異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍

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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

15.真・はじめてのクエスト

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「よしっ!」

 俺は腕まくりした両手を腰にあてて胸に張った。
 すっきりした部屋を見回して、ドヤ顔になる。横ではファナさんが無邪気に拍手してくれている。どんどんぱふぱふ。

「綺麗になったなぁ! まさかこんなに綺麗になるとは思っていなかった! マコト、お前すごいなあ! っていうか、なんだそのスキル! やばすぎるだろう!」
「戦闘には役立たないんで、うれしいですね」
「いや、すごいよ! そんなスキルははじめて見た!」

 手放しに褒めてくれるファナさんに照れ照れ謙遜しながらも、「せやろな」と思ってしまう自分もいる。
 だって、普通にしてたら棚に入り切らない荷物が大量にあり、そのどれもが触っていいのかわからないというミッションインポッシブルな状況を切り抜けたのだ。下着とかがポイと放置されているからうかつにひっくり返すと、下着を直視してしまったり、持ち上げてしまったりなんて事態になりかねないのである。
 そんなときに俺のスキルは非常に役に立ってくれた。
 ありがとう、無限収納先生。
 使い方に慣れてきた無限収納先生は、収納枠が出てくるパネルを視界に表示された状態で近くにあるものを意識するだけで、四次元空間に収納できるようになったのだ。その技能を最大限生かし、部屋のごみごみとしたものたちの片づけは秒で終わった。しかも適当に放り込むだけで分類してくれる。ソート機能つきとかありがてえ。
 そこからはものがなくなって見えた汚れた床やら、角に溜まったホコリやらを掃除してあげるだけで――これも無限収納先生頼りである――部屋は見違えるようにきれいになった。殺風景になった部屋に、必要最低限の荷物を取り出して念動力で一気に収納してあげれば、完了だ。
 無限収納を元の世界で持っていたら運送業をはじめていただろうが、クソデカい蜘蛛やら蟻が闊歩するこんな危険な異世界じゃ移動なんてまっぴらだし、果物や建材入れと化していた技能だったが、もしかして清掃業とかはじめたら大儲けできるのでは?
 そんなこんなで、困難かと思われた異世界最初のクエストはあっけなく完了したのだった。

「じゃあ、部屋も綺麗にしてくれたことだし、マコトも買ってきた服を着て身綺麗になろうな。悪いが、正直汚らしいので食堂に入るのには適さないと思う……」

 そんな風に気分よく片付け終わった達成感に浸っていたところ、ファナさんにいきなり言葉のナイフを刺された。ええ、俺も思ってましたよ、汚いって。
 でも、美人に「汚らしい」とか言われると心にくるものがあるね。
 ショックなことはさておき、確かにこの泥まみれの恰好は食事に行くにはよくないと思うので、素直に従うことにする。

「はい、そうさせていただきます」
「おお、ここの食事はうまいぞ。おすすめだ」

 そう言ったファナさんはなぜかその場から動かない。当然、着替えると言っているのだからせめて後ろを向くとか部屋から一瞬出ていくかと思っていた俺は不思議そうにファナさんを見てしまう。ファナさんも不思議そうに俺を見ている。なぜだ。二人して困惑顔で見つめ合う謎の空間が出来上がってしまった。

「あの……下着もまるっと着替えるので、あんまりまじまじと見られると恥ずかしいんですが……」

 おずおずと申し出る。いや、もしかして、見たいとか?
 ファナさんが見たいというのなら、俺の貧相な身体でいいのならちょっと恥ずかしいがいくらでも見せる。なくなるもんじゃないし。よし、と気合を入れたところだった。

「す、すまん!」

 ファナさんは顔を真っ赤にして、部屋を飛び出していった。ものすごい勢いで閉じられたドアが音を立てる。
 あ、初心すぎて何も考えてなかっただけか。
 納得するが、こうなってくるとちょっともったいないことをした気がしてくるから不思議だ。




 気を取り直して食堂。
 着替え終わったころに控えめなノックとともに戻ってきたファナさんとともに、夕食を食べる。

「待って。美味しすぎる」

 俺は尊すぎるものに出会ったときのオタクのような反応をしてしまった。
 何かの肉の香草焼き的なものとパンとスープという非常にシンプルな食事ではあったが、めちゃくちゃ美味かった。普通にレベルの高い料理だとは思うが、それ以上に一週間ぶりのまともな食事だ。めっちゃくちゃ美味かった。ここ一週間ずっと果物だったからな。
 肉汁が口の中に広がる。
 塩味が舌を通じて脳みそに伝播していく。
 ああ~、飯じゃ。飯。

