異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍

文字の大きさ
45 / 55
第2章 宝玉を追いかけていたら世界を救っていた

45.宝玉に導かれて 3(クレト視点)

しおりを挟む
 
 クレトには神父という職業に似つかわず、『魅了』というスキルがあった。精神耐性の低い者がクレトに対面すると、老若男女問わずクレトに心底れて、発情してしまうのだ。クレトが元来持つ美しい容姿と相まって絶大な効果を発していた。
 これはパッシブ型のスキルでクレトの意思により発動のタイミングを決められないというのも非常に厄介だった。大男が頬を染め迫ってくるというのを何度か体験すると恐ろしくもなる。しかし、幸か不幸かその誰もがクレトに心底惚れている状態だったのでクレトが嫌だと拒めばすぐに諦めてくれた。
 神父という職業はそういう意味では適役であった。両親が教会に入れたのも納得だ。
 人に話をしたり、懺悔という人から話を聞き出す役割をする上で、この魅了のスキルも少しは役に立った。神を利用しているようで随分と悩んだが、『スキル』とて神の生み出した世の中の一つだ。そう思えば、このように神父という職業を選んだのは良い選択だったのかもしれないと最近ようやく思えるようになってきた。
 だが、精神耐性の高い者にとっては『魅了』によってクレトに魅了されている者の行動は非常に異様に見えるらしい。
 友人を作りたくとも、精神耐性の高い者には不審がられ距離を取られ、そうでない者には惚れられ、友人と呼べる関係の者はこれまでなかった。それがクレトには少し寂しかったものだが、最近はじめての友人ができた。その友人というのも不思議な感性を持っているが。

 ――マコトという、細身で中性的な男子である。『朔の日』という大事件から友人と呼べる関係になった。
 彼は精神耐性が高いというわけではなかった。その証拠にクレトを見て、惚れ惚れしているような動作は向けるが、しかしクレトに惚れているようではなかった。その証拠にクレトと話していると、ちょいちょいファナというマコトの恋人ののろけ話を語った。おそらく『魅了』を突破するレベルでファナを愛しているのだろう。彼は不思議な人間だった。

 そのマコトが珍しく昼から教会にやってきたので、クレトは少しドキリとした。
 マコトは普段、懺悔に来る者を気遣って、来訪者の多い昼頃の時間帯を避けて訪れるのだ。
 何か緊急事態だろうか。心拍数が上がるのを感じながら、クレトは席に着いた。
 そこでマコトは『宝玉』を取り出し、例のあの『念動力』というスキルを発動させたのだった。

「このように、光るうえに動かせなかったんです。モンスターには効かない力なので、もしかしてこれはモンスターから取り出した後も生きているのでは? と不安になりまして……」

 宝玉は一般に知られるように光を発したが、マコトはそれが不安だったようだ。
 マコトはこのように一般常識を知らないことがあるが、それでいてクレトが知らないような高度な知識を持っているので、ギルドや役所でも噂されているように、いかにも世間知らずの『貴族』のようだった。

 だが、クレトもそう言われてみれば、一切前情報がなければそう思うかもしれないと思った。
 何せ宝玉というのもモンスターから取り出すものなのだ。マコトの力が効かないのは生きているモンスターだけで死んで素材になってしまえば動かせるのだから宝玉もモンスターとして生きているのはないかと不安に思ったのだろう。

「……私にはない視点でした。確かにそう言われてみれば、不安にお思いになられるお気持ちも分かる気がします。しかし、安心なさってください。古くから宝玉には不思議な特性があるのです」

 クレトは宝玉について一般的な常識を語った。
 しかし、その片隅でクレトは考えていた。宝玉には古い神話には載っている、伝説があるのだ。
 ――宝玉とは、諸元の悪が自らの復活が為、世に蒔いた種である、と。

 それから一度帰ったマコトが宝玉の行く先への旅に出ると挨拶に来たときにはクレトも決心していた。その旅に、ついていこうと。

 その選択を早くも後悔していた。
 マコトが彼の『無限収納』から取り出したのは、巨大な茶色の羽である。支柱となる骨が何本か通されるその羽はまるでコウモリの羽のような形態をしていた。

「クレト様、心配ありませんよ。確かにこの道具のつくりは若干ちゃちかもしれませんが、空を飛ぶときには俺の『念動力』でサポートをおこなうので万が一姿勢が乱れたとしても落ちてしまうなんてことはありませんから」
「……いえ、あの、……はい。ありがとうございます。……では、よろしくお願いいたします」

 まさか空を飛んでいくとは思っていなかった。マコトは羽が壊れるのをクレトが心配しているのだと思ったようだがとんでもない。空を飛ぶ人間がいるとはまったく想像もしていなかった為に、衝撃で固まってしまっているだけだ。

 クレトはやけに連携の取れたマコトとファナによってあれよあれよという間に、その装備を背中に取り付けられていた。……もう、逃げられない。
 三人の人影がどんどん空に上昇していく。クレトは少し自分の足元を見てみたが、心臓やらあそこ・・・やらがヒュンッとしたので、すぐに目をそらしてまっすぐ上だけを見つめた。

「では、いきますよ~」

 マコトの掛け声とともに身体が落下し始める。それは空を飛ぶという表現よりも、空を落ちるという表現の方がふさわしかった。持ち上げられて落とされて、それを繰り返される。シェイクされている野菜にでもなったような気持ちだ。クレトは久方ぶりに絶叫した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...