救う毒

むみあじ

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8月 樒

第104話

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フリルのついた可愛らしい洋服が立ち並ぶ商品棚をキョロキョロと見回しながら、背の高い黒髪の女性を探す。赤いピンヒールも黒のタイトスカートもレザージャケットも見当たらず、俺はそっとため息をついた。

はぐれた。俺がお手洗いに行っている間に、エリお姉様は何処かへと向かってしまったらしい。あの人は自由人すぎるから、俺のお目付役だとか俺とのデートだとかこの間のビーチでの埋め合わせだとかそういうのをまるっきり無視して興味のある物へと寄ってしまうのだ。俺はもう一度ため息をつきながら、足を動かした。

暫く1人できょろきょろうろうろ歩き回っていると、黒髪の男性に声をかけられる。俺が1人できょろきょろしながら歩いているのを見てナンパ待ちだと思ったらしい。


たしかに今の俺は完全に女の子だ。
ボブヘアに白のカチューシャをつけ、しっかりと胸もあるのだから。
エリお姉様とのデートは毎回女装で行われる。最初こそ戸惑ったが「美しいものを美しく磨き上げる事の何がいけないの?」と言われてしまうと何にも言えない。美意識が大気圏を突破しているエリお姉様に美しいって遠回しに言われたら嬉しくなって許してしまうに決まってんじゃん!
とはいえ、今や俺も気に入ってるのだ。女装は。なんてったて俺、可愛いので。


ではここで今日のコーデのコーナー!
今日のコーデはモノクロメインのスポーティなスタイルです。
若干丈の短い黒のホルターネックタンクトップに黒をベースに白ラインが入っているプリーツスカートを合わせました。勿論それだけだと冷房の効いた場所だと肌寒いので、白をベースにした袖の部分に黒のラインが入ったジャンパーも軽く羽織っている状態です。オーバーサイズなので前を締めたらスカートまで覆い隠しちゃうようなジャンパー。かわいい~!
黒のスポーツサンダルで夏っぽさを存分に出し、金のチェーンがついたショルダーバッグを合わせればもう完璧!


薄く化粧もしているし、エリお姉様と並べば向かう所敵なしのアルティメットウルトラスーパー美人2人組になるのだ。けれど今は俺1人。2人揃えば高嶺の花すぎて話しかけられないナンパ野郎も、俺1人だと雰囲気が柔らかいからと話しかけてくることがしばしば。俺には威圧感がないって事らしいけど、俺、怒ると怖いんだからね?



「だから、私は今友人を探してる最中なので行きませんってば」
「俺も探すの手伝うよ?そこのカフェとかにいるんじゃないかな?」



いねーよ。
あんな目立つ美人、カフェにいたらすぐ気がつくし。俺が何度も断っているのに一歩も引かない。その様子に若干腹を立てながらも、なるべく上品に振る舞う。



「いえ、本当に1人で大丈夫ですから」
「そんな事言わないでよ~!好意には甘えておくべきだって!そっちの方が可愛げあるじゃん?」
「はぁ?」



思わず困惑の声を出してしまう。何が可愛げだよ。女の子は守られる弱い存在であるべきって感じの雰囲気を醸し出す相手をきっと睨みつける。折角穏便に事をすまそうと思っていたのに、このナンパ野郎はダメダメだ。最近引き時のわかってないクソナンパによく出会うな…最悪。


「ごめ~んネ、お待たせぇ~~~♡」


思い切り文句を言ってやろうと思っていたところで、背後から肩に腕を回される。聞き馴染みのある声にギョッとしながら音の方向を見れば、ニコニコと笑顔を浮かべた壱成先輩がナンパ男へと向き合っていた。


「オマエ何ィ?俺のオトモダチちゃんに手ェ出そうとしてたよなぁ~~~ア?…失せろゴミが。次そのツラ見せたらドタマぶち抜くぞゴラ」


軽薄な明るい声と表情が一転、額に青筋を浮かべながらナンパ男を睨みつけた壱成先輩は聞いた事もないような低音で相手を威嚇する。カタギではない雰囲気を感じ取ったナンパ男はしどろもどろな言葉を吐いて逃げていった。


「大丈夫だったぁ~?イヨく………ん…………????」


にぱっと効果音のつきそうないい笑顔を俺に向けた壱成先輩は、俺の顔と格好を見た瞬間にフリーズする。笑顔を崩さずに固まったので、ちょっとビビるわ。


「ッあーーーー…あの、イヨくん…じゃ…ないですか?アレっ…いや…んぅ~?あっ、妹さんか、お姉さん…?いやでもっ…どう考えても歩き方がイヨくん……ご、ご本人であらせられますカ……??」



