≒今川義元 風雲繁盛記≒

空志戸レミ

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物議を醸す婚姻話

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塩田開発は、瞬く間に海岸沿いに領地を持つ家臣に広まった。

竹で組んだ筏を海に浮かべ、竹筒を用いた潮力噴射で海水を噴き上げる。噴き上げた先には海水を受け止める為の、藁なり枯れ枝を組んで置く。そうすれば日光だけでなく風の力でも海水の気化が進み、塩の結晶化が促進される。

まぁ元から塩の生成をしていた地域もあるので、そう難しい事ではない。

他にも竹でジョレン。貝を採るための籠つき鍬みたいのを作らせテスト中。溜まり醤油でアサリやハマグリを塩辛く煮付ければ、多少は日持ちもする特産品の出来上がり。寺育ちだから寺で豆腐や味噌を作ってるのは知ってるし、少しだけならその作業を手伝ったこともある。

海苔の生産と竹籠を用いた罠漁も開始。特産品の開発には余念がない。

ただ農業開発には手間も時間もかかるし失敗した時のリスクが大きい。なので指導者を育成する為の指導者の育成をしているといった段階。そもそも、農業に関しては大した知識もない。

…。

そんな内政チートに邁進する一方で、外交にも力を注いでいる。

西三河の松平清孝には、『おまえいい加減にしないと本気でしばくぞこの野郎』と脅しの手紙を送りつけた。三河方面にいる吉良家ほか多数から、アイツなんとかしてくれと今川家にヘルプが入っていた為だ。

略奪しか能のない武士なんて、食い詰めてるから隣を襲いに行こうとか毎年やってるの、ホント馬鹿かと思う。

んでそんなのに付き合わなきゃならないのも馬鹿らしいので、武田には和睦を申し入れた。代替わりもしたし、ここらで一旦仲良くしようよといった体で。そしたら信虎から、娘を正室として娶るならOKといった返事が返ってきた。でも手紙を読んで頭を捻る。

(あれ…。コレってなんか、地雷臭が。この嫁を武田からもらったから、甲斐追い出された信虎が駿府に来たんじゃなかったっけ??)

残念ながら未来の知識も完璧ではない。それになんか、この結婚がきっかけで北条との関係も崩れた気がする…。

そこで困った時は即相談。すぐさま雪斎を呼んだ。

「いかがなさいましたか?」
「うむ、甲斐の信虎が和睦に対して条件をつけてきた。この手紙を読んでみよ」

部屋を訪れた雪斎に、すぐさま手紙を渡した。

「では拝見いたします」

手紙を渡された雪斎はつぶさにその内容を読んでいく。その間に目配せで小姓に指示を出し、雪斎の為の茶を用意させる。

「おかしな点は見受けられませぬが…なにやら焦りのようなものが窺えますな」
「ふむ、雪斎もそう感じたか?」

「はい。今まで争っていた相手と和議を結ぶにしても、領地の境などで多少は揉めまする」
「たしかに。そんなことは手紙には書かれておらなかったの」

「詳しくは分かりかねますが、なにか急がねばならぬ理由があるのでは?」
「ふむ。こちらの他に、敵を抱えているとみるべきか」

「はい。そのような所にござりましょう」
「よし…、ではそうだな。瀬名氏俊と弟・氏豊に、今すぐ参るよう申せ」

…。

使いが走り駿府の町にある屋敷から、瀬名氏俊と弟・氏豊がやってきた。

「氏俊、お呼びと伺い参上仕りました」
「氏豊、参りました」

主殿で頭をさげるふたりに、義元は応じる。

「急に呼び立てて面倒をかけたな。困りごとで、ふたりの手と知恵を借りたいのじゃ」

「はぁ、さればどのような事柄でござりましょう?」

探るように問うてくる氏俊の前に、小姓が信虎から送られた手紙を置いた。

「そこに全て書かれておる。読んでみるがよい」

「…なんと、和議に、婚姻のお話にございますか」

内容を読んで驚く氏俊に、目配せで氏豊にもその手紙を読ませるよう指示を出すと義元は扇子で自身のひざを何度か叩いた。

「話を持ちかけたのはこちらだが、なんとも面倒な婚姻話が持ち上がったものよな。氏俊。報告は受けたが、もう一度聞きたい。お礼の馬を届けに小田原を訪ねた際、氏綱殿の機嫌はどうであった?」
「はい。たいへんお喜びなられ、また困った事があった時には遠慮のう申すが良いと、終始ご機嫌にござりました」

「うむ、そうか。さて氏豊」
「はい。おめでとうござりまする兄上」

「それを申すはまだ早いぞ」
「は、申し訳ござりませぬ」

「では、儂がこの武田との婚姻を進めた場合、氏綱殿はどう思おうか。氏俊、遠慮のう申すがよい」
「は、されば武田と北条は近年も争うておりましたので、決して快くは思われぬのでは…」

「そう、懸念はそのこと。儂が武田と結べば、氏綱殿は決して面白くはあるまい」
「はい」

「そこでじゃ氏豊。そなたこの手紙を持って、小田原に行くがよい」
「わ、わたくしがでございますか!?」

「そうじゃ。そして氏綱殿にこう申せ。兄上は戰を嫌い、民の暮らしをなによりと考えておられる。なれどその為には武田と和議を結ばねばならず、相手は条件として信虎の娘を正室として娶れと申してきた。兄は北条との関係を考え、そのことで大層悩んでおられた。そんな兄を見ておられず、こうして弟の氏富が参った次第。私がいつまでにても小田原に留まります故、どうぞこの婚姻をお認めくださいますよう。…とな」

そうひと息に説明すると、氏俊と氏豊のふたりは息をするのも忘れた顔でこちらを見ている。

「すると、弟の氏富様を人質として小田原に差し出しますので?」

まだ子のいない義元。つまり義元に何か起こった場合、家督の継承は氏富に移る。その存在を人質に出すのかと氏俊は危惧したのであった。

「ふほほほほ!」

その言葉に義元が高い笑い声をあげると、気の弱い氏豊はビクリと肩を震わせた。しかし義元は、ふたりとも分かっておらぬとジト目を向けた。

「のう、氏俊」
「はい」

「小田原にはの、氏輝兄上と彦五郎兄上が揃って歌会に行っておったのだぞ?」
「ッ!」

「ふたりは亡くなってしもうた。が、もしそれが狙った毒害であれば、この義元を支援せずそのまま駿府に攻め込んでおろう?」
「「ッ!!」」

「まして、氏綱殿の子・氏康殿には我らの姉が嫁いでおるのだ。懸命な氏富の姿を見れば、あっぱれな忠義ぶり。なんという兄思いと、謀らずとも必ず氏康殿に口添えしてくれよう」
「「ッ!!!」」

義元の解説にふたりの眼は、こぼれんばかりに見開かれた。


「…わかったか氏豊よ。分かったなら小田原に赴き、みごと男を上げて来い。歌の好きなおぬしじゃ。必ず氏綱殿にも気に入ってもらえよう」
「そ、そこまでお考えでありましたか!この氏富、喜んで小田原に行って参ります!」


こうして氏豊は小田原に赴いた。そして今川と武田の婚姻承諾を貰うと共に、どういう訳か自分の嫁も貰った。今回の働きで相当気に入られたものらしい。
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