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自覚後①―江奈の自覚―
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朝。
ぼ~っとする頭で起き上がる。
「……ねむ」
結局、一睡も出来なかった。
怠い体を無理やり起こし、タオルを持って部屋を出る。顔を洗ってサッパリしたい。
洗面所のドアを開けると、先に顔を洗い終えた雪ちゃんが居た。
ドキッ!と心臓が大きく跳ねる。
(うわっ!こ、心の準備がっ!)
まだ早いから起きてないと思った。
「おはよ~……」
まだお酒が残っているのか、雪ちゃんが顔をしかめながらタオルを洗濯機に放り入れる。
「おはよう、ございま、す……」
私は、ぎこちないけどなるべく自然に振る舞い、洗面台の前に立つ。
お湯ではなく、お水を出してパシャパシャと顔を濡らした。
横からこちらを見る視線を感じていたけど、そこは気付いていないフリをする。
「……江奈。昨夜の事なんだけどさ」
急に確信を突く話を振られて、ビクッ!と体が震えた。
「はい……」
キュッと水を止め、ゆっくりと雪ちゃんに向き合った。
私の顔から、ポタポタと水が流れ落ちる。
なんて言われるんだろう。
私は身構える。
しかし、雪ちゃんの口から出た言葉は、凄く拍子抜けする言葉だった。
「アタシ昨夜、何かしなかった?」
「………………へ?」
私は間抜けな声を出す。
え?あれ?……もしかして。
「覚えていない、んですか?」
おずおずと尋ねると、雪ちゃんは少しおどけた様に肩をすくめて言った。
「ええ、綺麗サッパリ。気が付いたら朝で、江奈は居ないし綺麗に片付けられてるし毛布は掛けられてるし。江奈に膝枕を要求した辺りまでは覚えているんだけど……」
雪ちゃんは、うーん、うーん、と頭を押さえて一生懸命昨夜の事を思い出そうとしている。
全く覚えていない?あれを?全然?
(な、んだ……なぁんだ!)
確かに、雪ちゃんはベロンベロンに酔っぱらっていた。覚えていない、なてこともあり得るだろう。
(驚きのあまり、失念していたよ)
それなら、一睡もしないで悩んでいた私がバカみたいじゃないか。
(そっか。そうなんだ……)
私はズキズキと痛む心臓を押さえながら、ニッコリと笑顔を作って言った。
「特に何も無かったですよ?雪ちゃん、酔い潰れてあのまま寝てしまったんです。お部屋まで運べなかったので、毛布だけ掛けさせていただきました」
私の話を聞いて、今まで不安そうだった雪ちゃんの顔が一気に安堵の表情になる。
「そ、そう?良かった~。何か取り返しの付かない事をしてたらどうしようかと思っちゃった!」
「気にし過ぎですよ!そんなに心配しないで下さい」
「良かったわ~。……あ、その部屋着、やっぱり似合ってるわよ。顔もちゃんと拭きなさいね」
ハイ、と私が持って来たタオルを雪ちゃんが手渡してくれる。
「ありがとうございます」
「うん。あ、アタシもうちょっと寝るから今日の朝食はアタシの分は要らないわ。じゃ、おやすみ~」
そう言い残し、ヒラヒラと手を振って雪ちゃんはスッキリした顔で洗面所を出て行った。
手渡されたタオルをギュッと握って、私は立ち尽くす。
――『何か取り返しの付かない事をしてたらどうしようかと思っちゃった!』――
雪ちゃんの言葉が頭の中に響く。
もう、遅い。
私の中ではもう、昨夜の事は『取り返しの付かない事』になってしまっていた。
「どうしよう……」
足の力が抜け、その場にしゃがみ込んだ。
「雪ちゃんの事、好きになっちゃったよ……」
そう口にした途端、涙が滝の様に零れ落ちる。
好きになりかけた時は、何度もあった。
でもその度に、絶対にその一線を越えない様気を付けていたのに、昨日の事でアッサリと落ちてしまった。
好きになっても、どうする事も出来ないのに。
「簡単に落ちるもんだな……」
涙でぐちゃぐちゃな顔を洗い流そうと立ち上がる。
気持ちなんて一生伝えられないし、伝えたとしても迷惑でしかない私の恋心。
成就しない私の恋。
蛇口から流れる水をぼーっと眺めながら、私のこの不毛な想いも、昨夜の記憶も、全部流れてしまえば良いのに。
そう思った。
ぼ~っとする頭で起き上がる。
「……ねむ」
結局、一睡も出来なかった。
怠い体を無理やり起こし、タオルを持って部屋を出る。顔を洗ってサッパリしたい。
洗面所のドアを開けると、先に顔を洗い終えた雪ちゃんが居た。
ドキッ!と心臓が大きく跳ねる。
(うわっ!こ、心の準備がっ!)