混乱しまくっている壱成先輩は手振りが忙しない。何より言葉遣いも発言も面白すぎて、俺はくすくすと笑ってしまった。



「俺であってますよ。壱成先輩ありがとう」
「ぇっ…ほんも、ほんもの…?でも…でも………ふくらみ、あるぅ……えっ、じゃあまさか…実は女の子で男装して…いやそんな……だってあん時…んぅ…?ま、まさかふたな」
「俺は男ですよ。もう…」



思考が迷走しまくっている壱成先輩に力強く告げればへらりと笑われてしまう。実は女の子で男装して学園に通ってるってそんなベタなことあるわけないって。



「あぶね~~…変な性癖に目覚めちゃうとこだったワ……」



口元を片手で覆って何事かを呟く壱成先輩をじっと見つめる。どうしてここにいるか、はまぁ買い物だの遊びに来たりだのだとして、なんで俺ってわかったんだろう?今の俺は女装もしているし、ジャンパーのせいで骨格もわからないだろうに。



「うわかわいっ…えっとォ…なんで俺だってわかったの?って聞きたい感じィ~~~~…だよね?」
「ありがと。そうそう、そんな感じ」
「歩き方と立ち方がイヨくんだったんだヨォ~~。イヨくん、立ち方も歩き方も綺麗ですぐワカンの!でもまさか、ジャンパーの下がショ~トパンツとかじゃなくてスカートだったのには、驚きだったけどネ~…」


歩き方と立ち方と聞いて納得する。たしかに、結構癖が出やすいし矯正も難しい所だよね。こくこくと数度頷きながらにこにこしている壱成先輩へ感心の目を向ける。その2つは確かに癖が出やすいが、だからと言って他者を特定できるほど大きな差は出ない。壱成先輩の観察眼が成せる技なのだろう。面白い人だな…と心の中で呟きながら彼に笑顔を向けた。


「ふふふ、可愛いでしょ?俺の女装!気合い入れた甲斐あったな~」
「うん、メッッッッチャかわいい……今すぐホテルに連れ込みテェなぁ………」


ふふんと胸を張ればとろけるような笑顔で俺を褒める壱成先輩。嬉しくなってまぁね!なんて心の中でドヤ顔をしていると、最後の言葉を聞き逃してしまった。もう一度言ってもらおうと口を開いたが、彼が先に疑問を投げかけた為言葉を紡ぐことはできない。



「所で、イヨくん1人ィ?そぉ~~~んなかぁいい格好でいたら、さっきみたいなナンパ、またされちゃうヨォ~~?てかなんで女装ぅ~~~?可愛いけどさぁ…俺的には心配だよぉ………」
「さっきまで人といたんだけど、はぐれちゃって…あと女装なのは今日がデートだからだよ」
「あ゛?」



ニコニコとした笑顔がごっそりと抜け落ちて、ほとんど真顔で凄まれた。怖っ。瞳をパシパシ瞬かせていると、珍しい事に眉間に皺を寄せた壱成先輩が俺の肩を両手でがっしりと掴み、勢いよく顔を寄せる。鼻先と鼻先がぶつかってしまいそうな距離でカラメル色の瞳に見つめられると、なんだか可笑しな気分になってくるなぁ



「イヨくんに女装させるって事は、ソイツってストレートなんだろ?しかもイヨくんのことほっといてる。なァ、なんでそんな男とデートなんかシテンの?無理矢理?イヤイヤデートしてる?それなら言ってよ。俺、なんでもするって言ったよナ?」



怒りを色濃く滲ませた瞳がスッと細められる。ネコ科の猛獣のような可愛らしい仕草にふふ、と笑い声を上げた。



「俺のお姉さんみたいな人とのデートですよ。この間助けてもらったので、ちょっとしたお礼として出掛けてるんです。姉妹デートみたいな。その人の恋愛対象は女の人だし、ただただ美しいものを愛でるのが好きな人なのでこの格好をしてるんですよ。1人でいるのはちょっとはぐれちゃったからです」



くっつきそうだった鼻の頭を人差し指でちょんっと押して笑顔を見せれば、一瞬きょとんとしたものの目を見開いて顔を離してしまった。僅かに頬が赤いので、無意識にやってしまった行動を恥ずかしがっているようだ。



「な、るほどぉ~~~~~!俺、勘違いしちゃったンダナァ~~~~~???ヤッベぇ~、ちょうはずぃ~!!そうだよね、女の子と来てる可能性もあったんだよねぇ実際そうだったし!!……それはそれで妬けるけどぉっ……!!」



