異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫

文字の大きさ
5 / 19

剣士のダン

しおりを挟む
 魔王城へと近づくほど、道は荒れ、野営の時間も増えていた。
 そのなかで、ライは勇者一行の剣士ダンと、自然と親しくなっていく。
 彼は大柄で無骨な見た目に反して、誰よりもお人好しな男でもあったのだ。
 幼馴染であるクリスを除いて、マクシムよりもルナよりもライは一番、ダンが一番接しやすいと感じていた。

 野営での夕餉をつくるのは、主にダンの役目でもあった。
「マクシムはいいとこの坊ちゃんで、ナイフを持ったこともないんだぜ?それにルナは味音痴だからな。だから俺が作っているうちに、少しはマシになっていったんだ!」
 初めてその料理を口にしたとき、ライはあまりの美味しさにダンに向けて礼を言っていた。
 ダンは照れたように鼻の下を擦り、ライに向けて笑ってみせた。

 ある日、ライはそのスープをひと口飲んで目を見開いていた。
「ダン!今日のスープ、すっごく美味しいんですけど……!」
 それは珍しい色をしていたものの、どこか馴染みのある、例えるならば生まれる前から知っていたような味でもあったのだ。
「そうか?味が濃すぎないか、少し心配だったんだが……」
 しかしライは、笑みを浮かべてその全てを飲み干した。

「全然、濃くないですよ?むしろあったかくて落ち着く味というか……。なんだか、ダンの性格が出てるみたいで……」
「そ、そうかぁ……?」
 大の男が、耳まで赤く染まっていく。
 その姿を目にして、ライはくすりと笑っていた。
「いつも美味しい料理を、ありがとうございます」
「いや、ライがそう言うんなら……これからも頑張るぜ」

 その日からガルドは、何かとライの好みに合わせようと、密かに努力をするのであった。

***

 ある日の戦闘中、ライがつまずき転倒しそうになった瞬間、ガルドは咄嗟にその身を抱き寄せていた。
「危ない、伏せろ!」
 その大きな体に覆うように守られたすぐ後に、ライの頬をかすめて一本の矢が飛んでいく。
「……ダン、ありがとう」
 抱き寄せられたその身の温もりは、ライの胸に強く残る。
 しかしそれ以上に、ガルドはライのその身の軽さに衝撃を受けていたのであった。
「お前、ちゃんと食ってるか?」
「えっ?いつも残さず食べてますけど……」
「それにしても、軽すぎやしないか?」
 ダンは無意識のうちにライの肌に触れていた。ダンに比べれば、ライの身はとても薄く、腕なども強く握ればすぐに折れてしまいそうなほどでもあった。

 そして、ダンは誓う。
「もっと、お前が大きくなるような飯を作るからな!」
「俺、子供じゃないんですけど……」
 しかしそのようなライの呟きは耳には届かず、ダンは料理に燃えるのであった。

 夕餉の仕込みをしながら、一人思う。
 剣士として仲間を守るのは、当然のことである。
 そのはずであるというのに、あのときライを抱き上げた瞬間だけ、胸が妙に熱かったと。

***

 ある、夜のことであった。
 珍しく、ライが焚き火の前で肩を落としていた。
 何事かとダンがその隣に座ると、ライは静かにダンを見上げてこう言った。
「……俺、皆の足を引っ張ってませんか?」
「誰が、そんなことを言ったんだ?」
 そう尋ねれば、ライは静かに首を振るだけであった。
「皆さんは、優しいので。……自分で、そう思っただけです。俺がいなかったら、もっと早く進めたのになって思うことが時々あるんです」
 そのような弱気な言葉に、思わずガルドは大きく首を振っていた。
「なーに馬鹿なこと言ってんだ?ライ、お前がいるから俺たちは安心して戦えるんだ。クリスもそうだが、回復魔法を受けると……俺は不思議と、もう一度やってやろう!って気になるんだ」
「ダン……」
「だから、そんなこと言うなよ?俺でよけりゃ、いつでも相談に乗るからよ」
 ダンのその笑みは、あまりにも優しいものであった。
 ライはつられて笑みを浮かべ、ダンに向けて頭を下げていた。

***

 またある夜、一行が寝静まる中、見張り役であるガルドはついライの寝顔を見つめていた。
「安心して、こんな顔で寝やがって」
 小さな寝息、少し乱れた黒い前髪。
 そのすべてが、たまらなく愛おしく思えてしまう。
 そう自覚した時には、手遅れであった。何をするにも、ライのことが頭から離れなかった。
 今でも、見張りを任せられているというのにその目はライのことだけを見つめていた。
「ああ、駄目だ……」
 ガルドは静かに視線をそらし、拳を強く握りしめた。
「もっと早く、お前に会いたかった」
 その身のように大きく膨らんだその想いは、もはや胸に押しとどめることができなくなっていたのである。

***

 魔王城が山を越えた向こうに見えはじめた、ある日のこと。
 荷物の整理をしていたライのもとへ、ダンは歩み寄っていた。
「ライ、ちょっと……いいか?」
「ダン……どうしたんですか?そんなに怖い顔をして」
「……いや、その……」
 ダンは顔を赤くして、今にも戦闘に行くのではないかというほどその目を鋭くしていたのであった。
「ダン?」
 思わずライが手を止めて、その大きな身を見上げていた。
 そしてダンは、意を決して言い放つ。
「俺、お前のことが……好きなんだ!」
 その瞬間、ライは驚いて息を呑む。
 ダンは、言葉を続けていた。
「飯を褒められるのも、守った時にしがみつかれるのも……。一緒に笑ったり、相談に乗ったりするのも……。全部、俺だけだと思っちまったんだ」
「ダン……」
 ライの目には、大きな戸惑いが浮かんでいた。
 その目を見つめて、ダンは静かに目を伏せる。
「わかってる。こんなことを言われても、迷惑にしかならないって。でも、言わないと……俺は前に進めないと思ったんだ」

 焚き火の音が、静かにふたりの間を満たしていた。

 ライはしばらくうつむいたまま、黙っていた。
 やがて、ゆっくりと顔を上げた。
「……その、ごめんなさい」
 ダンの肩が、わずかに落ちる。
「ダンのこと、大切な仲間として好きなんです。でも……それ以上には、きっとなれない」
「そうか」
「俺はまだ、自分のことで手一杯で……。誰かと恋愛をする余裕もなくて……」
 そのような言葉に、ダンは笑ってみせた。
 無理に明るく、しかし優しく。
「大丈夫だ!そんな気は、してたんだ。ライは優しいからな……誰か一人を選ぶのが、大変そうだ」
「……ほんとうに、ごめんなさい」
「謝んなって。俺は言えて、スッキリしたぜ?これからも仲間でいてくれれば、それでいい」
 そうダンは、ライの頭を軽く叩いた。
「もちろんです」
 ライは笑みを浮かべて、ダンの顔を見上げていた。

 ふたりは互いに、笑みを交わしていた。
 その微笑みの奥に、ダンはほんの少しの痛みを隠していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

処理中です...