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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい
13.異世界の服屋と宿屋
しおりを挟む「じゃあ、まずは服屋に行こう」
冒険者ギルドを後にした俺たちは、ファナさんの提案により服屋に向かうことになった。いろいろテンパっていて忘れていたが、そもそも俺が造り上げた防衛拠点を出て街を探そうという気になったのは、スーツが限界を迎えていたからである。
思い出してみれば冒険者ギルドの中にも俺ほど汚れてボロボロの格好になった奴はいなかった。冒険者って聞くと、汚そうなイメージがあるからその中でもワーストをかざることになった俺の汚さと言えば、プレミアム級だろう。
口にこそ出さなかったが、きっとファナさんも思っていたに違いない。汚いって。
あと、もう鼻が慣れてしまっていてわからないだけかもしれないが、きっと俺は臭い。いくら洗っていたといっても、井戸での水洗いだし、これだけ着倒している服が臭くないはずがない。
第一印象が臭くて汚い男だなんて、へこんでくるな。
「私がよく行ってる顔なじみの服屋があるから、そこに行こう。冒険者向けの動きやすい服装を取り揃えてくれているうえに、そこまで高価ではないから、冒険者をはじめるならうってつけだろう。あ、そこの角を右だ」
「ありがとうございます。やっぱり冒険者やるなら動きやすい服装ですよね。あ、でも魔法使いならローブとか着るのでしょうか?」
「まあそうだな。めったに魔法使いなんていないから、見たことはないが、噂によるとそうらしい。もっと都会ならまだしも、こんな辺境に魔法使い向けの上等な店なんてないぞ」
この世界だと魔法使いは珍しい職業のようだ。しかも、都会にしかいないエリート的なイメージ。魔法が使えていたらなぁ……。ないものねだりしてもしかたないか。せめて念動力を使えるだけでもよしとしないと。
ファナさんに連れられて、入り組んだ路地を進む。2階建て以上の建物はなく、民家の間を通り抜けていっている気分になる。
冒険者ギルドで試験やら登録やらしている間に、日は高く登り切って、時刻は昼過ぎになっていた。
「あそこが服屋リンネルだ」
ファナさんが指さしたところには、想像通りのザ・服屋って感じの建物があった。道に面した壁にはこの街では珍しい、ガラス窓がはめ込まれていて、窓の格子から中の様子が伺える。店先には服を着せられた木製のマネキンがたくさんいた。着せられている服は、柔らかそうな麻っぽい素材でできただぼっとしたシャツに、丈夫そうなズボンであったりする。色は象牙色やカーキ、茶色といった自然に紛れやすそうな色ばかり。
冒険者向けの服屋というファナさんの前情報は確からしい。
ファナさんが木製のドアの真ん中にガラスが埋め込まれた重そうな扉を開くと、カランカランと音がした。
「はーい、いらっしゃ……」
店の奥から出てきた栗毛の女性がファナさんを見るなり固まった。……この反応見たことあるぞ。
しかし、ここからの反応は冒険者ギルドとは一味違った。すぐに女性は硬直から解けると、満面の笑みで胸の前で手を合わせた。
「あらあらあら、まあまあ……ついにファナにも春が来たのね!」
いろんなところでこんなしょぼくれた男と誤解されて、ファナさんもいい加減可哀想である。2回目ともなると慣れたもので、俺もずいと前に出た。
「いえ、お姉さん、それは誤解です。ファナさんは私の命の恩人であり、さらには冒険者はじめたてでダメダメな俺の面倒を見てくれるという大天使ですが、決して! 俺とそのような関係にはありませんから!」
俺はできるうるかぎり全力で否定した。
ファナさんみたいな美人で優しいいい女が、四捨五入して三十路にもなる、ほぼ無職と同等の汚い男と、男女の関係にあると思われるなんて、可哀想すぎる。
「そ、そんなに全力で否定しなくても……」
心優しいファナさんが気遣いの言葉をかけてくれるが、俺は首を振った。
「いいえ。誤解されたままでは、ファナさんの価値が下がってしまいます」
「私のがか……? 下がる価値なんてもともとないと思うが……それに、マコトが私の価値を下げるとも思えん……」
ファナさんは何だか照れくさそうに首をひねっているが「そういうものなんです」と俺は大きく頷いた。俺たちのやり取りに、服屋の女性は目をしばたたかせていたが、なぜだか途中からさらに笑顔が深くなって、うんうん頷いていた。
「ファナぁ、いい子みつけたじゃなぁい」
なぜか誤解が深まっていた。
ファナさんの肩をツンツン突いている。
「いや、だからそういうのじゃないって……!」
ファナさんは否定しつつも照れたように赤くなっている。何だか期待してしまう反応だが、これまでのやり取りを鑑みるにファナさんは相当な初心なので、これは俺が好きとかではなく、色恋沙汰でいじられているのに照れているのだろう。そうだぞ、俺。期待しちゃダメダゾ。自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。
「それで、今日は彼の服選びってわけ? 見たところ、やたら上等な服で一週間は森ごもりしていたようだし、何か特殊な事情があってやむにやまれず冒険者はじめたって感じねぇ。動きやすい汎用性の高い冒険者向けの服と下着類の日用品を一式ってところかしら」
ファナさんをからかう姿からは想像もつかないが、さすがプロ。俺が一週間森にいたことを言い当ててきた。しかも、こちらのおおよその目的も一瞬で見抜いている。これなら安心して任せられそうだ。
「はい。着の身着のまま気がついたら森にいまして、服が他にないので、おっしゃる通りのものを見繕っていただけるとありがたいです」
「はーい、了解です。じゃあ、おふたりはそのへんに座って待ってて」
そういうと女性は、奥に引っ込んでいった。服を用意してくれるようだ。
◆
「いやぁ、いいお店を紹介していただき、ありがとうございました。後、服も買ってもらってしまって、申しわけないです。自分で稼げるようになったら、絶対支払いますので!」
「気にしないでいい。私からしたらあれくらい別にそんなことはない額だから、気にせずもらっておいてくれ」
「そんなことできませんよ。ただでさえお世話になっているのに……」
服屋を出た俺たちはおしゃべりしながら街を歩く。
思ったより服屋に時間はかからなかったので、まだ夕方に差し掛かるくらいの時間だ。ファナさんの定宿に連れて行ってもらえることになった。この世界には当然スマホや電話はないので、一度はぐれると面倒なのだ。冒険者同士もパーティーで同じ宿に泊まるらしい。
俺とファナさんも一時的とは言え、パーティーを組んでいるようなものなので、一緒の宿に泊まるのも道理だ。
そういえば宿を取るにしても、早いうちに取っておいた方がいいのではないだろうか。いきなり出張することになったときには、まず飛行機と宿を押さえておかなくては、予約でいっぱいなんて悲劇が起こりうる。
「宿が満室なんてことはないですかね? 急いだほうがいいんじゃ……」
「はっはっは! 宿の女将さんには悪いが、ここは田舎だからな、めったに満室になることはないよ。だからそんなに焦らなさんな」
不安になってファナさんに聞いてみると笑い飛ばされたので安心した。
◆
「え、満室?」
俺の問いかけは見事に「フラグ」として機能してしまったらしい。
宿について申し訳なさそうな女将さんから言われたのは、そんな一言だった。
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