救う毒

むみあじ

文字の大きさ
69 / 131
7月 グロリオサ

第67話

しおりを挟む
リュックから取り出したメイクポーチのチャックを開ける。中に入っているチューブタイプの化粧下地を取り出し、手の甲に適量を出した。ひたすらに視線を感じるものの、構わずに顔に塗りたくる。



暫く集中して化粧をしたかいあってか、いつもよりも随分早く仕上がった。これで俺は平凡顔。


「…すげぇな、詐欺メイクすぎんだろ」
「いや、盛れてないから詐欺メイクではなくね?」
「……なら特殊メイクか…?」


眉を顰めて本気で悩みはじめた諒先輩に笑いながらメイクポーチをリュックにしまい背負って立ち上がる。

変装をした状態になったので、やっと風紀室へ行ける。もう既に外は暗くなりつつある。時計を確認すれば、針は6時半頃を指しているではないか。その事実に驚愕しつつ、さっさと諒先輩と共に保健室を出た。

没収されたジッポライターを返してもらいたくってブツブツと文句を言いつつ、気になっていた事を聞くタイミングを伺う。

それは勿論、あの時近くにいた千秋の事。千秋って約束は破らないから、俺が居なくなってからすぐ風紀に連絡して自分でも探してくれたんだろうから、ありがとうってちゃんと言いたい。


「そういや千秋は?俺の事探してくれたとは思うんですけど、俺がなんともないって知ってるんですか?」
「…あー、直接は連絡してねーけど、知ってはいるんじゃね?風紀室にいんだろ、多分…」



ありゃ、てっきり先輩が直接連絡してると思ってた。諒先輩自身千秋が帰ったか風紀室にいるかはわからないようで、自信なさげにつぶやいた。まぁ多分、帰ってるだろうな

最近の千秋は俺の事心配してるってバレないように頑張ってるんだ。流石に今日の体調不良はそれどころじゃ無かったから気にかけてくれたっぽいけど。照れてるっていうか、1人がいいって思ってるのに心配しちゃってる自分が受け止めきれないか今更意見を曲げられなくて意固地になってる、みたいな状態だと俺は予想している。不器用だよなぁ。


「もしいるとしても、なんでこんな時間まで?」
「あー、そうだな…多分聞き取りじゃねーか?」
「そっか~…結構時間かかるんですね。聞き取りって」
「…言うほど時間かかんねー筈なんだけどな」
「ま、いるかは分かんないし?てか俺的にはもう帰ってると思うんですよね~」


そう言って話しているうちに明かりのついた教室が見えてくる。俺はすかさずいつもの内気モードに切り替え、諒先輩の影にさっと隠れると可笑しそうな笑い声が微かに聞こえた。毎回笑うなこの人。

文句を言う前にガラリと扉は開けられてしまい、すぐに体を縮こませた。風紀室の中は何やら大忙しのようで、何かを書いていた1人の生徒が諒先輩を見た瞬間音を立て立ち上がった。


「おッッッッそいぞ如月!!こっちは人手不足でてんてこまいなんだよ!!!何油売ってんだ!!!」
「油売ってませんって。制裁被害者のアフターケアしてたんですよ」


175㎝以上はあるであろうその人は、大声で叫びながら細いフレームのメガネを掛け直している。三白眼のその人は、目尻を吊り上げているためかひたすらに目つきが悪い。千秋と五分五分。ネクタイの色や言動から分かる通り、諒先輩の一個上、3年生なのだろう。

黒髪七三という髪型に加え、制服を正しく着こなしているから真面目な人かと思ったんだが…3年生、なんだよな…諒先輩に風紀委員長を押し付けた3年生の1人、なんだよな…

というか風紀委員長じゃないのに黒髪七三メガネなのなんでなん?黒髪七三メガネは風紀委員長の特権でしょ??

そんなツッコミを心の中でしているとようやく俺の存在に気がついたようで、視線をこちらへ向けた。


「む?君が北条の件の被害者であり、久道の件の、実質的な原因か?」
「えっ?久道の件、ですか?」


前者はわかる。俺は無傷だけど確かに被害者だ。でも久道の件って何?千秋、なんかしたの?


