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四文字 vs 八文字
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(おおい、晴信~~!おまえ、人は石垣ちゃうんかい!)
甲斐の義弟・武田晴信から手紙が来た。もし親父を追放した時には受け皿になってくれないかという内容で。
(って、それじゃ人は石垣、親はゴミじゃねぇか!)
いや、知ってはいた。史実的に知ってはいたけど、いざ実際にそうした手紙が受け取ってみると、想像以上に気分が悪かった。
そこですぐさま、『親を捨てるなど言語道断!自分の親なのだからしっかり面倒見なさい!』という内容の手紙を送り返した。
しかし、気分がすこし落ち着いてから晴信の手紙を読み返してみると、これは念が足りなかったかもしれぬと考えを改めた。
手紙には晴信の苦悩が綴られてた。
挨拶もそこそこに、親父殿の乱行が止まぬ。お諌めしても聞く耳持たぬ。親子で口論する様を目にした家臣どもが、対立しているものと思い良からぬ事を考えている。どうか助けてほしい。と、義兄に救いを求める声が綴られていたのだ。
その後は、自分が当主になったら甲斐の国をもっといい国にするとか、駿府とももっと仲良くするといったことが綴られている。
(そうだな。史実の武田信玄も、今はまだ16歳だもんな…)
思春期の多感な時期を乱行親父に振り回されたのでは、堪ったものではないだろう。
義元には、どういう訳か吸収した未来の人間の知識と経験がある。幾つまで生き、どんな人間だったのかまでは分からない。が、少なくとも今の義元よりは長く生きていたであろう。
しかし、乱行親父を引き取れという話は受け入れ難い。
なので、追加で酒と肴を贈った。そして、親子で酒でも酌み交わし、よく話し合うて心を通わせてはどうかと、手紙を添えた。
しかし、そうまでしても不安は消えぬ。
むしろ以前よりもザワザワと、言い知れぬ不安が増した感じを覚えた。それは満ち潮のように義元の心に満ちてきて、さらなる不安を搔きたてる。
(はて、この言い知れぬ不安はなんなんだ…?)
相談したくとも雪斎はいま駿府に居ない。渡り巫女の件を注意してもらうため、遠江を周ってもらっているからだ。そして家臣たちにも相談できぬ。事が事だけに、漏れれば晴信の立場が危うくなってしまう。
そこでもっとよく考えてみようと思案していると、今がひどく危険な状態である事に気が付いた。
(ハッ、そうか上杉!甲斐が荒れれば上杉がうごく!)
上杉は北条と対立している。
これは小弓公方足利義明や相模国の新興大名である北条氏綱と結んで山内上杉家と対峙していた経緯があるため。で、同じく北条と抗争していた甲斐の武田と結ぼうと、天文2年(1533年)に武田信虎の嫡男・勝千代(晴信)の正室として上杉朝興が姫を嫁がせている。
これにより上杉と武田は連携して北条氏綱を攻め、天文2年と天文4年には相模国まで侵攻して相模国東郡・中郡一帯を焼き払うなど、バチバチにやりあっている。
しかしその上杉の方は難産で早々に亡くなってしまい、以後の関係はやや希薄に。しかもその後 天文5年(1536年)7月には、武田晴信が今川の仲介で三条の方を継室として娶っている。
上杉からしたら面白くないのは当然のうえ、一緒になって攻めてた北条とも武田だけが勝手に停戦しているのだから蚊帳の外、さらに面白くない。
つまり上杉からすれば、武田は上杉から今川・北条に鞍替えし、今度は西や北を目指しているように映るだろう。事実、武田信虎はしきりに信濃の諏訪に対しちょっかいかけている。
そのため内乱でも起き武田が隙を見せれば、条約違反だ裏切り行為だと口実をつけ背後から襲いかかっても不思議ではない。そうなっては支援する方も大変だ。
(うむ。やはり武田親子には仲良くしていてもらわねば!)
史実の今川義元が義父・信虎を預かった気持ちも分かる。でも今ならば融和路線で関係を回復できるかもしれないし、関係のこじれた後ではそれも不可能になってしまう。
しかも、史実通りに親子が対立すれば、史実通りの展開で戦国最強武将・武田信玄が誕生してしまう。それは不味い。そんな事になったら、美味しそうな駿府がまず見逃される訳はない。
(そうだ。やはり武田晴信には、父親追放などというダーティー路線を歩ませてはいけない)
そこで義元はまた文机に向かいアレコレ考えた結果、八徳の意味を切々と綴った文をしたため、義弟・武田晴信に送った。『よし、相手が風林火山の四文字なら、こっちは倍の八文字だ!』と考えたのだ。
これはどうも、知恵熱が出てしまったものらしい。
ついでのことに八徳を自分の旗印とすることを思いつき、駿府の町には早速 周知のために『仁 義 礼 智 忠 信 孝 悌』の書かれた旗が掲げられ理由を知らぬ町人たちを驚かせたという。
甲斐の義弟・武田晴信から手紙が来た。もし親父を追放した時には受け皿になってくれないかという内容で。
(って、それじゃ人は石垣、親はゴミじゃねぇか!)
