異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫

文字の大きさ
10 / 19

ダークエルフのシェリル

しおりを挟む
 魔王城の奥深く、青白い光が差す塔の一室で、レイは魔王の封印を解くべくその涙を流していた。
 背後には、いつも静かに見守る影があった。

 多くを語らぬダークエルフ、その名はシェリルという。
 さらりと揺れる長い銀髪、落ち着いた肌の色、透き通る紫の瞳。
 冷静で感情を表に出すことは極端に少なくもあった。
 しかしレイの存在だけは特別なようで、ついその目で追ってしまうこともしばしば。

 シェリルは、レイの笑み、泣き声、無邪気な仕草、そのすべてを胸に刻んでいた。
 他の悪魔たちと遊ぶなか、いつも遠くからその姿を見守り、手を貸すタイミングをうかがってもいたのだ。

 ある日、魔王城の廊下でレイが小さな石につまずきそうになってしまう。
 すかさずその手を差し伸べ、シェリルはその身を軽く抱き止める。
「危ない……。大丈夫か?」
「えっ、……うん、ありがとう。シェリル」
 そのさりげない距離、温かさ、城内の誰とも違う柔らかな笑み。
 シェリルはその瞬間、胸が締め付けられるような思いを抱えてしまう。

「どうしてこんなにも、胸が痛むというのか……」

 しかしそのような小さな呟きは、レイを取り巻くざわめきによってかき消されてしまう。

***

 ある日の夜、失敗して落ち込むレイの姿を、シェリルは影ながら静かに励ましていた。
「どうして俺は、うまくできないんだ……」
 声をかけるわけでも、手を差し伸べるわけでもなく、ただそばにいるだけ。
 それでも、レイはシェリルの目を見て微笑んでみせた。
「だめだよね、こんなふうに落ち込んでても……。よし、もう一度……やってみせる!」
 レイは果敢に、魔王の復活のために力を注いでいた。
 その身が崩れそうになっても、駆け寄るシェリルの手を制してレイはなおも笑っていた。
「大丈夫、あと一回だけ……あと一回だけだから!」
 シェリルはその手を拳に変え、静かに胸元へと引き寄せた。
 どうか成功するようにと、強く祈る。そして、黒煙が立ちのぼる。

「やった!できたよ、シェリル!」
 勢いよく抱き着くレイの身を受け止めながら、シェリルもまたわずかに口の端を上げていた。
「よく、頑張りました……」
 静かにその背を撫で、ふたりは部屋を出た。
「よかったー。あーあ、頑張ったらお腹すいちゃった!」
「……厨房で、何か貰いましょう」
「そうだね、シェリルも何か食べる?」
「いいえ、私は……」
 そのような言葉に、レイはふと歩みを止めた。
 そしてシェリルの手を取り、にっこりと微笑んだ。
「シェリルも、長い時間お疲れさま。俺と一緒に、なんか食べようよ。……ね?」
 その顔に、シェリルは昔から弱かった。
 レイはそのことを知って、わざとらしく首を傾げてみせたのだ。
「……では、少しだけなら」
「うん、そうしよう!」
 触れられた、その手が熱い。
 シェリルのその気持ちは抑えきれず、胸の奥で強い熱を帯びることとなる。

***

 図書室で魔法陣の資料を整理していた、ある夜のことであった。
 シェリルは静かに、決意した。
「もう、黙って見ていることなど……できはしない……」
 そう決めたシェリルの判断は、驚くほど早いものであった。

 すぐさまレイを呼び出し、書庫の奥でふたりきりとなっていたのである。
 シェリルは深く息を吸い、その紫の瞳を真っすぐレイへと向けていた。
「私は、レイのことを……好いている……」
「……シェリル?」
 レイは目を丸くして、シェリルの顔を見上げていた。
 しかしなおも、シェリルの言葉は止まらなかった。
「まだ赤ん坊だった頃から……、気にかけていた。その笑顔も、泣き顔も……レイのすべてが……この胸を痛める」
 言葉を吐き出すごとに、シェリルの身は小刻みに震えていた。
「どうか……、拒まないでほしい」
 レイは一瞬言葉を失い、思わず顔をそむけてしまう。

 長い沈黙が、ふたりの間を包んでいた。
 レイは静かに息を整え、そしてゆっくりとシェリルの目を見つめて言った。
「シェリル、ありがとう。その気持ちは……本当に嬉しいよ」
「……嬉しいだけで、いいと……?」
 その揺れる瞳に、思わずレイは涙をこぼしそうになってしまう。
「うん。でも俺は、その気持ちには応えられないよ」
 シェリルの瞳が大きく揺れ、その肩はわずかに下がってしまう。
「……私、は……」
 しかしレイは、シェリルの手を取ってこう告げた。
「でも、俺にとっては……シェリルは大切な仲間であり、家族なんだ。いつもそばで支えてくれて、本当にありがとう」
「……それでも、……辛いものがある……」
「わかるよ。でも、俺の気持ちはこれで精一杯なんだ。ごめん。こんな俺でも……ずっと、そばにいてくれる?」
 そのような願いに、シェリルはわずかに視線を落とす。
 胸の奥のその痛みは、決して消えることはないだろう。しかしそのようなレイの言葉に、救われる思いもあったのだ。

「……わかった。これからも、レイのそばにいる。それで、いい……」
 シェリルは肩を震わせながら、小さく頷いた。
 深い悲しみと、少しの安堵が混ざりあったような顔をして。
「シェリル、ありがとう。家族として、大好きなんだ」
 レイは静かに、その身に抱き着いていた。
 シェリルは静かに黒い髪を撫でていた。

***

 告白は、終わった。
 叶わぬ恋であったとしても、レイのそばにいられるのならそれでいい。
「シェリル、これ食べる?グウからもらったんだ!」
「……いただきます……」
「うん、おいしい!」
 その胸の痛みも、慎ましやかな距離感も、そのすべてを抱えながら、シェリルはレイのことを見守り続ける。
 時折、レイの手に触れそうになり、しかしその手を引いて静かに息をつく。

 守るべき相手として、レイの身を支える。
 そのような日々を共に過ごすことで、シェリルは深い幸福を見出すのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

処理中です...