「なんだ如月。お前話してないのか?」
「あーーー…体調不良が酷かったんで、話すタイミングがなかったんですよ」
「聴取室が空くまでの間にとっとと話せ!!このアホ!!」


怒鳴り声を上げてまた自分の机に戻っていった黒髪七三メガネ先輩をぼんやり見送って、すぐに諒先輩へと視線を戻した。

なんとも言い辛そうな表情をして数度頭を掻いた後、応接用と思わしき机と椅子へ案内される。諒先輩の対面に座れば、眉を下げながら説明を始めた。


「鏡宮がSクラス前のトイレから消えた時にだな、お前のスマホと置き手紙が残ってたんだよ。で、置き手紙の方には第二体育館裏にお前がいるから来いって書いてあってな…俺に一度連絡寄越したあと久道はそっちに直行したんだ」
「…そう、ですか…」
「んで、久道はそこで大暴れしだらしくてだな…この情報はお前を助けてすぐにした電話で報告されたんだが、その後は何も連絡を受けてねーからわかんねーんだよな…」


諒先輩の声が遠くで聞こえる。まるで世界に俺1人になってしまったのかと錯覚するほど、周囲の音が遮断されていった。


俺を餌にして千秋を釣ったのか。そうか、そうか。


俯きながらも、演技なんてものを忘れて薄らと口元に笑みを浮かべる。俺が今抱いているのは、明確な怒りの感情。それは勿論、これを企てた人間に対してのものと、俺自身に対してのものだ。



倉沢くらさわ先輩、久道ってもう寮に返したんですか?」
「はぁ?何言ってる。アイツは誘き寄せられた場所で大暴れしたあと速攻でどこかに走っていったぞ!今もまだ校舎内じゃないか?探させているがいかんせん見つからない。だからこそ人手不足なんだよ分かれ!!!」
「はぁ!?!?それ早く言えっつのッこの元ヤン!!!!」
「るせぇ!!!!テメッ、1年がいる前でバラしてんじゃねぇッ!!!しばくぞ!!!」


ぼーっとしつつ2人の会話を聞きながら、徐に立ち上がる。
そんな俺に気がついた諒先輩は、どうしたのかと俺を見つめてきた。それにしっかりと見つめ返しながら、にっこりと笑えば俺の雰囲気が変わった事に驚いている。


「千秋に電話して、ここに呼んで。今すぐに」
「あ、あぁ、勿論するが…」
「それと、俺、もう演技しませんから。性格は素で行きます」
「はぁ!?」


さらに驚いたようで、大声を出してしまっている。諒先輩の声に釣られるように、倉沢先輩と呼ばれていた先輩も顔を上げ、こちらを見つめた。

左耳に邪魔な茶髪をそっとかける。これは俺が意識を切り替える時によくやるルーティンであり、子供の頃からの癖だ。こうする事でやっと俺は演技から完全に抜け出せる。
もう一度、口元に笑みを浮かべる。イメージするのはニィさんと八剣がたまに浮かべる笑みだ。

氷のように冷たく剣のように鋭い、まるで価値がないと言いたげな微笑み。
2人はきっと、ただの虫ケラにくれてやるにはあまりにも贅沢だと言うだろう。あぁ、全くその通り。

この笑顔を引き出させた虫ケラには、しっかりと対価を払って貰わねばならない。




「俺の周りにも手を出すんだもの。調子に乗りすぎだよ。流石に踏み潰さないと、鬱陶しいでしょ?」


─────────────────
イヨくんは割と結構すんごく俺様。
8月の夏休みまで駆け抜けたいのに書きたいものが割と多くて駆け抜けれません。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

あの夏の日を忘れない ~風紀委員長×過去あり総長~

猫村やなぎ
BL
椎名由は、似てるという言葉が嫌いだった。 髪を金にして、ピアスを付けて。精一杯の虚勢を張る。 そんな彼は双子の兄の通う桜楠学園に編入する。 「なぁ由、お前の怖いものはなんなんだ?」 全寮制の学園で頑張り屋の主人公が救われるまでの話。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】僕らの関係─好きな人がいるのに、学園の問題児に目をつけられて─

亜依流.@.@
BL
【あらすじ】 全寮制の男子校私立掟聖学園には、学力向上を目的とした特殊なペア制度が存在した。 ───────────────── 2年の入谷優介は、生徒会長であり学園のカリスマ、3年・中篠翔へ密かに思いを寄せていた。 翔とペアになる事を夢見る優介は、ある事件をきっかけに、同じく3年の超絶問題児、本郷司とペアを組む事になってしまう。傲慢な司に振り回される優介に手を差し伸べたのは、初恋の相手である翔だった。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

処理中です...