早口でぶつぶつと呟く壱成先輩を笑いながら、ちょいちょいと彼の服の裾を軽く引く。いい人材をゲットしたので、一緒にエリお姉様を探してもらおうっと



「ね、ね、壱成先輩。一緒に俺のお姉さん探してください。遊びに来たのか買い物に来たのかは知らないけど、1人なんだし、いいでしょ?お願い!」



上目で彼を見上げれば、わなわなと震え始める。何?その反応。




「もちろぉん……いっしょにさがそぉ…………」




顔を赤くしながらふにゃふにゃと答えた壱成先輩。落ち着きなくキョロキョロとし始めたかと思えば、掌を服に軽く擦り付けて、ぎゅっと俺の手を握った。



「はぐれちゃわないように、握ってても、いい……?」



なんだぁ?この男子高校生。
初々しすぎるだろ。可愛いかよ




「俺も手繋ぎたかったから、嬉しいです」
「んグゥ~~~~~ッ……幸せすぎて溶けちまうってぇ……!」




すんごいふにゃふにゃな壱成先輩の手に指を絡める。恋人繋ぎの方が密着感あって好きなので、迷う事なく恋人繋ぎにしちゃうぞぉ!


「俺が探してるのは、黒いレザージャケットと黒のタイトスカート、赤いピンヒールを履いた黒髪赤目の腹出しイケイケ美人さんです。多分服屋さんにいると思うので、ついてきてくださいね?」







「うーん、いない…」
「電話にも出ないっぽいしネェ…どぉ~~しよぉね?」
「……あと一箇所心当たりがあるから行ってみてもいい?」
「もっっちろぉん!イヨくんとならどこへでも!どこまでもォ!!!」


目星をつけていたお店を回ったものの、どこにもエリお姉様らしき影は見えない。エリお姉様は一旦お店に入ると中々出てこないから入れ違いになっていると言うこともないだろう。だとすれば、残るはひとつのみ。

付き合ってくれている壱成先輩の手をほんのちょっと強めに握ってお願いすれば、嬉しそうに首を縦に振ってくれる。ピンと立った犬耳とわさわさと揺れる尻尾が見えてきた。やばいやばい。わんちゃんにみえる…

不自然にならない程度に視線を逸らして彼の手を引っ張る。そうすればすぐに歩を進め、俺の隣へと並んだ。周囲を時折見ながらも、ほとんどずっと俺を見ているようで、隣を見上げればばっちりと視線が合い、その度にへらりと笑顔を見せてくれた。顔が良いな~…




「ここにいるかなぁ」
「ぇ、あ、えっ…?ここ…?」




たどり着いた場所はカラフルな色合いがひしめいている女性ものの下着屋さんだ。
俺がここだといえば、すぐさまきょどり始めた壱成先輩に頷く事で肯定する。そうすれば今度はピシリと固まってしまった。



「多分ここで俺の女装用下着見てるんじゃないかな?買いたいって言ってたし」



更にそう言えば彼の呼吸すらも止まった。
死ぬ!死んでしまうぞ壱成先輩!



「ま、まって、まって…ぇ?女装用の下着…ん…?いま、いまも…おんなのこの、したぎ…」



やっと動き始めた壱成先輩は顔を赤くしながら俺を見つめる。
視線の先は主に俺の瞳だが、時折下へと向けそうになっては必死に留めているのが瞳の動きで分かった。





「………壱成先輩のえっち」





ちょっと意地悪したくなっちゃった。
いたずらっ子な笑みを見せて、顔を赤らめる壱成先輩を上目で伺う。カラメル色の瞳を潤ませながら、大きく見開いている壱成先輩は、先程よりも更に顔が真っ赤だ。すごい。耳まで真っ赤。
無意味に口をぱくぱくと動かしている



「っ、あ…」



たらり。
咄嗟に動いた彼の手が、口元を抑えるように覆われたが、指の隙間から赤がチラリと覗き込む。そうすれば今度は俺が驚く番で、思わず目を見開いてしまった。


──────────────
ストックが切れたのでここからはちまちま不定期更新になります…申し訳ねぇです…ついったさんの方ではネタをアホほど落としてるんですけど中々文字を書くほどの時間は取れなくてですね…これも全てイカゲーのせいです

書いた後に思ったんですけど、下着屋の前で彼女らしき人とおしゃべりしてる最中に顔真っ赤にして鼻血垂らす顔面のいい男って相当気持ち悪いのでは…?
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