異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍

文字の大きさ
17 / 55
第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

17.スキルが有能すぎた

しおりを挟む

 マンゴーオレンジを収穫しまくり気が付くと、太陽が天頂に来ていた。お昼ご飯の時間だ。
 キリも良いので、そろそろ切り上げて帰ることになった。
 小腹が空いたのでちょっとお行儀が悪いが、歩きながらマンゴーオレンジを食べる。手で剥けるので食べ歩きに向いている。味はマンゴーに若干オレンジの香りが付いている感じだ。みずみずしくて美味しい。

「おう、もう戻って来たのか。今日は初日だから様子見だけか?」

 昨日と同じ門番さんが話しかけながら俺の頭を撫でてくる。反射的にサッとファナさんの後ろに隠れる。二度も男に頭を撫でられるなんて。門番さんは俺を犬か猫かなんかだと勘違いをしているのだろうか。

「いや、普通にクエストをこなしてきたよ。大収穫だ」
「なんかいいものがあったのか、マコトが意外と強かったのか。ま、なんにせよ良かったな」
「うむ」

 たぶんファナさんは物理的に本当に大収穫をしたから大収穫といったのだろうが、門番さんはそういう意味ではなく、収穫を成果的な意味にとらえているため、会話が食い違っている。リアルなア〇ジャッシュを見た。ファナさんも門番さんも互いに気が付いていないようだが面白いのでそのままスルーして、街に入る。
 ICカードさながらのギルドカードもちゃんと門の器具にかざした。
 来た時と同じように商店街を通り、一直線に冒険書ギルドに向かう。朝より商店街の人通りは多く、早歩きするくらいがせいぜいだが、より道をしていたらお昼時を逃してしまいそうだからな。せっかく現金収入を得られたので、さっさとファナさんにお金を返して、初任給でお昼ご飯を食べたい。きっとおいしいだろう。
 ギルドに着くと朝ほどの混雑はなく、比較的空いていた。さすがに朝受けたクエストをクリアして戻ってきている人は少ないのだろう。きっと今いる人たちは、今から長期クエストや短い時間で終えられるクエストを受託しに来た人たちだ。
 今日こそは美人なチャンネーのいる受付に行けるかもと期待したが、残念。受付カウンターにいたのは、件の、俺の登録をしてくれたお兄さんだけだった。
 ……ちょうどお昼休みだったのかもしれない。

「ありゃ、マコト君、もう来たの。やっぱり何かクエストを受けることにした?」
「いえ、常時出されている採取依頼を受けることにして、もうクリアしたので、来ました」
「……マコト君のヤバイ謎スキルと、ファナの実力があれば、そらもう楽勝でめちゃくちゃ集まっただろうね。……よし、もう僕は驚かないよ! へい、かもん!」

 朝はしこたま驚いてくれたお兄さんが気合を入れて、受領用のカゴをたくさん受付カウンターの上に出してくれたので、俺も遠慮せずに『無限収納』先生から果物を取り出していく。カウンターの上に乗せられたカゴがいっぱいになった。

「はい、受領しましたよ。精算してくるからちょっと待っててね。……しかし、めちゃくちゃ持ってきたね。君、これだけでもベテラン冒険者パーティーより稼いでるよ」

 カゴを台車に載せながらやれやれと首を竦めるお兄さん。終わった雰囲気のところ申し訳ないが、まだ終わっていない。全然、『無限収納』先生には今日の成果物である青果が残っている。これぞ青果物だ、なんつって。

「あの、まだあるんですけど、一回の受付数に制限があるとかですか? 値崩れするだとか、売りさばけないだとか」
「……え」
「いや、マコト、そんなものはないはずだぞ。しかし私が採取依頼をしていたのは昔だから、今はどうなのかわからないが……どうなんだ?」

「え」と言ったまま固まっていた受付のお兄さんがファナさんの問いかけで再起動した。そして、深呼吸をして俺を見据えてきた。何だか目が座っていて怖いんだが……。

「……あと、どれくらいあるんでしょうか?」
「今のカゴたち10回分くらいです」
「じ、10個ぉお!? ど、どんだけ持って来たんだこの人たち! くそお、もう驚かないと思ってたのに……! 思ったよりさらに自重してなかった!!」

 お兄さんが叫んだ。俺はびくりと跳ねた。
 確かに無限収納先生がいなかったら信じられない数だと思うが、魔法もあるらしい世界でここまで驚かれるとは思っていなかった。でも、ファナさんも問題ないって言ってたしなぁ。この果物だって、傷を癒したり、病を治したりする霊薬の材料になるからいつでも品薄状態で、どれだけあっても問題ないものだって聞いたし。一気に採取しても次の日には復活するから、絶滅とか気にせず収穫していいって。

「あの、だめでした? 売らない方がいいですか?」
「そんなわけないよ! すべて受領させてもらうよ!」

 あ、よかった。
 騒動はあったものの、無事にマンゴーオレンジの納品はすべて完了した。
 何度も受付奥の倉庫らしきところとカウンターを往復させることになったお兄さんにはちょっと申しわけないことをしたが、一気に現金収入を得て、俺たちはホクホクでギルドを後にしたのだった。


