異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍

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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

35.防衛壁を造ります

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「で き た ぞ - ! ! ! 」

 深夜3時半。もう少しで太陽が昇りそうなこの時間になって、ようやく街の設計図が完成した。ちなみにファナさんは、序盤で寝てしまっていたので、その声でビクリと跳び起きた。
 俺たちは手を取り合って、時には抱き合って感動を共有していた。
 皆さん達成感に打ち震えていますが――かく言う俺もその一人だが――この後、その設計図通りに防衛壁をつくらねばならないのですよ。まあ、俺の仕事ですけど。
 一徹後の仕事くらいはよくやっていたし、やらねばガチ目に死ぬので四の五の言ってられないが。
 何より自分がやると決めて、本気でかかった仕事だ。
 俺は使命感に燃えていた。
 仮眠に入ろうとしている冒険者を後目に俺は立ち上がった。

「では、早速製作に行こうと思います」
「待て」
「なんですか」

 アレックスさんに肩に手を置かれて、外に行くのを止められてちょっと不機嫌になる。一大事だというのに、なぜ邪魔をするんだ。

「何行こうとしている。一度仮眠をして身体と頭を休ませろ。しっかりしていると思っていても寝不足はケアレスミスを招く。一日あれば余裕でできるんだろ?」

 ――ホ、ホワイト企業やぁー!
 俺は白目をむきたくなった。知らず知らずのうちに元の世界のブラック企業の考え方に染まってしまっていたらしい。確かにアレックスさんの言葉には一理あった。
 一日あればできるので、不測の事態が起こってもまだもう一日の猶予があるし。
 すぐつくることよりも、ミスが起きないことの方が大事だ。

「そうですよ。造成の際には私も同行して、設計図との差異が起きないかチェックをするとは言え、私もこの寝不足の状態では見逃してしまうかもしれません」

 ベルーガさんもそう言って首をすくめる。そうだ。俺が頑張るだけじゃなかったな。

「そう……ですね……」
「じゃ、場所が埋まらないうちに仮眠室に行こうぜ。どうせ雑魚寝だろうがな」
「私もご相伴に預かります」

 アレックスさんに肩に腕を回されて連れて行かれそうになったので、慌てて立ち止まって振り返る。ファナさんも飛び起きて、俺を追ってきていた。

「あの、僕は、ファナさんと……」
「バッカ、いくら冒険者とは言え、男女の雑魚寝部屋は別れてるに決まってるだろ」

 なんと……!
 ショックを受けているうちにファナさんは役人さんと冒険者の女性グループに引き摺られて部屋を出て行ってしまった。数が少ないからだろう、なぜかすごい結束感があった。ファナさんも絶望感に包まれた顔をしていた。
 せっかく想いが通じ合ったというのに、初日からこれだなんてあんまりだ。
 しかも、むさい男どもに囲まれて雑魚寝だなんて。神様、俺が何をしたというんですか。

「じゃ、行くぞ、マコト」

 俺もアレックスさんに腰を押されて半ば引き摺られるような形で仮眠室に向かうのだった。
 ショックを受ける俺に対し、アレックスさんはなぜだかご機嫌だし「むさい奴らに比べたらマコトの隣は天国だな。臭くないし、小さいし」と非常にむかつく感想を言っている。ベルーガさんも「そうですね。私もマコトさんの隣を確保したいと思います」なんて頷いているし。
 いや、俺にとっては貴方らがむさい男なんですが! 小さいとか言われても、日本では非常に平均的な成人男性だったんですが! この世界の男どもがゴリマッチョすぎるんだと思うんですが!
 ベルーガさんも役人の癖にマッチョだし、アレックスさんは言わずもがなマッチョだし。徹夜明けの男の匂いがしそうでめっちゃ嫌だ。
 げんなりしつつも諦めた。抵抗して無駄に体力を消耗するより、しっかり寝てすっきりしよう。
 俺はだらりと力を抜いてグイグイ押してくるアレックスさんに身を任せた。もう、運んでいってください。

 ◆

「……おはようございます、起きてください、アレックスさん」

 目覚めは最悪だった。アレックスさんの圧倒的な胸筋に包まれた朝だ。そりゃ最悪だ。
 ベルーガさんは仰向けに寝たまま、ピクリとも動かなかったので最高だった。まあ、アレックスさんの寝相が悪かったわけではなかった。周りの他の冒険者たちの最悪な寝相からその巨体で俺の安眠も守ってくれたのだと分かる。アレックスさんの上に、隣の冒険者の太い脚が乗っているし。
 でも、げんなりするのは許してほしい。起きたらむさい男に抱きしめられているのを想像してみって。げんなりするから。
 熟睡しているアレックスさんの顔をぺちぺち叩く。

「アレックスさん、起きてくださいってば」

 ぺちぺち叩いていた手をアレックスさんにガシッと握られた。

「ん? ……ぉお、マコトか」
「おはようございます。あの、放してください。そろそろ起きて、準備をはじめないと」
「おはよう。そうだな、起きるか」

 ようやく胸板から解放されたので、伸びをする。雑魚寝部屋に置かれていた時計を見ると、時刻は午前6時。3時間ほどの睡眠だったが、お湯につけて絞っておいた濡れタオルを無限収納から取り出して顔を拭けば随分と頭がスッキリしていた。心なしか視界も明るくなった気がする。
 仮眠と言えど、睡眠がいかに大事がわかる。あのまま作業し始めていたら確かに何かのミスをしてもおかしくなかったかもしれない。

