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あの時「反逆」を選択していたら~勇者側へ~
しおりを挟む『反逆』
その選択をしたものの、戦況は変わらなかった。
戦いの余波が残る、魔王城の大広間。
煙と瓦礫の匂いはまだ空気に漂い、戦闘の痕跡が痛々しく残っていた。
レイは、その中心に立っていた。
その瞳は悪魔としての冷たい光を帯びながらも、何かが心の奥で揺れていた。
勇者一行、かつて自らがそうであったような人間たちの姿が目に入るたびに、胸の奥に熱い何かが込み上げていくような気がしていたのだ。
「このままだと……、世界も、俺も……」
レイは小さく呟いた。
そのとき、勇者の剣は光となって彼の内へと流れ込む。
聖なる力の温もりが、魔王としての闇を揺るがせていたのであった。
「ライ、兄さん……」
レイの声は震え、その頬に涙が伝う。
その瞬間、決意は固まった。
魔王を裏切り、勇者の側につくこと。それがこの世界を救い、そして自らの身をも取り戻す唯一の道であるのだと。
「俺は……。人間として、兄さんと共に生きたいんだ」
その思いが悪しき魔力を浄化し、やがてその瞳は次第に人間の温かみを取り戻していく。
ムウはその様子目の当たりにして、絶望した。
「レイ、魔王様のお力を裏切るというのか!」
しかし、レイの決意は揺るがなかった。
「もう、あなたがたの力には従わない!」
鋭い一撃を放ち、レイは魔王を葬った。
「魔王様!」
「ムウ、ごめんね。……今まで育ててくれて、ありがとう」
そしてまた、悪魔たちの身を次々と消し去っていく。
闇は光に押し潰され、やがて城には静寂が訪れるのであった。
***
戦いの後、レイは完全に人間へと戻っていた。
ライは倒れ込む弟に駆け寄り、その身を静かに抱き上げた。
「大丈夫か?レイ」
「うん。……兄さん、もう、怖くなんかないよ……」
「お前が生きていてくれて、本当によかった……」
その言葉に、レイは涙を流しながら、兄の胸に顔を埋めていた。
そのような姿を目の当たりにして、見守っていたクリスはわずかに息を呑む。
今のふたりの顔は、瓜二つであったのだ。
魔王が消えた城は、荒れ果てた廃墟と化していた。
しかし光と希望に包まれた世界は、再生をはじめていた。
レイは人間の力を取り戻し、ライとクリスと共に教会のそばに建つ小さな家に身を寄せていた。
そこに戦いの影はなく、ただ平穏と笑顔だけが満ちていた。
日々は穏やかに流れ、あの戦いの記憶は少しずつ薄れていく。
ライとクリス、そしてレイ。
三人の絆は深く、その愛は静かに、しかし確かに育まれていった。
クリスに向けて微笑むライの姿を見て、レイは思う。
「もう誰も、傷つけたりはしないよ。俺は、ライ兄さんとクリスの幸せを願っているんだ」
ライはその手を強く握り返し、同じように微笑んでみせた。
「何言ってるんだ、お前の幸せだって……俺は願ってる」
「兄さん!」
夜空に月は輝き、家の中に静かな光が差し込んでいた。
戦いを越えて手にした平和は、三人だけの特別な宝であり、甘く深い幸せの始まりでもあったのだ。
END
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