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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい
17.スキルが有能すぎた
しおりを挟むマンゴーオレンジを収穫しまくり気が付くと、太陽が天頂に来ていた。お昼ご飯の時間だ。
キリも良いので、そろそろ切り上げて帰ることになった。
小腹が空いたのでちょっとお行儀が悪いが、歩きながらマンゴーオレンジを食べる。手で剥けるので食べ歩きに向いている。味はマンゴーに若干オレンジの香りが付いている感じだ。みずみずしくて美味しい。
「おう、もう戻って来たのか。今日は初日だから様子見だけか?」
昨日と同じ門番さんが話しかけながら俺の頭を撫でてくる。反射的にサッとファナさんの後ろに隠れる。二度も男に頭を撫でられるなんて。門番さんは俺を犬か猫かなんかだと勘違いをしているのだろうか。
「いや、普通にクエストをこなしてきたよ。大収穫だ」
「なんかいいものがあったのか、マコトが意外と強かったのか。ま、なんにせよ良かったな」
「うむ」
たぶんファナさんは物理的に本当に大収穫をしたから大収穫といったのだろうが、門番さんはそういう意味ではなく、収穫を成果的な意味にとらえているため、会話が食い違っている。リアルなア〇ジャッシュを見た。ファナさんも門番さんも互いに気が付いていないようだが面白いのでそのままスルーして、街に入る。
ICカードさながらのギルドカードもちゃんと門の器具にかざした。
来た時と同じように商店街を通り、一直線に冒険書ギルドに向かう。朝より商店街の人通りは多く、早歩きするくらいがせいぜいだが、より道をしていたらお昼時を逃してしまいそうだからな。せっかく現金収入を得られたので、さっさとファナさんにお金を返して、初任給でお昼ご飯を食べたい。きっとおいしいだろう。
ギルドに着くと朝ほどの混雑はなく、比較的空いていた。さすがに朝受けたクエストをクリアして戻ってきている人は少ないのだろう。きっと今いる人たちは、今から長期クエストや短い時間で終えられるクエストを受託しに来た人たちだ。
今日こそは美人なチャンネーのいる受付に行けるかもと期待したが、残念。受付カウンターにいたのは、件の、俺の登録をしてくれたお兄さんだけだった。
……ちょうどお昼休みだったのかもしれない。
「ありゃ、マコト君、もう来たの。やっぱり何かクエストを受けることにした?」
「いえ、常時出されている採取依頼を受けることにして、もうクリアしたので、来ました」
「……マコト君のヤバイ謎スキルと、ファナの実力があれば、そらもう楽勝でめちゃくちゃ集まっただろうね。……よし、もう僕は驚かないよ! へい、かもん!」
朝はしこたま驚いてくれたお兄さんが気合を入れて、受領用のカゴをたくさん受付カウンターの上に出してくれたので、俺も遠慮せずに『無限収納』先生から果物を取り出していく。カウンターの上に乗せられたカゴがいっぱいになった。
「はい、受領しましたよ。精算してくるからちょっと待っててね。……しかし、めちゃくちゃ持ってきたね。君、これだけでもベテラン冒険者パーティーより稼いでるよ」
カゴを台車に載せながらやれやれと首を竦めるお兄さん。終わった雰囲気のところ申し訳ないが、まだ終わっていない。全然、『無限収納』先生には今日の成果物である青果が残っている。これぞ青果物だ、なんつって。
「あの、まだあるんですけど、一回の受付数に制限があるとかですか? 値崩れするだとか、売りさばけないだとか」
「……え」
「いや、マコト、そんなものはないはずだぞ。しかし私が採取依頼をしていたのは昔だから、今はどうなのかわからないが……どうなんだ?」
「え」と言ったまま固まっていた受付のお兄さんがファナさんの問いかけで再起動した。そして、深呼吸をして俺を見据えてきた。何だか目が座っていて怖いんだが……。
「……あと、どれくらいあるんでしょうか?」
「今のカゴたち10回分くらいです」
「じ、10個ぉお!? ど、どんだけ持って来たんだこの人たち! くそお、もう驚かないと思ってたのに……! 思ったよりさらに自重してなかった!!」
お兄さんが叫んだ。俺はびくりと跳ねた。
確かに無限収納先生がいなかったら信じられない数だと思うが、魔法もあるらしい世界でここまで驚かれるとは思っていなかった。でも、ファナさんも問題ないって言ってたしなぁ。この果物だって、傷を癒したり、病を治したりする霊薬の材料になるからいつでも品薄状態で、どれだけあっても問題ないものだって聞いたし。一気に採取しても次の日には復活するから、絶滅とか気にせず収穫していいって。
「あの、だめでした? 売らない方がいいですか?」
「そんなわけないよ! すべて受領させてもらうよ!」
あ、よかった。
騒動はあったものの、無事にマンゴーオレンジの納品はすべて完了した。
何度も受付奥の倉庫らしきところとカウンターを往復させることになったお兄さんにはちょっと申しわけないことをしたが、一気に現金収入を得て、俺たちはホクホクでギルドを後にしたのだった。
◆