 コンディションは完璧だ。
 両脇で拳を握って気合を入れる。

 さあ、防壁の作成をしよう。

 ◆

 雑魚寝部屋を出てロビーに行くと、すでにファナさんがいた。

「マッ、マコト! 大丈夫か、何もされなかったか!?」

 俺の姿を認めたファナさんが駆け寄って来て、俺の身体をぺたぺたと触って確かめる。
 何をされるっていうのだよ。
 ちょっと呆れながらも、心配してくれているらしいので、俺の身体を触っていたファナさんの手を握って目を合わせる。

「ファナさん、大丈夫です。俺は男ですよ、何もされるわけないじゃないですか」
「マコトはわかってない! マコトは美人だから……」

 そう訴えたファナさんはウッと詰まったように顔をそむけた。
 顔は見えないけど、耳が真っ赤になっているので照れているらしい。美人と面と向かって褒めた(?)のに照れたのかな? とは言え美人って? という気分なのだけど。
 褒められたのに、素直に喜べない。
 異世界の価値観がわからないよ。美人と言えばファナさんみたいな人のことを指すだろう普通。

「おい、そこのバカップル。いちゃつくのは『朔』の後にしろ。そして、ファナ。俺らをケダモノのように扱うな。そんなに切羽詰まっちゃいねえ」

 俺の後ろから歩いてきたアレックスさんに、ファナさんと引きはがされた。あう。
 せっかく付き合い始めたのに。『朔』っていうのはとんだ厄日だな!

「なっ! 昨日やっと付き合い始めたのに! あんまりだ!」

 ファナさんも俺と同じことを思っていたらしい。背景に雷を落としながらショックを受けていた。

「……そりゃ、災難だったな」

 さすがのアレックスさんも同情してくれたらしい。

「ま、諦めるこった。刻限が来る前に、さっさとつくっちまおうぜ。俺らの超大作」
「……はい、そうですね。さっさとつくっちゃいましょう」
「お待たせしました! さあ、参りましょう!」

 雑談をしている間に、ベルーガさんも身支度が終わったらしい。役人らしく、ぴっしりした格好になって登場した。
 そんなわけで締まらない感じで俺たちは防壁の制作を開始したのだった。

 ◆


 俺とベルーガさんは設計図を見ながらの建設管理、ファナさんとアレックスさんは護衛担当だ。
 街の近くと言えど、モンスターは発生するので、護衛は必須なのだ。
 ベルーガさんも辺境の地に暮らす身、護身術くらいは心得ているらしいが、俺を守りながら戦えるほどじゃないらしいからな。俺? ……聞くな。

「では、作成しますので皆さんは私より後ろにいてください。モンスターが近づいてきたら下がりますから」
「了解だ。いつも拠点を作るときと一緒だな」
「承知いたしました」
「あいよー」

 街に既にある防壁から50mほど離れた地点から、新たなる防壁をつくりはじめる。
 手を地面に向けて、うにょうにょと地面を操り始める。

「うわあ……話には聞いていたが、こうしてみると信じらんねえ光景だな」
「本当に……」

 後ろでアレックスさんとベルーガさんが驚く声が聞こえてきた。ファナさんが「そうだろ、マコトはすごいだろ」なんて胸を張っているのが見える。かわいい。
 そんな光景を横目に見ながら、堀のようなイメージで土に穴を開けていく。そこに無限収納から取り出して念動力でつくった分厚い板状の岩をぶっ刺していく。下から徐々に上に伸ばしていくので、地面から岩の木が生えてきているような様相だ。横から見るととんがった山型のような形に成形し終えた岩に、木の幹から枝を生やすように側面に突起を出していく。側面から見ると、レンガが積まれたように見える。わずかに空いた隙間は泥で埋めて、その泥の水分をこれまた念動力で抜いて行く。

「うん、イメージ通り」

 そうして出来上がった石垣のような構造の城壁を見て頷いた。上出来だ。
 と、出来栄えに満足している間に、巨大なネズミが湧いて襲い掛かってきていたようだが、ファナさんとアレックスさんによってすぐさま殲滅されていた。
 俺も見習ってサクサク片付けて行こう。
 城壁の、街から見て内側の側面に木を使って階段のようなものをつくる。階段を露出した構造は昇降のしやすさを優先したためである。
 そして上には板張りの間と、壁・屋根をうにょうにょとつくり、外側に若干床を張り出す。張り出した床には下方向に向かって何カ所か細い窓を作った。日本の城によくある狭間さまである。ここから矢とか、魔法とかが打ち出せるようにした。この作業を繰り返していく。
 俺は自動で壁をつくるマシーン……自動で壁をつくるマシーン……と、無心で作業しているうちに念動力で並行して岩と土と木を動かせるようになってきた。そうして街を一周覆い終わった。

「完成です! どうでしょうか」
「にわかには信じがたい光景でした……お見事です。設計図通り、ミスはありませんよ」

 ベルーガさんが街の外から城壁を見て、目を遠くしている。アレックスさんは無言で城壁を見上げていた。

「いつもながらマコトのそれ・・はすごいなぁ」
「ありがとうございます。後は、仕上げだけですね」

 ファナさんに褒められて照れ照れしながら答える。そうだ、設計図にはこのいかにも城壁チックな城壁だけではなく、残りのプラスアルファが待っている。ここの構造や、建て方で揉めに揉めたのだが、途中から村長さんを引っ張り出して、クレト神父様を口説き落として決定したのだ。

 俺たちは城壁完成の達成感もほどほどに、いそいそと街の中へと戻った。
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