異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍

文字の大きさ
18 / 55
第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

18.スキルが活かされるとき 1

しおりを挟む

 今日は採集をしようとファナさんに誘われてギルドに向かう。
 そろそろブドゥーンが旬なのだという。

「ブドゥーンってどんな果物なんですか?」
「粒粒したやつだ。紫色の皮をむくと、緑色の実が出てくる。体力回復薬の材料になるらしいが、普通に食べても甘くてうまいぞ」

 それ絶対葡萄ブドウだ。
 ワインとかもつくっていたりしないのだろうか。ワインという存在を久々に思い出したが、思い出すと飲みたくなってくる。
 ワインの作り方とか知らないけど、沢山とって沢山トライ&エラーを繰り返せばたどり着けるのでは? いや、人類が何百年もかけて築いてきた味にはたどり着けないだろうけど、何とかそれらしきものの原型くらいには……。
 そんな風に考えながら歩いていると、すぐに冒険者ギルドに到着した。
 そもそも冒険者であるファナさんが借りている宿であるので、冒険者ギルドと近いのだが。

「はーい、いらっしゃい! ファナ! マコト君! 待ってたよ!」

 もはや恒例となっている受付のお兄さんのもとへ向かうと、がっしり両手を握られた。

「え? え?」
「ファナさんとマコト君に、ギルドからの指名依頼が入っているんだよ! ぜひやってもらいたくて」
「え、えーっと、ファナさんにじゃなくて俺たちにですか? というか、指名依頼ってなんでしょうか」
「うん、君たち二人合わせた指名だよ。指名依頼っていうのは誰でも受けられる依頼じゃなくて、誰か受託する人を指名して設定される依頼のこと。別に強制されるものじゃないから、断ってくれても大丈夫なんだけど、ギルドとしては受けてくれると嬉しいな。それに、君たちにとっても悪い話じゃないと思うし。確実に儲けられるよ」

 気に入った美容師やマッサージ師がいたら指名料払って指名する感じか。
 しかし、俺たち二人セットでの指名かぁ。おそらく、ファナさんを指名するとしたら圧倒的な戦闘力だろうし、俺を指名するとしたら採集能力というか収納能力を目当てにしてのものだろう。二人とも必要ということは、危険なところから沢山採取してほしいものがあるってところだろうなぁ。
 危険なところって考えると、平和にぬくぬく浸かっていた俺としては、何だか少し足がすくんでしまうが、断ってもいいとのことだし、話を聞くくらいならいいだろう。
 そう考えながらファナさんをみると、口を開こうとしていた。

「まあ受けるかどうかは、どんな内容か聞いてからだな」

 ファナさんの答えからも、俺の考え方が冒険者として間違っていなかったことがわかる。

「じゃあ、説明するからこっちに来てね」

 受付のお兄さんに連れられて、ギルドに設置されている簡易的な会議室のようなところに入る。冒険者相手に飲み物を出すような気の利いたサービスはないようなので、お兄さんに飲食可か確認して、無限収納から飲み物を取り出す。俺特製マンゴーオレンジジュースだ。

「ファナさん、どうぞ。お兄さんもどうぞ」
「おお、ありがとう。マンゴーオレンジのジュースはうまいよなぁ」
「あ、ありがとう。マンゴーオレンジでさえ一般人には高級品なのに、それをジュースとかめちゃくちゃな贅沢だよ。……とても美味しいねえ」

 マンゴーオレンジジュースを飲んで一息ついたところで、お兄さんから今回の指名依頼に関する説明がスタートした。





 街を出た俺たちはいつものように森に向かっていた。しかし、向かう先はいつもの場所ではない。いつもの森より、ずっと深い森の奥だ。
 結局俺たちはギルド指名の依頼を受けた。
 依頼内容としては、森の奥にある巨木及び石材の採取。要は建材の採取依頼だった。
 ギルド大口のお客様が大きさな建物を建てる予定らしく、大量の建材が必要となったのだがこんな辺境の危険な地で、安全に安定して材料を集められる地点などない。しかしギルドはそのお客様に恩は売っておきたい。
そんなわけで『無限収納』とファナさんの武力により採取依頼無双をしていた俺たちに白羽の矢が立ったというわけだった。
 森の奥と言えども、それはせいぜい俺が防衛拠点を築いていたあたりだったので、そのあたりならファナさんも余裕、俺も見知った場所であることだしそこまで負担にならないだろうということで受けることになったのだった。

 しかしここ最近、やっと森に慣れてきたような気がしていたが、徐々に暗くなっていくような視界にそれは間違いだったと気が付く。森の匂いも湿り気を帯びてきたような気がする。
 足元に広がる木々の根っこも太くなっていく。それに足を取られて躓(つまづ)きかけた。

「おっと」

 ファナさんに片腕でキャッチされて、事なきを得た。ヤダ、イケメン。
 抱き起こされるような格好になったところでファナさんと目が合って、心臓が動き回る。イケメンだし、美人だし、美人は三日で慣れるとかいうことわざがあるけど、それは嘘だったと分かる。

「ファナさん、ありがとうございます」

 胸のときめきを抑えながらお礼を言い、今度こそ転ばないように用心に用心を重ねて歩く。森歩きはまだまだ慣れていないようだから。
 しばらくして息がぜえはあ切れてきたという頃だった。
 前方にチラリと緑色の巨大な物体が見えた。

「あれは……!」

 視界に映ったのは、俺がかつて造り上げた防衛拠点の城壁だった。岩で造り上げた巨大な樹状の壁は、苔むして、ところどころに草や花が生えていた。
 古代遺跡感が出ていて、なんだかとっても素敵じゃないか。

「なんだあれは!? こんなところに人工物が!?」

 ファナさんが横で驚いている。
 あれ? 助けてくれた時には見えていなかったのだろうか。

「あれは俺が念動力と無限収納のちからを使って造り上げた防衛拠点ですよ。しばらくはあの中に過ごしていて安全に暮らしていたのですが、服が限界を迎え外に出てきたところであの巨大蟻に襲われ、それをファナさんに助けられたのです」
「あれをお前がつくったのか!? お前のスキルは無限の可能性を秘めているな」
「随分驚かれていますけど、前来たときは見ていなかったですか?」
「ジャイアントアントと、お前という存在に目が行っていたから、そこまで気にしていなかったな……私の目は節穴か?」

 ファナさんが首を傾げる。うん。それはちょっと俺も否定できないかもしれない。
 こんな巨大な建築物が目に入っていなかったって……。
 最後の言葉は聞かなかったことにして、話題を変えることにした。

「木材を集めるのにはさすがに骨が折れそうですし、時間がかかりそうですから、この『防衛拠点』を拠点として使って活動していきましょう。ついでに俺のつくった最高傑作をお披露目しますよ」
「おお、それはいいな。久々に野営かと思っていたが、この分なら思ったよりずいぶんと快適に過ごせそうだ」

 俺たちはぐるりと隙間なく張り巡らされた岩の壁の外周に沿って歩いて行き、人一人がぎりぎり通れる隙間を探し出して、俺のつくった防衛拠点内に侵入した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...