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ゴブリンのグウ
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魔王城の中庭は、夕陽の赤で満ちていた。
石畳は温かな光を返し、その上では小さな影がひとつ、もうひとつと重なった。
レイは、いつものようにゴブリンとダークエルフとで追いかけ遊びをしていた。
魔界の空気によってすくすくと育てられたレイは、見た目こそ人間ではあるものの、その身のこなしは悪魔たちに近くもあったのだ。
「レイ、こっちだぞ……!」
「よーし、負けないよー!」
そう小さな手から逃げ回るのは、ゴブリンのグウであった。
背丈はレイより低く、緑の肌に大きな瞳。幼い頃からレイと一緒に遊び、泣き出す時には一番に駆け寄り、レイの笑顔を見れば同じく笑う、そのような存在であった。
しかし気づけばその笑顔を目にするだけで、グウはどこか胸が締め付けられるような気分に襲われていた。
***
その夜、魔王城の廊下で、グウはレイの寝室の前をうろついていた。
「今日も……、言えなかった……」
言いたい言葉が喉につかえたまま、帰れずにいたのである。
そのような姿を見つけたインキュバスのムウは、思わず背後から声をかける。
「どうしたの、グウ」
「ムウ様!……え、えっと……なんでもありません!」
そう走り去ろうとするその身を、ムウは笑みを浮かべて軽々と捕まえた。
「まーた、レイのことで何か悩んでるんだな?」
どきりとグウの胸は鳴り、気付けば耳の先まで赤くなってしまう。
「ち、違いますよ……。いや、その……」
そのような姿を目にして、ムウは穏やかな笑みを浮かべていた。
「大丈夫。レイは、お前のことを信頼してるよ?焦らなくていい。ゆっくり、お前の気持ちを伝えればいいんだ」
その言葉に、グウは静かに拳を握った。
「……伝えたい。レイに……」
「そう、その調子!じゃ、さっさと寝るんだぞー?」
颯爽と手を振るムウに頭を下げながら、グウは勇気を振り絞ることに決めたのであった。
***
翌日。
魔王の封印が弱まりつつあるせいか、城内はどこかざわついていた。
そのような中、レイがグウの肩を叩いた。
「ねえグウ、ちょっと手伝って!」
「な、なに?」
「魔王様の周りの結界、昨日崩れた部分があって。……少し、支えてくれると助かるんだ」
その頼られたという事実に、思わずグウの胸は熱くなる。
「レイの頼みなら、……なんだってするよ!」
結界の修復は、思ったよりも重労働であった。
互いに汗をかき、ついにその息は上がってしまう。
なおも頑張るレイの姿を横目に、グウも負けじと踏ん張っていた。
「グウ、すごいすごい!力強いし、器用だし、本当に助かるよ」
褒められるたび、その胸には痛いほどの喜びが広がる。
しかし同時に、ほの暗い思いも湧き上がる。
「レイが笑うのは……。誰にでも、なんだよな……」
魔王城の悪魔や魔物たちに、レイは分け隔てなく優しくもあったのだ。
その笑みを独占したいと思うのは、欲張りなのかもしれない。
それでも、グウの恋は止められなかった。
***
その日の夕方。
赤い光が塔の上に差し込む頃、グウはとうとうレイを呼び出していた。
「レイ。ちょっと、話があるんだ……」
「うん、どうしたの?」
そのようにいつもと変わらぬ笑顔を眩しく思いながら、グウは静かに息を吐いた。
しかし、決めたのだ。
「……レイ。……お前のこと、ずっと好きだったんだ」
そのような言葉に、レイは驚きに目を丸くしていた。
そして気まずさと、痛むような切なさがその顔には表れていたのだ。
「グウ……」
「ずっと前から……レイのこと、大事で。一緒にいたくて……でも、お前は誰にでも優しいから、どんどん好きになって……」
グウは息もつかず、なおも言葉を続けていた。
「……返事は、わかってる。わかってても……言いたかったんだ」
長い、沈黙が降りる。
風の音が塔の壁に当たり、何度もふたりの間をすり抜けていた。
レイは、ゆっくりとグウの肩を抱き寄せた。
「……ありがとう。言ってくれて。グウの気持ち、すごく嬉しいよ」
「……うん」
「でも、ごめん。グウのことは、友達として大好きなんだ。だから俺は、そういう好きには応えられない」
グウは目を伏せ、静かに涙を流していた。
それは、レイが初めて目にしたグウの涙でもあった。
「わかってたよ。わかってたけど……やっぱり、ちょっと……痛いな」
「本当に、ごめん。でもね」
レイは静かに、グウのその背を撫でていた。
「俺の一番の友達として、……家族みたいに。これからも側にいてくれたら、嬉しいな」
その言葉に、グウはしゃくりあげた。
そして震えはすぐに収まり、レイの胸元で小さく頷いた。
「……うん。友達でもいい。ずっと、……守ってあげるから……」
レイは、安心したように微笑んだ。
***
告白は、終わった。
恋が叶わないことも、わかっていたはずであった。
レイのその姿を見るだけで、グウの胸はなおも締め付けられてしまう。
「グウ、ご飯の時間だって!」
レイが、無邪気にその手を引く。
「お、おい……!引っ張るなって!」
しかしその手の温かさをこれからも感じられると思えるだけで、グウの胸は少しだけ軽くなるような気がしていた。
叶わない恋でも、レイが大切なことは変わらない。
そして自らもまた、レイの大切な仲間でいられる。