 気が付くと俺は涙ぐんでいた。食べ物食べた感動で泣くとか、漫画だけの話だと思ってた。

「ファナさん、めちゃくちゃ美味しいです。久々にご飯を食べました。すっごい美味しいです」

 相変わらず語彙力の低下したオタク状態だが、この感動を誰かに伝えたくてファナさんに一生懸命話しかける。

「そうか。よかったな」

 ファナさんはあきれ混じりながら、優しそうに目を細めて微笑んでくれた。
 何その微笑み方。美人がイケメンすぎるしぐさすると、ときめきが止まらないんですけど。
 幸せすぎる空間に、俺ははじめて異世界に来たことに感謝した。

 ちなみにあまりに美味しそうに食べていたからということで女将さんがサービスでお肉を追加でくれた。嬉しすぎて、女将さんが女神に見えた。




 翌朝。
 ぐっすり寝った俺は、朝日によって目覚めた。洞窟で寝ていたので、朝日にあたるとか久々である。清々しくて気持ちいーね。
 残念ながら一人用の部屋だからベッドなんて一つしかない! ベッドと床でゆずりあってめんどくさくなって一緒に寝る、なんてテンプレ的ロマンス展開は起こらなかった。
 ファナさんの部屋ってば、片付けられないからなのか何なのか知らないけど、一人暮らしなのに5室もあって、うち2室が寝室なのだ。ふかふかのベッドで一人快適に爆睡しましたとも。
 明るい朝も、ふかふかのベッドも久々すぎて、すっきり目覚めてしまった。
 会社に行ってたときとか、目覚まし5分おきにかけても起きられなくて、いつも朝ご飯もおざなりにダッシュで会社行ってたけど、自然に目覚められるとか幸せすぎる。

「あ~さご~飯~朝ごっは~ん~」

 ファナさんはまだ寝ているようなので、部屋を出歩けないがお腹減った。
 小声で鼻歌を歌いながら、俺は台所に立つ。5室もあるうち1室はキッチン&ダイニングになっているのだ。昨日はもう遅かったから料理の材料を買えていないが、森からたんまり持ってきたフルーツがあるのでそれを朝食にしよう。ご飯らしきご飯が食べたいが、りんご丸かじり生活から抜け出せるだけでもうれしい。
 台所に備え付けられたナイフを使って、リンゴを剥いていく。
 ごきげんなので、うさちゃんとか作っちゃう。

「んー、おはよう、マコト」

 シャリシャリとリンゴを剥いて、これまた台所備え付けの皿に盛りつけているとファナさんが起きてきた。

「おはようございます、ファナさん。もしかして物音で起こしてしまいました?」
「いや、大丈夫だ。冒険者は大体これくらいの時間に起きるからな」
「そうでしたか、よかったです。ファナさん、朝ご飯はどうされますか? よかったらリンゴ剥いたのでいかがでしょうか」
「ありがとう! いただくよ。……って、お前それアプルルじゃないか!」
「なんですかアプルルって?」
「ギルドで常時『採取依頼』が出てる植物だ。美味だし、霊薬の材料になるうえに、ジャイアントスパイダーの大好物なもんだから入手困難ということで、めちゃくちゃ高値で取引されてるんだよ!」
「ええ!?」

 驚くファナさんに驚いたところ、熱弁をされて、俺はさらに驚いた。
 だって、毎日食べていた植物がそんな高級食材だったなんて驚きでしかない。確かにめちゃくちゃ美味しいリンゴだよなぁとは思っていたけど。リンゴって名前じゃない上に、高級食材だったとか。
 というか、リンゴ以外にもいろんな種類のフルーツをしこたま持ってきているけど、売れるのかな? だったら、嬉しいな。図らずも収入が得られそうだ。
 驚きがひいてくると、お腹の減りが気になってきた。

「まあまあ、美味しいんで、とりあえず朝ご飯にしましょう」
「も、もったいない気がするが、マコトがいいというならご相伴にあずかろう……」

 高級食材とは言えども、俺にとっては慣れた味だし、防衛拠点に戻れば畑も作ってある。
 気にせず朝ご飯にすることとしたが、ファナさんは恐る恐るといった様子でウサギさんにしてあるアプルルにフォークを刺して、恐る恐る口に運んだ。