 ◆


 マンゴーオレンジの収穫によって得たクエスト報酬は、ファナさんに半額渡しても全然かなりの収入になった。その足で商店街に向かい、ランチを購入。サンドイッチ的なものです。固めのナンのようなものにベーコン的なものが挟まれているもの。
 ランチは店で食べるより、屋台で買ってきたものを家で食べる人の方が多いらしく、ランチが食べられるお店というのが少ないのだ。
 ファナさんオススメだという、ベーコンサンドを無限収納に入れてお持ち帰りだ。冷めないし最高だな。ゆったりとした気分でファナさんの宿に戻る。
 ご飯を食べる前に、さっそくファナさんに洋服代と昨日の宿泊代と夜ご飯代を支払おうとすると、ファナさんは「そんなもの先輩としておごってやるからいい」と言ってくれたが……。

「今後もファナさんに今日みたいについて行っていただきたいんです。やっぱり俺、弱いですし。そうなってくると、おごってもらっているというのも悪いですし、お金に関してはきっちりした方がいいと思いますので、全額返させていただけると非常にありがたいのですが、……ダメですか?」

 と、言ってしまってから、はたと気が付き後悔する。
 いや当たり前にこれからもついてきてほしいとか言ってしまったけど、昨日のあの、冒険者をいともたやすくなぎ倒しているようすを見るに、ファナさんは相当優秀な冒険者だろうし、初心者の採取依頼になんか付き添うのは嫌だろう。
 それって、ネットゲームでも忌み嫌われる『寄生プレイ』にあたるのでは。

「ご、ごめんなさい、やっぱり今のはなかったことにしてください。採取依頼になんか付き合わされるの、嫌でしたよね」

 慌てて弁明する。

「穴掘れば逃げるのは簡単ですし、生計も成り立ちそうです。ただでさえ宿の一室をしばらくお借りすることになるので、これ以上は俺の罪悪感が……」
「いや、別に嫌じゃないぞ。全然ひとりでやるより儲かりそうだしな。びくびくしないでまとめて集められた方が効率もいいだろう。それに、お前について行った方が面白いことが起きそうだ」

 言い訳を言い募っていたところ、その懸念をファナさんにあっさり否定された。
 異世界での初めての知人であり、親切にしてくれた命の恩人とまだしばらく一緒にいられそうだと分かって、知らず知らずのうちに緊張していてこわばっていた肩の力が抜けた。

「じゃあ、これから、よろしくお願いします」
「パーティー結成だな」

 笑顔になってファナさんを見ると、ファナさんも微笑んでいた。
 パーティー結成か。パーティーには名前をつけたりするんだろうか。年甲斐もなく、わくわくしてきた。
 そわそわした、それでいて和やかな雰囲気の中、おランチの時間が始まった。
 ベーコンサンドは非常に美味でした。


 ◆


 それから、俺たちは採取依頼で荒稼ぎの日々を始めた。正直笑いが止まらない。
 マンゴーオレンジの他にも、霊薬の材料になるという薬草を集めたり、石ころを集めたりと様々なものに手を出した。
 時折モンスターに襲われたり、いっぱい稼いでいることが伝わったらしくゴロツキに襲われたりしたが、ファナさんが助けてくれるので問題ない。
 ファナさんはファナさんでたくさん稼げるので、いままで手が出なかった装備が手に入ったから強いモンスターで試し斬りしてくる! と嬉しそうに出かけている。
 最近は、1週間に1度くらいのペースで納品して、あとは試し斬りをするファナさんを見送り家事をして時折ショッピングに行くという「ザ・主夫」のような生活をしていた。

「ファナさん、おはようございます。朝ご飯できてますよ」
「おう、おはよう、マコト。おお、今日はベーコンエッグとふわふわのパンか。うれしいなぁ、私これ好きだ」
「ありがとうございます。これはパンケーキですよ」
「ふわふわのパンはパンケーキといったか」

 起きてきたファナさんに、ご飯と飲み物を出して挨拶をする。
 なんだか、落ち着く朝の空間だ。「いただきます」と手を合わせて、一緒に食べ始める。
 はじめはかまど型の魔道具での調理に慣れず若干焦がしてしまったりしたが、一応自炊はしていたし、キャンプやバーベキューやらで調理自体はしていたので、最近は慣れてきた。
 うん、今日もちょうどいい、半熟の目玉焼き。
 目玉焼きの固さは好みが分かれるが、俺もファナさんも半熟が一番好きなので、争いは生まれなかった。卵は鶏のたまごではなく、「コココ」という鶏によく似た、鶏よりは丸っこい容姿のモンスターから採取したものだ。街ではあまりないらしいが、自分たちで採取したものなのでガンガン使う。

「じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい、ファナさん」

 ファナさんを見送り、念動力で皿を洗いながら思う。
 異世界来てどうなるかと思っていたけど、幸せだ。元の世界より、スローライフだし、必死こいて働かなくていいし、残業はないし、同僚はステキで美人で気遣いイケメンなファナさんだ。幸せすぎる。
 幸せすぎて何か起きそうで怖い。

 そんな風に考えていたのが悪かったのだろうか。その穏やかな繰り返しの日々は変化を迎えることになったのだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...