いや、知ってはいた。史実的に知ってはいたけど、いざ実際にそうした手紙が受け取ってみると、想像以上に気分が悪かった。
そこですぐさま、『親を捨てるなど言語道断!自分の親なのだからしっかり面倒見なさい!』という内容の手紙を送り返した。
しかし、気分がすこし落ち着いてから晴信の手紙を読み返してみると、これは念が足りなかったかもしれぬと考えを改めた。
手紙には晴信の苦悩が綴られてた。
挨拶もそこそこに、親父殿の乱行が止まぬ。お諌めしても聞く耳持たぬ。親子で口論する様を目にした家臣どもが、対立しているものと思い良からぬ事を考えている。どうか助けてほしい。と、義兄に救いを求める声が綴られていたのだ。
その後は、自分が当主になったら甲斐の国をもっといい国にするとか、駿府とももっと仲良くするといったことが綴られている。
(そうだな。史実の武田信玄も、今はまだ16歳だもんな…)
思春期の多感な時期を乱行親父に振り回されたのでは、堪ったものではないだろう。
義元には、どういう訳か吸収した未来の人間の知識と経験がある。幾つまで生き、どんな人間だったのかまでは分からない。が、少なくとも今の義元よりは長く生きていたであろう。
しかし、乱行親父を引き取れという話は受け入れ難い。
なので、追加で酒と肴を贈った。そして、親子で酒でも酌み交わし、よく話し合うて心を通わせてはどうかと、手紙を添えた。
しかし、そうまでしても不安は消えぬ。
むしろ以前よりもザワザワと、言い知れぬ不安が増した感じを覚えた。それは満ち潮のように義元の心に満ちてきて、さらなる不安を搔きたてる。
(はて、この言い知れぬ不安はなんなんだ…?)
相談したくとも雪斎はいま駿府に居ない。渡り巫女の件を注意してもらうため、遠江を周ってもらっているからだ。そして家臣たちにも相談できぬ。事が事だけに、漏れれば晴信の立場が危うくなってしまう。
そこでもっとよく考えてみようと思案していると、今がひどく危険な状態である事に気が付いた。
(ハッ、そうか上杉!甲斐が荒れれば上杉がうごく!)
上杉は北条と対立している。
これは小弓公方足利義明や相模国の新興大名である北条氏綱と結んで山内上杉家と対峙していた経緯があるため。で、同じく北条と抗争していた甲斐の武田と結ぼうと、天文2年(1533年)に武田信虎の嫡男・勝千代(晴信)の正室として上杉朝興が姫を嫁がせている。
これにより上杉と武田は連携して北条氏綱を攻め、天文2年と天文4年には相模国まで侵攻して相模国東郡・中郡一帯を焼き払うなど、バチバチにやりあっている。
しかしその上杉の方は難産で早々に亡くなってしまい、以後の関係はやや希薄に。しかもその後 天文5年(1536年)7月には、武田晴信が今川の仲介で三条の方を継室として娶っている。
上杉からしたら面白くないのは当然のうえ、一緒になって攻めてた北条とも武田だけが勝手に停戦しているのだから蚊帳の外、さらに面白くない。
つまり上杉からすれば、武田は上杉から今川・北条に鞍替えし、今度は西や北を目指しているように映るだろう。事実、武田信虎はしきりに信濃の諏訪に対しちょっかいかけている。
そのため内乱でも起き武田が隙を見せれば、条約違反だ裏切り行為だと口実をつけ背後から襲いかかっても不思議ではない。そうなっては支援する方も大変だ。
(うむ。やはり武田親子には仲良くしていてもらわねば!)
史実の今川義元が義父・信虎を預かった気持ちも分かる。でも今ならば融和路線で関係を回復できるかもしれないし、関係のこじれた後ではそれも不可能になってしまう。
しかも、史実通りに親子が対立すれば、史実通りの展開で戦国最強武将・武田信玄が誕生してしまう。それは不味い。そんな事になったら、美味しそうな駿府がまず見逃される訳はない。
(そうだ。やはり武田晴信には、父親追放などというダーティー路線を歩ませてはいけない)
そこで義元はまた文机に向かいアレコレ考えた結果、八徳の意味を切々と綴った文をしたため、義弟・武田晴信に送った。『よし、相手が風林火山の四文字なら、こっちは倍の八文字だ!』と考えたのだ。
これはどうも、知恵熱が出てしまったものらしい。
ついでのことに八徳を自分の旗印とすることを思いつき、駿府の町には早速 周知のために『仁 義 礼 智 忠 信 孝 悌』の書かれた旗が掲げられ理由を知らぬ町人たちを驚かせたという。
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