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春の芽吹き
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「義元さま、ややが出来たようにございます」
甲斐の方が妊娠した。夫婦仲は円満だったので妊娠するだろうとは思ってたけど、思った以上に早かった。
「ほう。それはめでたい。これからはなお一層、身体をいとうてくれよ」
「はい。それで、あのう…」
「うむ、なんじゃ。如何いたした」
妻が言いにくそうにしているので、義元は先を促してやる。
「昨晩、不思議な夢をみました」
「なに、不思議な夢とな。どんな夢であった?」
「夢に、蹴鞠の精なる者が現れたのでございます」
「ほう、蹴鞠の精。はて、それなるはどんな姿をしておった?」
「はい、蹴鞠に人の顔がついておりました」
いや、キモいなおい。そんなのが夢に出てきたら悪夢だろ。でも、怯えた様子は見られない。するとこう、なんかゆるキャラみたいな感じだったのかもしれない。
「なにか、言うておったか?」
「はい。お腹の子は将来立派な蹴鞠の名手になるから、大切に育てよと申しておりました」
「ふむ、大切に育てよとは言われるまでもない事なれど、立派な蹴鞠の名手になるというは、将来有望じゃの」
「はい、きっと義元さまに似て、立派な太守になると存じます」
いや、史実だと義元の子・氏真は、父の死後疑心暗鬼に陥って、粛清の嵐を呼び血の雨を降らせた男。だからそうならぬよう、しっかり育ててやらねばなるまい。
…。
めでたい話は続き、厩でも仔馬が生まれたというので義元は見に来た。
「あちらの仔馬にございます太守様」
そう関口親永の示す先には、馬場で睦まじく過ごしている母馬と仔馬の姿があった。
「うむ、仕事は順調のようであるな」
「はい。お陰さまを持ちまして、捗っておりまする」
駿府の町に屋敷を持つ家臣は多い。その屋敷にいる馬を、ちょっと今川館に預けてくれないかと家臣達には頼んでいる。
そのちょっとの間今川館に預けてもらっているうちに交配させ、仔馬を生んでもらっている訳だ。協力してくれればもれなく太守様の覚えめでたくなるので、みな実に協力的である。
「それはそうと、甲斐の方さまがご懐妊されたと伺いました。おめでとうございます」
「うむ。そなたの方もどうじゃ」
「は、いや、私はまだ、婚姻もしたてでございますれば…」
関口親永は義元が甲斐の方を迎えるのを待って、その後に義元の妹を娶っている。
「ホホホ。そう照れずともよい。仲睦まじゅうしておるのであればの、すぐにも授かろう」
「お、恐れ入ります」
照れる親永から視線を外すと、義元は馬場に目を向け微笑んだ。
「見よ、親永。母子の馬が、仲良う桜の木の下で語ろうておるわ。あのような美しき姿を、この領内全土に広げるのじゃ。そなたの仕事は実に重大じゃぞ?」
「は、心得ましてございます。なお一層、仕事に励みまする」
「うむ。じゃが無理だけはしてはいかんぞ。無理を通せば道理が立たず、人の心も壊れよう。それを忘れず、しかと心に留めおけよ」
「はっ」
寺で長く学んだ義元は、ちょいちょい家臣達にも説法めいたことを口にしていた。それがまた家臣たちの心に響き、忠義の元ともなっていたのであった。
甲斐の方が妊娠した。夫婦仲は円満だったので妊娠するだろうとは思ってたけど、思った以上に早かった。
「ほう。それはめでたい。これからはなお一層、身体をいとうてくれよ」
「はい。それで、あのう…」
「うむ、なんじゃ。如何いたした」
妻が言いにくそうにしているので、義元は先を促してやる。
「昨晩、不思議な夢をみました」
「なに、不思議な夢とな。どんな夢であった?」
「夢に、蹴鞠の精なる者が現れたのでございます」
「ほう、蹴鞠の精。はて、それなるはどんな姿をしておった?」
「はい、蹴鞠に人の顔がついておりました」
いや、キモいなおい。そんなのが夢に出てきたら悪夢だろ。でも、怯えた様子は見られない。するとこう、なんかゆるキャラみたいな感じだったのかもしれない。
「なにか、言うておったか?」
「はい。お腹の子は将来立派な蹴鞠の名手になるから、大切に育てよと申しておりました」
「ふむ、大切に育てよとは言われるまでもない事なれど、立派な蹴鞠の名手になるというは、将来有望じゃの」
「はい、きっと義元さまに似て、立派な太守になると存じます」
いや、史実だと義元の子・氏真は、父の死後疑心暗鬼に陥って、粛清の嵐を呼び血の雨を降らせた男。だからそうならぬよう、しっかり育ててやらねばなるまい。
…。
めでたい話は続き、厩でも仔馬が生まれたというので義元は見に来た。
「あちらの仔馬にございます太守様」
そう関口親永の示す先には、馬場で睦まじく過ごしている母馬と仔馬の姿があった。
「うむ、仕事は順調のようであるな」
「はい。お陰さまを持ちまして、捗っておりまする」
駿府の町に屋敷を持つ家臣は多い。その屋敷にいる馬を、ちょっと今川館に預けてくれないかと家臣達には頼んでいる。
そのちょっとの間今川館に預けてもらっているうちに交配させ、仔馬を生んでもらっている訳だ。協力してくれればもれなく太守様の覚えめでたくなるので、みな実に協力的である。
「それはそうと、甲斐の方さまがご懐妊されたと伺いました。おめでとうございます」
「うむ。そなたの方もどうじゃ」
「は、いや、私はまだ、婚姻もしたてでございますれば…」
関口親永は義元が甲斐の方を迎えるのを待って、その後に義元の妹を娶っている。
「ホホホ。そう照れずともよい。仲睦まじゅうしておるのであればの、すぐにも授かろう」
「お、恐れ入ります」
照れる親永から視線を外すと、義元は馬場に目を向け微笑んだ。
「見よ、親永。母子の馬が、仲良う桜の木の下で語ろうておるわ。あのような美しき姿を、この領内全土に広げるのじゃ。そなたの仕事は実に重大じゃぞ?」
「は、心得ましてございます。なお一層、仕事に励みまする」
「うむ。じゃが無理だけはしてはいかんぞ。無理を通せば道理が立たず、人の心も壊れよう。それを忘れず、しかと心に留めおけよ」
「はっ」
寺で長く学んだ義元は、ちょいちょい家臣達にも説法めいたことを口にしていた。それがまた家臣たちの心に響き、忠義の元ともなっていたのであった。
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