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策謀タイガー
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尾張南部にある勝幡城では、三河方面の報告を受けた織田信秀が不敵な笑みを浮かべていた。今年、野心の滾る26歳。
「…新たな今川の当主。なかなか侮れん男のようじゃの」
「ほう、そう視られまするか」
話し相手は信頼おける右腕の平手政秀。
「うむ、儂も去る天文2年(1533年)に蹴鞠会を実施したが、あれは威嚇。自身の威勢を周囲に誇るため行った事。それを今川の領地では民たちにまで観せてやり、儲けの種にしておるという」
「はて、儲けの種にございますか?」
話が視えず、平手は小首をかしげる。
「そうよ。駿府に居る公家どもに蹴鞠組というを指揮させ、その戰蹴鞠で競わせる。戰蹴鞠とは蹴鞠で行なう碁のようなものらしくての。勝った方に賭ければ賭けた銭が何倍にもなって戻ってくるという話じゃ」
「はて、蹴鞠で碁とは…、さっぱり何のことか分かりませぬな」
信秀は肘をおいた脇息を一つ叩くと、忌々しげに言葉を続ける。
「なんにせよ目障りよ。あ奴がこちらと同じことをするで、最近は交易の利益が落ちてきている。近隣の船手衆に銭を握らせ妨害させておるが、どうも効果が薄いようじゃ」
「されば、海では風と潮任せ。それ故ままならぬこともありましょう」
「三河の調略も進んでおらぬ。それもあ奴が裏で糸を引いてるのではと睨んでおる」
「なるほど。甲斐とも停戦和睦したようにございますから、西に手を伸ばす事もありえましょうな」
「それそれ、跡目では兄弟争ったと聞いておったに、すぐさま乱を治めると甲斐と和睦してのけた。その手腕も憎らしい。」
「嫡男ではなく長く仏門に身をおいておったようにございますから、弁舌は立つのでございましょう」
「それよ、その交渉上手が気に入らぬ。北条ともさらに婚姻を重ね、弟の氏富は相模に今川姓のまま住んでおるというではないか。正室も氏康から娶り、人質にしてはどうもおかしい」
「それは、北条家には今川から姉が嫁いでおりますれば、名を変えずとも身内同前なのでございましょう」
「まったくベッタリと張り付きおって。これでは離間の計が入り込む余地もない」
「相手は今川と北条。松平などと同じようには参りますまい」
「尾張に食いこんでいる那古野城も目障りじゃ。このまま松平の調略が進まぬのなら、あの城を獲りにかかるぞ政秀」
「ですが、一族の方々が協力してくれましょうか?」
「なんの。その時には多少銭を使う。臆病者も鼻薬を嗅がされれば、少しは腰も軽くなろう」
「であれば、よろしいのですが」
「ともあれ、もう一段深く探りを入れるぞ。政秀、渡り巫女どもを駿府に向かわせろ」
「承知いたしました…」
開け放たれた庭先からは、潮の香りのする心地良い風が吹き込んでくる。その香りに自信たっぷりの信秀とは違い、政秀は一抹の不安を覚えるのであった。
「…新たな今川の当主。なかなか侮れん男のようじゃの」
「ほう、そう視られまするか」
話し相手は信頼おける右腕の平手政秀。
「うむ、儂も去る天文2年(1533年)に蹴鞠会を実施したが、あれは威嚇。自身の威勢を周囲に誇るため行った事。それを今川の領地では民たちにまで観せてやり、儲けの種にしておるという」
「はて、儲けの種にございますか?」
話が視えず、平手は小首をかしげる。
「そうよ。駿府に居る公家どもに蹴鞠組というを指揮させ、その戰蹴鞠で競わせる。戰蹴鞠とは蹴鞠で行なう碁のようなものらしくての。勝った方に賭ければ賭けた銭が何倍にもなって戻ってくるという話じゃ」
「はて、蹴鞠で碁とは…、さっぱり何のことか分かりませぬな」
信秀は肘をおいた脇息を一つ叩くと、忌々しげに言葉を続ける。
「なんにせよ目障りよ。あ奴がこちらと同じことをするで、最近は交易の利益が落ちてきている。近隣の船手衆に銭を握らせ妨害させておるが、どうも効果が薄いようじゃ」
「されば、海では風と潮任せ。それ故ままならぬこともありましょう」
「三河の調略も進んでおらぬ。それもあ奴が裏で糸を引いてるのではと睨んでおる」
「なるほど。甲斐とも停戦和睦したようにございますから、西に手を伸ばす事もありえましょうな」
「それそれ、跡目では兄弟争ったと聞いておったに、すぐさま乱を治めると甲斐と和睦してのけた。その手腕も憎らしい。」
「嫡男ではなく長く仏門に身をおいておったようにございますから、弁舌は立つのでございましょう」
「それよ、その交渉上手が気に入らぬ。北条ともさらに婚姻を重ね、弟の氏富は相模に今川姓のまま住んでおるというではないか。正室も氏康から娶り、人質にしてはどうもおかしい」
「それは、北条家には今川から姉が嫁いでおりますれば、名を変えずとも身内同前なのでございましょう」
「まったくベッタリと張り付きおって。これでは離間の計が入り込む余地もない」
「相手は今川と北条。松平などと同じようには参りますまい」
「尾張に食いこんでいる那古野城も目障りじゃ。このまま松平の調略が進まぬのなら、あの城を獲りにかかるぞ政秀」
「ですが、一族の方々が協力してくれましょうか?」
「なんの。その時には多少銭を使う。臆病者も鼻薬を嗅がされれば、少しは腰も軽くなろう」
「であれば、よろしいのですが」
「ともあれ、もう一段深く探りを入れるぞ。政秀、渡り巫女どもを駿府に向かわせろ」
「承知いたしました…」
開け放たれた庭先からは、潮の香りのする心地良い風が吹き込んでくる。その香りに自信たっぷりの信秀とは違い、政秀は一抹の不安を覚えるのであった。
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