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渡り巫女
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今日も真面目に政務を熟す義元の元に、問題が転がり込んできた。問題はいつも向こうからやってくる。
「なに、渡り巫女とな?」
「はい。寝所に忍び込んでは春を鬻ぎ、あれこれ嗅ぎまわっているようにございます」
「ふむ、まぁ何処から送られてきたかは想像つくが、一応訊いておくか。尾張であろう?」
「はい、流石は太守様。ご明察にございます」
「褒められても嬉しくないわ。しかし、女諜報員とはのう」
駿府は栄えているので、諸国から様々な人間が流れてくる。しかしその中には当然、敵対勢力からの諜報員も含まれる。
「消されますか?」
「いや、それではこちらが気付いたと敵に知れよう。家臣達には内々に知らせての。注意するよう呼びかけよ」
「…手ぬるい対応だと、敵に侮られる恐れもありますが?」
「そういうな雪斎。逆にの、そうした者どもにはそうと解っておる者を客につけ、偽の情報を流すのに使えばよい」
「なるほど。自分の放った鳥波から得た情報ならば、その情報を鵜呑みにするということですな」
「さよう。殺すばかりが芸ではない。そうよ。ついでの事に、川原者にもなんぞ仕事を回してやるがよい。あれらとも親しんでおけば、こうして怪しい者が出た時には教えてくれよう」
川原者とは、近代でいうボートピープルのような存在。税を納めなくてよい川原で生活し、屠畜や皮革加工なんかを生業としている。芸事に通じている者もいたりして、見世物小屋が建っていたりもある。これもまぁ近代風に言えばサーカスか。
「今は主に、川を下ってくる材木作りを手伝っておるようでございますな」
「うむ、それ以外にも回せる仕事があれば回してやるがよい。但し、造船所の警戒は厳とせよ」
「畏まりました。されど、他によい仕事があるかどうか…」
直ぐには思いつかぬのか、雪斎は腕を組んで考え込む。そこで義元も、なにかやらせられる仕事がないものかと考えてみた。
「…お、そうじゃ!向こうが渡り巫女で来るならば、こちらは尼僧を遣わしてやろうではないか」
するとその案はたちまち雪斎に叱られた。
「なんと罰当たりな!ご自身で何を言われているか分かっておいでですか!!」
その怒りは喝棒をくらわせる勢い。
「待て雪斎!話は最後まで聞くがよい。なにも渡り巫女と同じ真似をさせようというのではない。こっちはもっと有難いものじゃ」
「…お聞きいたしましょう」
お説教モードに入ってしまった雪斎が、綺麗な姿勢をさらに正して聞く態勢をとった。
「うむ、では説明するぞ。まず、尼僧たちは本物でなくて良いし、春を鬻ぐような真似もせぬ」
「…続きをどうぞ」
「川原者たちのなかにもな、幼い童はおるであろう。その者達を尼僧に化けさせ、今までとは違うカタチで経を唱えさせるのだ。数多くの楽器の音にのせての」
「…数多くの楽器?」
「さよう。琵琶法師も琵琶を弾いて平家の霊を慰めたというではないか。先例のないことではない」
「ふむ…するとどうなるのでございます?」
「まずは幼い童どもだ。それだけで見た目にも可愛かろうから目を惹く。そして数多くの楽器の音にのせ経を唱えるというのも、物珍しいであろう。そうして耳目を集めれば、人気も集まる。この者どもを蹴鞠会のようにあちこち巡らせれば、喜んだ者達がこぞってお布施を弾もうという算段よ」
「…おおよそは分かりましたが、どうも完成した形が頭に浮かびませぬな」
「ふむ、そうか。では儂が直々にプロデュースするより他なかろうな。それを観てから、この案を摂るかとらぬか決めるがよい」
「…拙僧が駄目と申せば、取りやめるのですな?」
「うむ、儂も師から恨まれたくはないからの。採否は雪斎に任せよう」
「では拝見してから決めることに致しましょう」