マンゴーオレンジの収穫によって得たクエスト報酬は、ファナさんに半額渡しても全然かなりの収入になった。その足で商店街に向かい、ランチを購入。サンドイッチ的なものです。固めのナンのようなものにベーコン的なものが挟まれているもの。
ランチは店で食べるより、屋台で買ってきたものを家で食べる人の方が多いらしく、ランチが食べられるお店というのが少ないのだ。
ファナさんオススメだという、ベーコンサンドを無限収納に入れてお持ち帰りだ。冷めないし最高だな。ゆったりとした気分でファナさんの宿に戻る。
ご飯を食べる前に、さっそくファナさんに洋服代と昨日の宿泊代と夜ご飯代を支払おうとすると、ファナさんは「そんなもの先輩としておごってやるからいい」と言ってくれたが……。
「今後もファナさんに今日みたいについて行っていただきたいんです。やっぱり俺、弱いですし。そうなってくると、おごってもらっているというのも悪いですし、お金に関してはきっちりした方がいいと思いますので、全額返させていただけると非常にありがたいのですが、……ダメですか?」
と、言ってしまってから、はたと気が付き後悔する。
いや当たり前にこれからもついてきてほしいとか言ってしまったけど、昨日のあの、冒険者をいともたやすくなぎ倒しているようすを見るに、ファナさんは相当優秀な冒険者だろうし、初心者の採取依頼になんか付き添うのは嫌だろう。
それって、ネットゲームでも忌み嫌われる『寄生プレイ』にあたるのでは。
「ご、ごめんなさい、やっぱり今のはなかったことにしてください。採取依頼になんか付き合わされるの、嫌でしたよね」
慌てて弁明する。
「穴掘れば逃げるのは簡単ですし、生計も成り立ちそうです。ただでさえ宿の一室をしばらくお借りすることになるので、これ以上は俺の罪悪感が……」
「いや、別に嫌じゃないぞ。全然ひとりでやるより儲かりそうだしな。びくびくしないでまとめて集められた方が効率もいいだろう。それに、お前について行った方が面白いことが起きそうだ」
言い訳を言い募っていたところ、その懸念をファナさんにあっさり否定された。
異世界での初めての知人であり、親切にしてくれた命の恩人とまだしばらく一緒にいられそうだと分かって、知らず知らずのうちに緊張していてこわばっていた肩の力が抜けた。
「じゃあ、これから、よろしくお願いします」
「パーティー結成だな」
笑顔になってファナさんを見ると、ファナさんも微笑んでいた。
パーティー結成か。パーティーには名前をつけたりするんだろうか。年甲斐もなく、わくわくしてきた。
そわそわした、それでいて和やかな雰囲気の中、おランチの時間が始まった。
ベーコンサンドは非常に美味でした。
◆
それから、俺たちは採取依頼で荒稼ぎの日々を始めた。正直笑いが止まらない。
マンゴーオレンジの他にも、霊薬の材料になるという薬草を集めたり、石ころを集めたりと様々なものに手を出した。
時折モンスターに襲われたり、いっぱい稼いでいることが伝わったらしくゴロツキに襲われたりしたが、ファナさんが助けてくれるので問題ない。
ファナさんはファナさんでたくさん稼げるので、いままで手が出なかった装備が手に入ったから強いモンスターで試し斬りしてくる! と嬉しそうに出かけている。
最近は、1週間に1度くらいのペースで納品して、あとは試し斬りをするファナさんを見送り家事をして時折ショッピングに行くという「ザ・主夫」のような生活をしていた。
「ファナさん、おはようございます。朝ご飯できてますよ」
「おう、おはよう、マコト。おお、今日はベーコンエッグとふわふわのパンか。うれしいなぁ、私これ好きだ」
「ありがとうございます。これはパンケーキですよ」
「ふわふわのパンはパンケーキといったか」
起きてきたファナさんに、ご飯と飲み物を出して挨拶をする。
なんだか、落ち着く朝の空間だ。「いただきます」と手を合わせて、一緒に食べ始める。
はじめはかまど型の魔道具での調理に慣れず若干焦がしてしまったりしたが、一応自炊はしていたし、キャンプやバーベキューやらで調理自体はしていたので、最近は慣れてきた。
うん、今日もちょうどいい、半熟の目玉焼き。
目玉焼きの固さは好みが分かれるが、俺もファナさんも半熟が一番好きなので、争いは生まれなかった。卵は鶏のたまごではなく、「コココ」という鶏によく似た、鶏よりは丸っこい容姿のモンスターから採取したものだ。街ではあまりないらしいが、自分たちで採取したものなのでガンガン使う。
「じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい、ファナさん」
ファナさんを見送り、念動力で皿を洗いながら思う。
異世界来てどうなるかと思っていたけど、幸せだ。元の世界より、スローライフだし、必死こいて働かなくていいし、残業はないし、同僚はステキで美人で気遣いイケメンなファナさんだ。幸せすぎる。
幸せすぎて何か起きそうで怖い。
そんな風に考えていたのが悪かったのだろうか。その穏やかな繰り返しの日々は変化を迎えることになったのだ。
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