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6月 夾竹桃
第32話
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そんなやり取りを繰り広げていると教室の扉が開く音がして、俺も会長もお互いにそちらへと視線を移した。
「あぁ、ここにいたのかい。探したよ。西園寺くんと遊んでいたんだね。楽しかった?」
少し息切れをしているが、そこにいたのはいつもと変わらぬ笑みを浮かべた樹先生だ。
「はい、とっても。会長様の怒った顔が新鮮で面白くって」
「それは良かった。西園寺くんもありがとうね」
「…理事長。彼は貴方のお客人ですか?学園の生徒ではありませんよね?」
「彼はここの生徒だよ。ただいつもと容姿が違っているだけでね。彼には昔から絵のモデルをしてもらっているんだよ。今日も絵を描くためにここに来てもらったんだ」
樹先生の登場により俺が警備に突き出される事は無くなったが、むしろ会長は状況に追いつけず混乱しているようだ。
「いつもと容姿が違う、というのは?」
「目立たないようにしてるんだよ。色々事情があってね。他にも知りたいなら彼に直接聞くといいよ」
「…そうですか」
未だにこちらへ向ける視線は厳しいものだが、俺はそんなもの感じませんとばかりに笑って見せる。笑顔を見せれば見せるほど彼の眉間に皺が寄るのが面白くて、ついにはくすくすと声が漏れた。
「何笑ってる。何が面白い?」
より一層眉間に皺が寄っている彼に笑い声が抑えきれない。人の顔を見て笑うなんて凄く失礼な事だけど、こんな不機嫌そうな顔は転校生や他の生徒の前では見た事がないから、仕方がないじゃないか。
「こらこら、人の顔を見て笑うのは失礼だよ」
「ごめんなさぁい。でも樹先生、会長様の嫌そうな顔ですよ?いつも余裕綽々な顔か無表情しか知らない私からすれば、とっても面白い事なんですよ」
「そうかい?まぁ僕は君が楽しければそれでいいけれどね」
一通り笑い終わったら、樹先生にちょっぴり叱られてしまった。かくいう会長は怒りを通り越して呆れてきたのか、軽く俺を見てから樹先生へと声をかけた。
「理事長。生徒会のことで少しお話が」
「うん?どうかしたのかい?」
「…込み入った話ですので、ここでは…」
真剣な表情を浮かべる会長とは真逆に、樹先生はいつもの穏やかな笑顔。その対比が不思議な空気感を生み出していて、思わずニヤついていた顔を引き締める。
するとどうやらここでは話してくれないらしい。なんだよ~、引き締め損じゃーん。どさくさに紛れて聞こうとか思ってたのにな~
「すまないけれど、後にしてくれるかい?今は彼を描く為の時間なんだ」
「…生徒会は学園の象徴です。それよりも優先するべき事はないのでは?」
会長の言葉に樹先生の表情が変わる。穏やかさを纏っていた笑顔は消え失せ、今は完全に無表情だ。
あーあ、地雷踏んじゃった。
「僕にとって、絵は全てだ。絵画こそが、芸術こそがこの世で最も偉大で、それ以外のものは平等に価値はない。人間は特に無価値だ。けれど僕は人物画を描き続けている。それは何故かわかるかい?それはね、外側だけは美しいからさ。中身を考慮するとグロテスクで吐き気さえしてくるけれどね、人間という生き物は外側だけは素晴らしい。僕が無価値だと思うのは人間の中身で、いつも見ているのは入れ物の部分なんだよ。だから僕は経営者になった。沢山の人間を見るためにね。でもある日気付いたんだよ。その中でも特に美しいのは未成熟な子供達だと。大人の色気と絶望を身につけながらも、無邪気さと希望を持っている子供というのはとても素晴らしい入れ物なんだよ。だからこそ僕は、今までやってきた事業を全て投げ捨ててまでこの学園の理事長の座をあの老いぼれから奪い取ったんだ。…あぁ、話が逸れてしまったね。つまりは、僕がどうしてこの学園を管理しているかというとね、それは自由に絵を描く為なんだ。未成熟な子供達からのインスピレーションを存分に絵にぶつけられるこの学園が大事なだけであって、その内情までは心底どうでも良いのが本音なんだよ」
唐突に始まった樹先生の演説。恋焦がれたように口元に笑みを浮かべながら熱く語りかけてくる樹先生は、控えめに言っても頭がおかしい。長くなりそうだと思い机に腰掛けたが、思ったよりも早く終わってしまったのでとりあえず拍手しておく。会長は樹先生の本性を知らなかったのか、呆然と、ただただ樹先生の顔を見つめていた
「ねぇねぇ樹先生。私は人間ですけど、無価値ですか?」
「全く君って子は…そんな質問をして僕を困らせるつもりかい?分かっているくせに。ふふふ、君は違うさ。君は生きた芸術だと昔から言っているだろう?中身まで全部美しいさ。出来る事なら、生きたまま君の内臓まで描きたいんだけどもねぇ…」
眉尻と口角を下げた樹先生は、ため息をつきながら残念そうな声を出した。それは芝居がかったものではなく、とても自然に、本心から漏れ出た言葉だとわかる。
「あっはははッ!もうほんと、樹先生ってば最高!サイッコーーにイカれてる!!」
思わず、会長がいるからとキャラを作っていた事を忘れてキャッキャと喜んでしまう。だってイカれた人間ってどう足掻いても理解が出来ないから。
人は理解が出来ないものに対して嫌悪や恐怖を抱くけれど、理解できた時の快楽は凄まじいものだ。だから俺は樹先生のイカれた部分を理解したくて仕方がない。恐れや嫌悪を薙ぎ払うほどの快楽の波に呑まれてしまいたい。その願望が強いから、俺はイカれた人間が大好きだ。
