シキタリやなんかじゃなくて、１人の女子として結ばれたいって本当に望んでることを納得しないと、テコでも動かないと思う」

「とてもよく分かる……」

と、黄色い髪をしたシュエンが深く頷うなずいた。

「最初の１人が重要ですね」

ミンリンの呟つぶやきに、皆みんなの視線がアスマに集まった。

「わ、私か……？」

そして、私と純潔じゅんけつの乙女おとめたちは、アスマの故郷ふるさとに２人で旅立つアスマと勇吾を見送った。

アスマの幸せが私の幸せでもあるような、穏おだやかな気持ちで見送ることが出来たのは、純潔じゅんげつの乙女おとめたちのお陰だと思う――。