まだ早いから起きてないと思った。
「おはよ~……」
まだお酒が残っているのか、雪ちゃんが顔をしかめながらタオルを洗濯機に放り入れる。
「おはよう、ございま、す……」
私は、ぎこちないけどなるべく自然に振る舞い、洗面台の前に立つ。
お湯ではなく、お水を出してパシャパシャと顔を濡らした。
横からこちらを見る視線を感じていたけど、そこは気付いていないフリをする。
「……江奈。昨夜の事なんだけどさ」
急に確信を突く話を振られて、ビクッ!と体が震えた。
「はい……」
キュッと水を止め、ゆっくりと雪ちゃんに向き合った。
私の顔から、ポタポタと水が流れ落ちる。
なんて言われるんだろう。
私は身構える。
しかし、雪ちゃんの口から出た言葉は、凄く拍子抜けする言葉だった。
「アタシ昨夜、何かしなかった?」
「………………へ?」
私は間抜けな声を出す。
え?あれ?……もしかして。
「覚えていない、んですか?」
おずおずと尋ねると、雪ちゃんは少しおどけた様に肩をすくめて言った。
「ええ、綺麗サッパリ。気が付いたら朝で、江奈は居ないし綺麗に片付けられてるし毛布は掛けられてるし。江奈に膝枕を要求した辺りまでは覚えているんだけど……」
雪ちゃんは、うーん、うーん、と頭を押さえて一生懸命昨夜の事を思い出そうとしている。
全く覚えていない?あれを?全然?
(な、んだ……なぁんだ!)
確かに、雪ちゃんはベロンベロンに酔っぱらっていた。覚えていない、なてこともあり得るだろう。
(驚きのあまり、失念していたよ)
それなら、一睡もしないで悩んでいた私がバカみたいじゃないか。
(そっか。そうなんだ……)
私はズキズキと痛む心臓を押さえながら、ニッコリと笑顔を作って言った。
「特に何も無かったですよ?雪ちゃん、酔い潰れてあのまま寝てしまったんです。お部屋まで運べなかったので、毛布だけ掛けさせていただきました」
私の話を聞いて、今まで不安そうだった雪ちゃんの顔が一気に安堵の表情になる。
「そ、そう?良かった~。何か取り返しの付かない事をしてたらどうしようかと思っちゃった!」
「気にし過ぎですよ!そんなに心配しないで下さい」
「良かったわ~。……あ、その部屋着、やっぱり似合ってるわよ。顔もちゃんと拭きなさいね」
ハイ、と私が持って来たタオルを雪ちゃんが手渡してくれる。
「ありがとうございます」
「うん。あ、アタシもうちょっと寝るから今日の朝食はアタシの分は要らないわ。じゃ、おやすみ~」
そう言い残し、ヒラヒラと手を振って雪ちゃんはスッキリした顔で洗面所を出て行った。
手渡されたタオルをギュッと握って、私は立ち尽くす。
――『何か取り返しの付かない事をしてたらどうしようかと思っちゃった!』――
雪ちゃんの言葉が頭の中に響く。
もう、遅い。
私の中ではもう、昨夜の事は『取り返しの付かない事』になってしまっていた。
「どうしよう……」
足の力が抜け、その場にしゃがみ込んだ。
「雪ちゃんの事、好きになっちゃったよ……」
そう口にした途端、涙が滝の様に零れ落ちる。
好きになりかけた時は、何度もあった。
でもその度に、絶対にその一線を越えない様気を付けていたのに、昨日の事でアッサリと落ちてしまった。
好きになっても、どうする事も出来ないのに。
「簡単に落ちるもんだな……」
涙でぐちゃぐちゃな顔を洗い流そうと立ち上がる。
気持ちなんて一生伝えられないし、伝えたとしても迷惑でしかない私の恋心。
成就しない私の恋。
蛇口から流れる水をぼーっと眺めながら、私のこの不毛な想いも、昨夜の記憶も、全部流れてしまえば良いのに。
そう思った。
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