「あぁ、ここにいたのかい。探したよ。西園寺くんと遊んでいたんだね。楽しかった?」
少し息切れをしているが、そこにいたのはいつもと変わらぬ笑みを浮かべた樹先生だ。
「はい、とっても。会長様の怒った顔が新鮮で面白くって」
「それは良かった。西園寺くんもありがとうね」
「…理事長。彼は貴方のお客人ですか?学園の生徒ではありませんよね?」
「彼はここの生徒だよ。ただいつもと容姿が違っているだけでね。彼には昔から絵のモデルをしてもらっているんだよ。今日も絵を描くためにここに来てもらったんだ」
樹先生の登場により俺が警備に突き出される事は無くなったが、むしろ会長は状況に追いつけず混乱しているようだ。
「いつもと容姿が違う、というのは?」
「目立たないようにしてるんだよ。色々事情があってね。他にも知りたいなら彼に直接聞くといいよ」
「…そうですか」
未だにこちらへ向ける視線は厳しいものだが、俺はそんなもの感じませんとばかりに笑って見せる。笑顔を見せれば見せるほど彼の眉間に皺が寄るのが面白くて、ついにはくすくすと声が漏れた。
「何笑ってる。何が面白い?」
より一層眉間に皺が寄っている彼に笑い声が抑えきれない。人の顔を見て笑うなんて凄く失礼な事だけど、こんな不機嫌そうな顔は転校生や他の生徒の前では見た事がないから、仕方がないじゃないか。
「こらこら、人の顔を見て笑うのは失礼だよ」
「ごめんなさぁい。でも樹先生、会長様の嫌そうな顔ですよ?いつも余裕綽々な顔か無表情しか知らない私からすれば、とっても面白い事なんですよ」
「そうかい?まぁ僕は君が楽しければそれでいいけれどね」
一通り笑い終わったら、樹先生にちょっぴり叱られてしまった。かくいう会長は怒りを通り越して呆れてきたのか、軽く俺を見てから樹先生へと声をかけた。
「理事長。生徒会のことで少しお話が」
「うん?どうかしたのかい?」
「…込み入った話ですので、ここでは…」
真剣な表情を浮かべる会長とは真逆に、樹先生はいつもの穏やかな笑顔。その対比が不思議な空気感を生み出していて、思わずニヤついていた顔を引き締める。
するとどうやらここでは話してくれないらしい。なんだよ~、引き締め損じゃーん。どさくさに紛れて聞こうとか思ってたのにな~
「すまないけれど、後にしてくれるかい?今は彼を描く為の時間なんだ」
「…生徒会は学園の象徴です。それよりも優先するべき事はないのでは?」
会長の言葉に樹先生の表情が変わる。穏やかさを纏っていた笑顔は消え失せ、今は完全に無表情だ。
あーあ、地雷踏んじゃった。
「僕にとって、絵は全てだ。絵画こそが、芸術こそがこの世で最も偉大で、それ以外のものは平等に価値はない。人間は特に無価値だ。けれど僕は人物画を描き続けている。それは何故かわかるかい?それはね、外側だけは美しいからさ。中身を考慮するとグロテスクで吐き気さえしてくるけれどね、人間という生き物は外側だけは素晴らしい。僕が無価値だと思うのは人間の中身で、いつも見ているのは入れ物の部分なんだよ。だから僕は経営者になった。沢山の人間を見るためにね。でもある日気付いたんだよ。その中でも特に美しいのは未成熟な子供達だと。大人の色気と絶望を身につけながらも、無邪気さと希望を持っている子供というのはとても素晴らしい入れ物なんだよ。だからこそ僕は、今までやってきた事業を全て投げ捨ててまでこの学園の理事長の座をあの老いぼれから奪い取ったんだ。…あぁ、話が逸れてしまったね。つまりは、僕がどうしてこの学園を管理しているかというとね、それは自由に絵を描く為なんだ。未成熟な子供達からのインスピレーションを存分に絵にぶつけられるこの学園が大事なだけであって、その内情までは心底どうでも良いのが本音なんだよ」
唐突に始まった樹先生の演説。恋焦がれたように口元に笑みを浮かべながら熱く語りかけてくる樹先生は、控えめに言っても頭がおかしい。長くなりそうだと思い机に腰掛けたが、思ったよりも早く終わってしまったのでとりあえず拍手しておく。会長は樹先生の本性を知らなかったのか、呆然と、ただただ樹先生の顔を見つめていた
「ねぇねぇ樹先生。私は人間ですけど、無価値ですか?」
「全く君って子は…そんな質問をして僕を困らせるつもりかい?分かっているくせに。ふふふ、君は違うさ。君は生きた芸術だと昔から言っているだろう?中身まで全部美しいさ。出来る事なら、生きたまま君の内臓まで描きたいんだけどもねぇ…」
眉尻と口角を下げた樹先生は、ため息をつきながら残念そうな声を出した。それは芝居がかったものではなく、とても自然に、本心から漏れ出た言葉だとわかる。
「あっはははッ!もうほんと、樹先生ってば最高!サイッコーーにイカれてる!!」
思わず、会長がいるからとキャラを作っていた事を忘れてキャッキャと喜んでしまう。だってイカれた人間ってどう足掻いても理解が出来ないから。
人は理解が出来ないものに対して嫌悪や恐怖を抱くけれど、理解できた時の快楽は凄まじいものだ。だから俺は樹先生のイカれた部分を理解したくて仕方がない。恐れや嫌悪を薙ぎ払うほどの快楽の波に呑まれてしまいたい。その願望が強いから、俺はイカれた人間が大好きだ。
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