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骨肉相食む難儀な地
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良い陽気の下、義元は廊下の縁で庭に跪いた鳥波からの報告を聞いていた。
「ふ~む、すっかり騙されたの」
「申し訳ございませぬ…」
「まぁ間違いがあったのなら、訂正の報告をするのもまた大事な事。責めはせぬ。これを教訓に励めよ」
「ハッ!」
三河の動向を探らせていた鳥波は頭をさげ義元の前から下がっていく。
(しかしあの噂。既に死んでおったとはの…)
岡崎を中心に暴れまわっていた松平清孝。それが去る天文4年(1535年)12月にすでに死んでいたという。
清孝は尾張にまで侵入し、織田信秀の弟・信光の守る守山城を急襲。美濃で斉藤道三と戦う信秀の隙を突こうとしたものと思われる。しかし初戦で大敗し、守山に陣を張った。この大敗したのに退かないというのもおかしいのだが、ともかくその守山城攻略中に清孝は敵ではなく家臣に討たれたのだという。
で、その後どうなったのかというと、岡崎城には清孝の叔父である信定が居座り、清孝の子・竹千代を追い出したのだとか。そして示威行為の為か派手に暴れまわったせいで家督相続の話なんかも聞かず、外部の者は大半がその信定を清孝と勘違いしていたものらしい。
ああもう。らしいとか、だとかだとか。ワケが分からんわ。
けれども、その追放された子を吉良の一族がこっそり匿ってた。そして今になってこの可哀相な竹千代を助けてやってください。どうか援助をお願いしますと、吉良義堯を通じて今川家に申し入れてきたのだ。
(ハァ??いや、今川家。その騒動で迷惑しか被ってないんやが???)
ってな気分なのがイマココ。
強いて上げるなら、三河松平家が尾張タイガー信秀の防波堤にはなってくれてた。でもそれも未来における過去の歴史をある程度知ってれば、そのうち対美濃戦で疲弊すると分かっているのでメリットは薄い。
正直なところ、気前よく優しくしてたら甘い奴だと思われ舐められた気分。それでも家督の時に応援してくれた吉良義堯の顔を潰すのもなんだし、『じゃあ一回話聞いてやるから顔見せに来いよ』って言ったら、今川館にヨボヨボのお爺ちゃんが陰鬱そうな童を連れてやってきた。
「ひゅ、ひょ、き、吉良、持広にございます…」
そう名乗る吉良持広は、いや、おまえ付き添いなんかしないで寝とけってくらいヨボヨボ。今にも倒れそうで、なんか見てるだけでハラハラしてくる。で、問題の松平竹千代は着物こそマシな物を着させられているものの、覇気がないというか子供ならではの元気さや屈託のなさをまるで感じない。陰鬱で無愛想な童だった。
「…松平竹千代にございます」
「うむ、儂が今川義元じゃ。その方はいつの生まれじゃ。幾つになった?」
「たいえい6年、4月29日(1526年6月9日)の、生まれにございます」
「ほう、えらいのう。自分の生まれた月日を覚えておるか」
すると褒められたのが嬉しかったのか、竹千代の血色の悪い頬にやや紅が射した。
(ふぅむ、10歳か。しかも同じ竹千代でも、親の方が先に駿府に来るとは…)
徳川家康の松平竹千代が駿府に人質に取られたのは有名な話。年賀のあいさつ中に庭に向かって小便してのけたのも、ちょっとした武勇伝として逸話が残っている。
「にしても、そのほう顔色が優れぬのう。駿府までの旅で疲れたか?」
「いえ、そのようなことは…こほっ!こほっ!」
すると否定の言葉も言い終わらぬうちに竹千代は咳込みだした。
今は松平竹千代。だが、元服すれば松平広忠と名を改める徳川家康の父。ただこの様子だと病弱だったというのは、どうやら本当のようだ。確かに、これならば持広のような年寄は庇護欲を掻き立てられるかもしれない。
「ほれ、そのように無理をするでない。誰ぞ、竹千代と持広のために部屋を用意してやるがよい」
「ひゃ、ひゅ、ひょ…!」
「うむ、よいよい。話は回復してからで構わぬ。まずは身体をいとうてしっかり治せ。この駿府は気候もよい。ゆるりと養生するがよいぞ」
こうして松平竹千代(広忠ver)と吉良持広は、揃って駿府で療養することとなった。
ただしその旨、今川家としては一切三河松平党に知らせず極秘とする。理由は身体の不調は毒害の可能性ありで、竹千代は命を狙われている恐れがあるからとした。
竹千代を助けてほしいという吉良家からの要望は、こうした形で守られた。
まぁ、竹千代を追放した大叔父も大概だが、幼い継承者が追い出されるのを傍観してた他の一族もなんとも。この騒ぎでは今川寄りの国人も迷惑被ってたし、そのぶん松平家は身内でしばらくバチバチにやり合ってくれて構わない。