それでいい。
それで、いいのだと。グウは今日もレイと笑みを交わすのであった。
石畳は温かな光を返し、その上では小さな影がひとつ、もうひとつと重なった。
レイは、いつものようにゴブリンとダークエルフとで追いかけ遊びをしていた。
魔界の空気によってすくすくと育てられたレイは、見た目こそ人間ではあるものの、その身のこなしは悪魔たちに近くもあったのだ。
「レイ、こっちだぞ……!」
「よーし、負けないよー!」
そう小さな手から逃げ回るのは、ゴブリンのグウであった。
背丈はレイより低く、緑の肌に大きな瞳。幼い頃からレイと一緒に遊び、泣き出す時には一番に駆け寄り、レイの笑顔を見れば同じく笑う、そのような存在であった。
しかし気づけばその笑顔を目にするだけで、グウはどこか胸が締め付けられるような気分に襲われていた。
***
その夜、魔王城の廊下で、グウはレイの寝室の前をうろついていた。
「今日も……、言えなかった……」
言いたい言葉が喉につかえたまま、帰れずにいたのである。
そのような姿を見つけたインキュバスのムウは、思わず背後から声をかける。
「どうしたの、グウ」
「ムウ様!……え、えっと……なんでもありません!」
そう走り去ろうとするその身を、ムウは笑みを浮かべて軽々と捕まえた。
「まーた、レイのことで何か悩んでるんだな?」
どきりとグウの胸は鳴り、気付けば耳の先まで赤くなってしまう。
「ち、違いますよ……。いや、その……」
そのような姿を目にして、ムウは穏やかな笑みを浮かべていた。
「大丈夫。レイは、お前のことを信頼してるよ?焦らなくていい。ゆっくり、お前の気持ちを伝えればいいんだ」
その言葉に、グウは静かに拳を握った。
「……伝えたい。レイに……」
「そう、その調子!じゃ、さっさと寝るんだぞー?」
颯爽と手を振るムウに頭を下げながら、グウは勇気を振り絞ることに決めたのであった。
***
翌日。
魔王の封印が弱まりつつあるせいか、城内はどこかざわついていた。
そのような中、レイがグウの肩を叩いた。
「ねえグウ、ちょっと手伝って!」
「な、なに?」
「魔王様の周りの結界、昨日崩れた部分があって。……少し、支えてくれると助かるんだ」
その頼られたという事実に、思わずグウの胸は熱くなる。
「レイの頼みなら、……なんだってするよ!」
結界の修復は、思ったよりも重労働であった。
互いに汗をかき、ついにその息は上がってしまう。
なおも頑張るレイの姿を横目に、グウも負けじと踏ん張っていた。
「グウ、すごいすごい!力強いし、器用だし、本当に助かるよ」
褒められるたび、その胸には痛いほどの喜びが広がる。
しかし同時に、ほの暗い思いも湧き上がる。
「レイが笑うのは……。誰にでも、なんだよな……」
魔王城の悪魔や魔物たちに、レイは分け隔てなく優しくもあったのだ。
その笑みを独占したいと思うのは、欲張りなのかもしれない。
それでも、グウの恋は止められなかった。
***
その日の夕方。
赤い光が塔の上に差し込む頃、グウはとうとうレイを呼び出していた。
「レイ。ちょっと、話があるんだ……」
「うん、どうしたの?」
そのようにいつもと変わらぬ笑顔を眩しく思いながら、グウは静かに息を吐いた。
しかし、決めたのだ。
「……レイ。……お前のこと、ずっと好きだったんだ」
そのような言葉に、レイは驚きに目を丸くしていた。
そして気まずさと、痛むような切なさがその顔には表れていたのだ。
「グウ……」
「ずっと前から……レイのこと、大事で。一緒にいたくて……でも、お前は誰にでも優しいから、どんどん好きになって……」
グウは息もつかず、なおも言葉を続けていた。
「……返事は、わかってる。わかってても……言いたかったんだ」
長い、沈黙が降りる。
風の音が塔の壁に当たり、何度もふたりの間をすり抜けていた。
レイは、ゆっくりとグウの肩を抱き寄せた。
「……ありがとう。言ってくれて。グウの気持ち、すごく嬉しいよ」
「……うん」
「でも、ごめん。グウのことは、友達として大好きなんだ。だから俺は、そういう好きには応えられない」
グウは目を伏せ、静かに涙を流していた。
それは、レイが初めて目にしたグウの涙でもあった。
「わかってたよ。わかってたけど……やっぱり、ちょっと……痛いな」
「本当に、ごめん。でもね」
レイは静かに、グウのその背を撫でていた。
「俺の一番の友達として、……家族みたいに。これからも側にいてくれたら、嬉しいな」
その言葉に、グウはしゃくりあげた。
そして震えはすぐに収まり、レイの胸元で小さく頷いた。
「……うん。友達でもいい。ずっと、……守ってあげるから……」
レイは、安心したように微笑んだ。
***
告白は、終わった。
恋が叶わないことも、わかっていたはずであった。
レイのその姿を見るだけで、グウの胸はなおも締め付けられてしまう。
「グウ、ご飯の時間だって!」
レイが、無邪気にその手を引く。
「お、おい……!引っ張るなって!」
しかしその手の温かさをこれからも感じられると思えるだけで、グウの胸は少しだけ軽くなるような気がしていた。
叶わない恋でも、レイが大切なことは変わらない。
そして自らもまた、レイの大切な仲間でいられる。
それでいい。
それで、いいのだと。グウは今日もレイと笑みを交わすのであった。
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