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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい
7.敷地内建築の限界
しおりを挟む朝起きて外に出ると、天井がまたも崩れていた、なんてこともなく。
石造りのズッシリとした枝ぶりの天井は、しっかりとそびえ立ったままだった。
しかし、その石製の枝の上には蜘蛛の影があった。
「うわ……下から見る蜘蛛、マジグロイ……」
俺の作った防御装置は間一髪役立ってくれているようだった。
蜘蛛はガチガチ言いながら中に入ろうとしているようだが、石製の枝はビクともしない。
溝から少し顔を出した俺に気がつくこともなく、蜘蛛は悔しそうに石を砕こうと噛み付いたり体当たりをしたりとジタバタしている。
果物、大好物だったんだな。
でもごめんな。これは俺のものです。
もともと奴らのおやつのようだったから、ちょっと悪い気もしないでもないが、俺のこと食べようとしたんだからおあいこ以上だろう。へっ!
ついには蜘蛛は枝と枝の隙間に口を突っ込んで糸を垂らし果物を取る作戦に出たらしいが、そんなことは織り込み済みだ。
大体俺の命を守るべく作った防壁なのだから。
蜘蛛の糸は何層にも張り巡らされた立体的な枝ぶりに阻まれて下まで行き着くことはなかった。コンセプトは、光は通すがモノは通さない、だからな。
やがて蜘蛛は諦めたらしい。天井から離れていった。
「……ふふふ……ふふ」
思わず笑いが湧き上がってくる。
「領地、とったどー!」
俺は片手を上げて叫んだ。
この防御装置が蜘蛛に効くと分かったいま、俺は異世界に俺に自由にできる土地を手に入れたというわけである。
ルンルンで光を浴びながら、ゴロゴロする。
フサフサした芝生に寝っ転がると気持ちがいい。俺の作った草ベッドは2日目ともなるとヘタってきているし、青くさくなってきてるからな。なんかチクチクするし。
周囲は木漏れ日がキラキラと降ってきており、明るい印象だ。
ふとあたりを見回していると、敷地内に木や草も生えていないぽっかりと空いた空間があることに気がついた。
確かあのあたりは木材を確保する為に木を取りまくったところだ。果物が成ってない木はかなり乱獲したからなぁ。
ちょうどいい。
暇は有り余ってるし、あそこに何か建てようかな。
昨日のフローリング作りと天井作りで、かなり俺の念動力による建築スキルは上がったように思う。
しかし、俺の手持ちの材料といえば石と木しかないので作れる建築物も限られてくるよなぁ。
……いや、そんなこともないか。
無意識に日本の現代建築で考えてたから、ガラスやら金属やらがないとダメだと思ってしまったが、ヨーロッパの家は現代だって、結構石造りを基調とした家は残ってるし、有名な作り続けられてる某教会も石製だ。日本だって、神社も貴族の屋敷も昔はオール木造。釘すら使わなかったとかいう話も聞いたことあるし。
俺の建築はもとより念動力頼りなので、釘とかは必要ないしなぁ。
そう考えると色々作れるな。
俺はぽっかりと空いたスペースが急に狭くなったような気がしていた。
◆
それからの俺は、家づくりにハマっていた。
1週間も経つと敷地内には色々な建物が建っており、ちょっとした村のようになってしまっている。
イメージとしてはヨーロッパの石造りの街というか。
街っぽいイメージの建物を建てていったのだが、面積的に言えば村程度しかないので何と言っていいのかわからないが。
ヨーロッパ行ったことないし、建築の勉強もしたことないから完全に俺のイメージでヨーロッパ風の家を建てていった。
トンがった三角屋根の家や、3階建ての長屋風ビルディングなど色んな建物に挑戦している。
途中まではバラバラにそのへんに思いつくままに建物を建てていたが、敷地内の空きスペースがなくなってくると路地の作り方なんかにもこだわり始めた。建物ごと念動力で動かし区画整備を行った。
石造りが立ち並ぶ細い路地が坂道になっていて。
路地の所々には、カフェのオープンスペース風のウッドデッキや木製のベランダ。
はたまたある路地には、路地を挟んだ家と家を繋ぐ渡り廊下を繋げたり。
家々の窓は四角くしたり、細長いカマボコ型にしたりして、そこに木製の細かいサッシを付けた。
相変わらず地下から岩を採掘していたところ、白みを帯びた岩や黒みを帯びた岩も出てきたので、それも街全体にアクセントに使っている。
黒っぽい岩についてはある程度の量が確保できたので、街に石畳にして敷いている。
といっても本物の石畳みたくひとつひとつ石のタイルにしているわけではなく、実際には薄く引き伸ばした岩に石畳風の模様をつけているだけという現状だ。タイルを作ってもセメントなんかを作る技術はないので、タイルを貼っていく術がないのだ。
同様の理由でいくつかの家はレンガ風の壁となっているが、実際にはレンガではない。
と、ガワの出来栄えに満足したところで内装に取り掛かった。
木材を念動力で加工して、意味もなくタンスやテーブルやらを設置していった。
こうして、最高にオシャンティな街が出来上がったのだ。
と、この日の俺は、崖沿いに建てたこの街の中心部にある教会(という設定)に建てられた物見塔の上に立ち、俺の作った街を眺めていた。
作り上げた街を見てご満悦……というのもあながち間違いではないのだが、それだけではない。
空きスペースが完全になくなったのである。
最近さすがに果物と水だけというめちゃくちゃヘルシーな食事には飽きてきた。そして切実な問題。そろそろスーツが限界を迎えている。
「ちょっとくらいいいよね」
と外に出ることにしたのだ。
街を眺めていれば退屈紛れにはなるかなとか思ったが、無理だった。
最近、果物目当ての蜘蛛たちが天井上に現れることもなくなったし、すぐに戻れる範囲でなら、ちょっとくらいなら、壁の外の様子見てきてもいいよね?
新しい食材欲しいし!
新しいスペースも欲しいし!!
布の代わりになるようなもの欲しいし!!!
あわよくば現地人に出会えないだろうか!
そんな期待を胸に恐る恐る壁の外に出たわけだが。
1週間という短い時間で俺は随分と気を緩めてしまっていたらしい。
「そらそうだよね!!」
俺は怪物に追われていた。
幸い蜘蛛ではないのだが……体長3メートルもある、蟻だ。なんか、酸みたいなの吐いてきてるし……!
蟻の口から吐き出された液体が防壁から出てきた俺目掛けて飛んできたので、咄嗟に横に飛び退いたところ、液体がかかったところがシュウシュウと溶け出していたのだ。
絶対、酸だ! しかも強酸だ!
蜘蛛よりよっぽど凶悪だよお……!
しかも強酸によって、俺は自分で作った防壁内に入るための唯一の侵入経路を塞がれてしまったのである。ホント泣いちゃう。
ゼエハア言いながら蟻から走り回っていたのだが、飛んできた酸を避けようと身体を右に捻ったところで、足首がグキリと曲がった。
あっと思った瞬間には地面が目の前に迫っていて、俺は盛大にすっ転んでしまった。
すぐさま身体を起こしたが、万事休す。
俺の頭は、蟻のアゴの間にセットされてしまっていた。
強力な酸という遠距離武器を持ってるのに、わざわざアゴで嚙み殺そうなんて、これが舐めプというやつか。
あー、死ぬ。
そう思ってギュッと身体に力を入れた瞬間、ぼとりと蟻の頭が落っこちた。
「……へ?」
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