「うま……」

 ファナさんから思わずといった感じで漏れた一言に頷く。美味しいは正義だよね。





 リンゴもといアプルルが売れると分かったので、俺は意気揚々と冒険者ギルドに向かっていた。昨日の適性試験から冒険者って何が何でも戦わないといけない職業っていうイメージがついてしまって、絶望的な気分になっていたけど、元いた世界でもRPGの冒険者たちに課せられるクエストの中には「薬草を何本とってくる」だとか「鉱石を何個取ってくる」といった依頼もあったよなと思い出した。レベルが低いうちはモンスターの視界に入らないようにコソコソしながら、採取ポイントに向かう作業を繰り返したものだ。
 それなら俺にもまだ希望はある。

 しかも、ファナさんに詳しい話を聞いたところ、常時出されている「採取依頼」に関しては前もって依頼を受けていなくてもモノを持っていけば達成扱いになるらしい。
 早くファナさんのすねかじりから抜け出すためにも、在庫処分をしよう。
 まだ太陽が昇り切らず、空が白んでいる早朝の街を歩き、ギルドを目指す。まだ人通りは少なく、街は静かだ。
 ギルドの扉を開けると、冒険者はこのくらいの時間に起きるというファナさんの言葉が間違っていなかったことを思い知る。結構、ごった返している。街のどこにこれだけの冒険者がいたのだろう。依頼クエストが張られたコルクボードの前にたくさんの冒険者がたむろして、押し合いへし合い依頼クエストの書かれた紙をゲットしようとしていた。
 そんな冒険者たちを後目しりめに一目散に受付に向かう。なぜか長蛇の列になっている受付と、そんなに並んでいない受付があったので空いている受付に並ぶ。
 列を進み、受付カウンターにたどり着くと、昨日受付をしてくれたお兄さんがいた。隣のやたら並んでいる列には小動物系の可愛い女の子がいた。……なるほど。そういうことね。
 ファナさん同行の俺は余裕の表情である。

「おはよう。お、マコト君、さっそくきたんだ。初依頼クエストはどの依頼クエストにしたのかな……って、依頼用紙持ってきていないじゃない。依頼を受けるときは依頼掲示板(クエストボード)から用紙を持ってこないとだめだよ」
「おはようございます、受付のお兄さん。今日は『採取依頼』の納品に来ました」
「ああ、なるほど。常時の採取依頼なら用紙は必要ないもんね。で、そのものはどこに? ギルド内に持ってこれないような大きさの常時依頼はないと思うんだけど」
「アプルルを持ってきました。たくさん」

 不思議そうにするお兄さんに、無限収納から出したかご一杯のアプルルを「はい」と渡す。かごは防衛拠点近くの木に巻き付いていた蔓を切り取ってから念動力で動かしてつくった。手でやるより千切れたりしないから簡単だった。

「はい。アプルルは1つ3銀貨だよ……って、えええ!? 今、どこから出したの!?」
「無限収納っていう魔法で、異空間にしまってありました」

 驚くお兄さんの声にギルド内の視線が集まる。

「む、無限収納?」
「はい。こことは別の空間にたくさんものを保管しておけるんです。目に見えない物置き的なものですね。戦いには向かない魔法なんですが、便利ですよ」
「いや、何そのスキル……! はじめて聞いたんだけど! そんなすごい能力あるなら昨日言ってよ!」
「いや、でも、戦闘はからきしですからね」
「確かにそうなんでしょうけど! ギルドの試験的にもカードの登録内容的にもそうなっちゃいますけど。そうじゃなくて!」

 受付のお兄さんが何だか愕然としている。
 あれかな? マニュアルが現実にあんまり即してない的な驚きがあったのかな。
 攻撃力ばかり測られるから、冒険者ギルドってモンスター倒してなんぼの超脳筋的社会なのかと思ったが、お兄さんの価値観的には評価に値する能力だったようだ。
 もしかして、冒険者的にちょっとは役立つ能力なのかな? 確かにめちゃくちゃ便利能力だと思うよ。この世界にポーターさんっていう職業があれば引っ張りだこだろう。お兄さんの反応を見るに、そんな職業はなさそうだけど。

「で、お兄さん、アプルルは買い取っていただけるんでしょうか」
「ああ、ごめんねえ、取り乱しちゃったよ。ははは……もちろん買い取らせていただきます」

 力なくお兄さんが会計をはじめてくれたので、ギルドカードを手渡す。
 まあ、マニュアルとか組織とかで、漏れなく人事評価をするのにはなかなか難しいものだよね。

 そんなこんなで、俺ははじめてのクエストでいとも簡単に銀貨1000枚を手にいれたのだった。
 なんだか街に来てからいいことばかり起きている気がする。
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