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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい
2.能力の確認
しおりを挟むずっと同じポーズでいて、身体が痛くなってきたところでやっと穴から抜け出す。
穴にずっといるわけにはいかない。
腕は痛いし蜘蛛は怖いが、穴に埋まったままでは水も飲めないしご飯も食べられないし、いずれ待っているのは餓死だからである。
そして、腕が痛いことに慣れてきたあたりで気が付いた。この穴の中、めっちゃ臭い。
すごく獣臭いというか、うんこ臭いというか。地面に散らばっているコロコロした泥団子みたいなものはなんだろうっていうか。これは絶対、なんかの巣だよね。
ウサギや何かの巣だったらいいんだけど、あんなデカい蜘蛛がいたことから考えると、この森のウサギが可愛らしい存在という気もしない。巣の住人が戻ってきたら、また悲劇が起きそうだ。
まあ、とにかくそんなわけで俺はビビりながらも、穴から抜け出したわけだ。
うんこまみれとか言わないで欲しい。
異世界に来てしまったことは不本意ながら認めるしかないだろう。
夜道の帰りで誘拐されて、この森に連れてこられたという可能性はあったかもしれないが、俺は地球上にあんなでっかい蜘蛛がいるなんて聞いたこともない。
もしかしたら俺が知らないだけで、世界のどこかにはいるのかもしれないが、そんな可能性にすがるよりは、まったく違う世界に来たと思って行動した方がいいだろう。
知らないことだらけの非現実的な状況で、自分の常識に従って無謀な行動を起こしてしまうよりずっとましだ。
で、異世界に突然転移してしまったということであれば、俺はもしや何らかの特殊能力に目覚めているのではなかろうか。
小説でも異世界に転移した主人公は、単語チート能力を獲得していた。
俺だって異世界に転移してるんだから、なんかあるはずだ。というかないと詰む。
所持品は服だけという、裸装備で深い森に放り出されて生きていける現代人なんているのだろうか。
少なくとも俺には無理です。
しかしながら、こんな危機的な状況だってのに、不覚にもなんだかワクワクしてきた。
俺はどんな能力に目覚めているのだろうか。魔法? 身体能力? とりあえず戦える能力が欲しい!
俺は手を前に出し、燃え盛る炎を想像しながら、力を込めて言った。
「ファイアーボール!」
……はい、何も出ませんよね。
きっと属性とかの相性があるんだ。俺は特別火には属性がなかったに違いない。
「ウォーターボール!」
ポーズを決めてもう一度叫ぶ。
……俺の見つめる空中には、何も浮かんでこない。
その後思いつく限り、いろいろ魔法を試してみたが、何一つとして実現することはなかった。
え? 俺魔法使えないの?
いやいや、もしかしたら身体能力が上がっているのかもしれない。異世界転移モノの定番。俺はその場で思い切りジャンプをしてみた。
……いつもと変わらない高さ。いや、分かってた……。さっき蜘蛛から逃げてたとき、別に足が速くなってたわけでもなかったし。
「つらい……」
え、これ詰んだんじゃね?
森で身一つでサバイバルとかそれだけでも難易度高いのに、さらにはあんな化け物がいるんだぜ。
……いや、まだ諦めちゃいけない。
まだ異世界転移モノのど定番をこなしていないじゃないか。
「ステータスオープン!」
プゥンといささか間抜けな電子音が頭の中で響いた。
そして目の前に浮かび上がったのは、まな板くらいの大きさの木の板。
そこには、焼き焦げたような文字で書かれていた。
「念動力と無限収納か」
悪くないんじゃないだろうか。道理で普通にナントカボール系の魔法ができないわけだ。
念動力ってことは今ある何かを動かすわけだからな。
何もないところから何かを生み出す魔法を想像したところで、できないってわけだ。
しかし念動か。
俺は目に付いた枯葉を手に取った。念で動かすわけだから、想像力は大事だよな。
俺は某魔法学校の羽根を浮かす魔法を思い出しながら、手のひらに乗せた葉を見つめた。
「ひゅーん、ひょい、と」
指をくるりと回しながら、葉っぱが手のひらから浮き上がる様を想像すると、わずかに自分の中で何かが動いたような感触とともに葉っぱが手のひらから5センチほど浮き上がった。
「よっしゃぁ」
小さくガッツポーズ。
これで何とかなりそうな気がする。ものが動かせるってことは、武器も動かせるってことだから、飛び道具になり得る。これで攻撃に応用できそうだ。
ナイフとかは持ってないけど、岩とか尖らせて、打製石器みたいにして動かして攻撃したら強そうだよね。
それから俺は木の影に隠れながら、念動力の練習を行った。残念ながら周囲に岩や石といったものは見当たらなかったが、森の中ということはそこらじゅうに溢れているものがある。土だ。
土魔法とかあるしな。
とりあえず攻撃になりそうな土を動かして、飛ばすとかやってみたのだが……。遅すぎて使えなさそう。
練習が足りないのだろうか、動くには動くのだがズズズっとゆっくり動く。こんなんじゃ素手で殴った方が早そうだし、敵には確実に避けられる。
その上、俺のイメージ力が足りないのか、1立方メートルくらいの無駄に大量の土を一度に動かしてしまうため、攻撃には向かなそうだ。
いや、ダメだ。こんな環境でマイナス思考に染まってしまってはいけない。
……うん、そうだな。拠点づくりには役立てそうだ。
俺は俺の命を救った穴を見つめ、うんと頷いた。
あんな化け物の闊歩する森で生き残る為には防衛のできる拠点は不可欠だろう。
俺は左腕を腹に沿わせることで傷をかばいながら、歩き出した。
拠点づくりの為に、まずはベストな立地を見つけよう。
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