こうして、うしろひかり菩薩隊と呼ばれる読経って踊る尼僧の集団が義元によってプロデュースされることとなった。
「なに、渡り巫女とな?」
「はい。寝所に忍び込んでは春を鬻ぎ、あれこれ嗅ぎまわっているようにございます」
「ふむ、まぁ何処から送られてきたかは想像つくが、一応訊いておくか。尾張であろう?」
「はい、流石は太守様。ご明察にございます」
「褒められても嬉しくないわ。しかし、女諜報員とはのう」
駿府は栄えているので、諸国から様々な人間が流れてくる。しかしその中には当然、敵対勢力からの諜報員も含まれる。
「消されますか?」
「いや、それではこちらが気付いたと敵に知れよう。家臣達には内々に知らせての。注意するよう呼びかけよ」
「…手ぬるい対応だと、敵に侮られる恐れもありますが?」
「そういうな雪斎。逆にの、そうした者どもにはそうと解っておる者を客につけ、偽の情報を流すのに使えばよい」
「なるほど。自分の放った鳥波から得た情報ならば、その情報を鵜呑みにするということですな」
「さよう。殺すばかりが芸ではない。そうよ。ついでの事に、川原者にもなんぞ仕事を回してやるがよい。あれらとも親しんでおけば、こうして怪しい者が出た時には教えてくれよう」
川原者とは、近代でいうボートピープルのような存在。税を納めなくてよい川原で生活し、屠畜や皮革加工なんかを生業としている。芸事に通じている者もいたりして、見世物小屋が建っていたりもある。これもまぁ近代風に言えばサーカスか。
「今は主に、川を下ってくる材木作りを手伝っておるようでございますな」
「うむ、それ以外にも回せる仕事があれば回してやるがよい。但し、造船所の警戒は厳とせよ」
「畏まりました。されど、他によい仕事があるかどうか…」
直ぐには思いつかぬのか、雪斎は腕を組んで考え込む。そこで義元も、なにかやらせられる仕事がないものかと考えてみた。
「…お、そうじゃ!向こうが渡り巫女で来るならば、こちらは尼僧を遣わしてやろうではないか」
するとその案はたちまち雪斎に叱られた。
「なんと罰当たりな!ご自身で何を言われているか分かっておいでですか!!」
その怒りは喝棒をくらわせる勢い。
「待て雪斎!話は最後まで聞くがよい。なにも渡り巫女と同じ真似をさせようというのではない。こっちはもっと有難いものじゃ」
「…お聞きいたしましょう」
お説教モードに入ってしまった雪斎が、綺麗な姿勢をさらに正して聞く態勢をとった。
「うむ、では説明するぞ。まず、尼僧たちは本物でなくて良いし、春を鬻ぐような真似もせぬ」
「…続きをどうぞ」
「川原者たちのなかにもな、幼い童はおるであろう。その者達を尼僧に化けさせ、今までとは違うカタチで経を唱えさせるのだ。数多くの楽器の音にのせての」
「…数多くの楽器?」
「さよう。琵琶法師も琵琶を弾いて平家の霊を慰めたというではないか。先例のないことではない」
「ふむ…するとどうなるのでございます?」
「まずは幼い童どもだ。それだけで見た目にも可愛かろうから目を惹く。そして数多くの楽器の音にのせ経を唱えるというのも、物珍しいであろう。そうして耳目を集めれば、人気も集まる。この者どもを蹴鞠会のようにあちこち巡らせれば、喜んだ者達がこぞってお布施を弾もうという算段よ」
「…おおよそは分かりましたが、どうも完成した形が頭に浮かびませぬな」
「ふむ、そうか。では儂が直々にプロデュースするより他なかろうな。それを観てから、この案を摂るかとらぬか決めるがよい」
「…拙僧が駄目と申せば、取りやめるのですな?」
「うむ、儂も師から恨まれたくはないからの。採否は雪斎に任せよう」
「では拝見してから決めることに致しましょう」
こうして、うしろひかり菩薩隊と呼ばれる読経って踊る尼僧の集団が義元によってプロデュースされることとなった。
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