「ふ~む、すっかり騙されたの」
「申し訳ございませぬ…」
「まぁ間違いがあったのなら、訂正の報告をするのもまた大事な事。責めはせぬ。これを教訓に励めよ」
「ハッ!」
三河の動向を探らせていた鳥波は頭をさげ義元の前から下がっていく。
(しかしあの噂。既に死んでおったとはの…)
岡崎を中心に暴れまわっていた松平清孝。それが去る天文4年(1535年)12月にすでに死んでいたという。
清孝は尾張にまで侵入し、織田信秀の弟・信光の守る守山城を急襲。美濃で斉藤道三と戦う信秀の隙を突こうとしたものと思われる。しかし初戦で大敗し、守山に陣を張った。この大敗したのに退かないというのもおかしいのだが、ともかくその守山城攻略中に清孝は敵ではなく家臣に討たれたのだという。
で、その後どうなったのかというと、岡崎城には清孝の叔父である信定が居座り、清孝の子・竹千代を追い出したのだとか。そして示威行為の為か派手に暴れまわったせいで家督相続の話なんかも聞かず、外部の者は大半がその信定を清孝と勘違いしていたものらしい。
ああもう。らしいとか、だとかだとか。ワケが分からんわ。
けれども、その追放された子を吉良の一族がこっそり匿ってた。そして今になってこの可哀相な竹千代を助けてやってください。どうか援助をお願いしますと、吉良義堯を通じて今川家に申し入れてきたのだ。
(ハァ??いや、今川家。その騒動で迷惑しか被ってないんやが???)
ってな気分なのがイマココ。
強いて上げるなら、三河松平家が尾張タイガー信秀の防波堤にはなってくれてた。でもそれも未来における過去の歴史をある程度知ってれば、そのうち対美濃戦で疲弊すると分かっているのでメリットは薄い。
正直なところ、気前よく優しくしてたら甘い奴だと思われ舐められた気分。それでも家督の時に応援してくれた吉良義堯の顔を潰すのもなんだし、『じゃあ一回話聞いてやるから顔見せに来いよ』って言ったら、今川館にヨボヨボのお爺ちゃんが陰鬱そうな童を連れてやってきた。
「ひゅ、ひょ、き、吉良、持広にございます…」
そう名乗る吉良持広は、いや、おまえ付き添いなんかしないで寝とけってくらいヨボヨボ。今にも倒れそうで、なんか見てるだけでハラハラしてくる。で、問題の松平竹千代は着物こそマシな物を着させられているものの、覇気がないというか子供ならではの元気さや屈託のなさをまるで感じない。陰鬱で無愛想な童だった。
「…松平竹千代にございます」
「うむ、儂が今川義元じゃ。その方はいつの生まれじゃ。幾つになった?」
「たいえい6年、4月29日(1526年6月9日)の、生まれにございます」
「ほう、えらいのう。自分の生まれた月日を覚えておるか」
すると褒められたのが嬉しかったのか、竹千代の血色の悪い頬にやや紅が射した。
(ふぅむ、10歳か。しかも同じ竹千代でも、親の方が先に駿府に来るとは…)
徳川家康の松平竹千代が駿府に人質に取られたのは有名な話。年賀のあいさつ中に庭に向かって小便してのけたのも、ちょっとした武勇伝として逸話が残っている。
「にしても、そのほう顔色が優れぬのう。駿府までの旅で疲れたか?」
「いえ、そのようなことは…こほっ!こほっ!」
すると否定の言葉も言い終わらぬうちに竹千代は咳込みだした。
今は松平竹千代。だが、元服すれば松平広忠と名を改める徳川家康の父。ただこの様子だと病弱だったというのは、どうやら本当のようだ。確かに、これならば持広のような年寄は庇護欲を掻き立てられるかもしれない。
「ほれ、そのように無理をするでない。誰ぞ、竹千代と持広のために部屋を用意してやるがよい」
「ひゃ、ひゅ、ひょ…!」
「うむ、よいよい。話は回復してからで構わぬ。まずは身体をいとうてしっかり治せ。この駿府は気候もよい。ゆるりと養生するがよいぞ」
こうして松平竹千代(広忠ver)と吉良持広は、揃って駿府で療養することとなった。
ただしその旨、今川家としては一切三河松平党に知らせず極秘とする。理由は身体の不調は毒害の可能性ありで、竹千代は命を狙われている恐れがあるからとした。
竹千代を助けてほしいという吉良家からの要望は、こうした形で守られた。
まぁ、竹千代を追放した大叔父も大概だが、幼い継承者が追い出されるのを傍観してた他の一族もなんとも。この騒ぎでは今川寄りの国人も迷惑被ってたし、そのぶん松平家は身内でしばらくバチバチにやり合ってくれて構わない。
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