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異世界と弓作り
三十七話 異世界の弦
しおりを挟む陽が落ちる前に、エルフたちがよく弦として使うという素材を採りに森へ向かうことに。
元の世界の弓道における『弦』は、大きく分けると化学繊維で作られる合成弦と、天然素材である麻などで作られる麻弦の二種類。
一般的には麻弦の方が高価で、非常に柔らかいため寿命が早い。
弓に負荷をかけ過ぎないという点において、弦切れが早い方が弓は長持ちするとされるため、竹弓に麻弦を使う者が多い。
こっちの世界では……まぁ、天然素材になるんだろうが。
しかし心、身、弓のみならず、『魔』を考えないといけない。
きっと弦の素材も、精霊魔法なんかの相性と考えているんだろうなぁ。
「──着いたぞ」
「!」
ミラウッドに続いて森を歩いていると、現場に到着。
村からそう離れていない距離で、洗濯用の水を汲みに行った側とは反対の方角だ。
風通りがいいのか、草木がサワサワと揺れている。
『まぁまぁ、エルフのお方。ミラウッドさん。こちらの繊維を使っているんですの?』
到着した場所には、ずいぶんと背丈のある植物が密集して生えている。
パッと見、とうもろこし畑やひまわり畑のようだ。
畑のように人の手が入っている様子はないが、しかし明らかに保護されているような雰囲気。
きっとエルフたちが森の精霊に祈りを捧げている場所の一つなんだろう。
「ええ、ルナリア様」
『ほー……これが、あんなに細くなるのか?』
「はい、セロー様。もしよろしければ、お力をお貸しいただけるとより早く作ることができるのですが……」
『風が必要なのか? コーヤがイイってんなら、べつにイイが』
「なるほど、乾燥の工程か」
俺はかつて弦の職人に聞いた話を思い出しながら納得した。
麻弦作りの始まりは、最初に仕入れた新麻を一年ほど乾燥させることから始まる。
弓でもそうだが、わずかな湿気を抜くためだ。
こっちの世界でもそういう作業があるのだろうが、精霊の力を借りればそう長い時間が掛からないのかもしれないな。
「どれどれ……」
俺はさっそく背の高い植物を鑑定で視てみる。
【ナガテ:背の高い植物。風通りのいい場所によく生えている】
【魔力伝導効率:C】
「おお。Cか」
今まではDのものが多かったが、実際に矢をつがえる弦だと素材としても丈夫で、『魔』のことを考えた時にもイイものを使う必要があるんだろうな。
「風に揺れると、手を振っているように見えるだろう?」
「なるほどな。だから“ナガテ”か」
風を受けてゆらゆら揺れている様は、たしかに手を振っているかのようだ。
特に強い風を受けたとなれば、腕を大きく左右に振っているように見えるはず。
「エルフたちが使う弓の弦は、基本的にこのナガテと、もう一つ別の素材を組み合わせることが多い」
「へぇ?」
「ひとまず、これらを集めよう」
そういうとミラウッドは腰元の鞘から剣を抜く。
彼が剣を持っている姿は中々見なかったので、新鮮だ。
「おお……。あ、そうだ」
『?』
俺はある期待を込めてセローをじっと見つめた。
木の丸太を真っ二つにできるのなら、草を刈るのはお手の物だろう。
『……? あ、わかったぞ! コーヤ、まーたオレにあんなことをさせようと──』
『あーら、風のお方はご自分の力を出し惜しみするのですか? でしたらお邪魔ですのであっちに行っててくださいな、ええ。邪魔ですの』
『はぁ~~~~??』
またまた精霊ゲンカが始まりそうである。
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