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継ぎ丸太耐久試験
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今日の義元は海の近くに作った造船工場を訪れていた。船の前に造船工場と職人たちの居住施設を作っていたので、道のりは遠い。
その為、集めた職人たちにはまず船の部品を作らせていた。
鍛冶職人たちには薄い鉄板とリベットを。細工師や彫り物師には木製のボルトとナットを。大工たちには太い丸太を継いで、長くて太い丸太を作らせていた。ほかの職人にも大きな布を縫わせるなど、船に手を出さずともやることは多かった。
そして今日はその丸太の耐久試験を行うというので、太守自らが視察に来ていた。
穏やかな波の駿河湾には、継いだ丸太で縦に直列にされた二成型の阿武船が三隻浮かんでいる。
阿武船とはこの戦国時代における大型戦艦。で、二成型とは、船の上に箱のような構造物が載っているから。ここが居住だったり人員や物資の収納空間となっている。
そして三隻なのは、建造を予定している大型船がちょうどそのくらいの大きさだからである。
その船種はガレオン船。
新生・義元には丸ごと鉄で出来た船の知識もある。ではあるものの、それを建造できるほどの技術的知識を有している訳ではない。そしてそれは、戦国時代の技術でも到底無理な話。
そこで妥当な線というと、このガレオン船となる。
(ガレオン船は海賊映画に出て来る船といえば分かりが良かろうか。にしても未来の人間というは、そうした娯楽が数多くあって楽しそうじゃの)
しかし海の上でテストを行うとあって、周囲からは丸見えである。
「信忠。近隣の者達は遠ざけてあるの?」
「はい。今日の事は、神事によって吉凶を占う儀式と布れてあります故、近場の者は畏れて海を見ますまい。もし少しでも見てしまった場合には、一刻は富士山を拝み許しを乞えと申しております」
そう答える富士信忠は、富士山本宮浅間大社の大宮司。
他にも、太原雪斎 葛山氏元 岡部元信 庵原将監 鵜殿長持といった今川頭脳集団と、木に詳しい山家三方衆から菅沼定村が視察に参加している。
「うむ、では始めよ」
そう義元が試験開始を告げると、手旗と鐘の音によって指示が送られ阿武船に乗った兵たちが動き出す。櫓をこいで急旋回を行なうのだ。
「ふむ、まずまずの動き。試しは順調のようですな」
そう感想を口にするのは庵原将監。庵原家は雪斎のご実家でもある。海では三隻直列の阿武船が、鈍重な動きで旋回している。船には右旋回左旋回を繰り返すよう前もって指示を出してあるので、次は左旋回に入る。
しかしここでトラブル発生。
最後尾の船の船体が負荷に耐えきれず破損。その船に乗った兵が慌てた様子で旗を振っている。
「試験を中止いたせ」
「ハッ!」
義元の命はすぐさま伝えられ、直列船は造船所脇に作った港へと戻っていく。
「やれやれ、これは失敗にございますなぁ」
葛山氏元は永正17年(1520年)生まれで義元のひとつ下。そして駿河・甲斐・相模・三国のちょうど国境沿いという要衝をまかされているとあって、義元にもやや気安かった。
だが氏元がそう言うを、義元が聞き咎めた。
「これ氏元。浅はかに失敗などと決めつけるでない。あれはあれで成功よ」
「は、あれで成功なのでございますか?」
その言葉を受け、義元は菅沼定村に話をふった。
「そうよ。さて定村、いま起きた事、そなたはなんと見る?」
「されば…、継いだ丸太には問題のなかったようにございますので、船体の方に不都合があったのでは?」
「そうじゃの。三隻の船が合わせて旋回する力に、船の方が持たなかった。では長持、この問題を解決するにはなんと致す?」
義元、今度は鵜殿長持に話をふる。こうして家臣たちに実物を見せ考えさせる様子は、さながら教師と生徒。
だが義元も、寺では顔を見るたび和尚に質問を浴びせられ考える訓練を積まされていた。それを家臣達に行っているのだ。
「…そうですな。船の板が壊れた様子でしたので、その板を厚く丈夫な物に替えてみてはいかがでしょう?」
「うむ、そうであるな。それであれば容易く壊れることもあるまい。わかったか氏元。失敗を成功の元とする。これが思案というものじゃ」
「は、恐れ入ってございます」
「みなもよう覚えておけ」
「「ハッ!」」
その様子に、太原雪斎だけは何も言わず、陽光を照り返して輝く駿河湾に目を細めていた。
その為、集めた職人たちにはまず船の部品を作らせていた。
鍛冶職人たちには薄い鉄板とリベットを。細工師や彫り物師には木製のボルトとナットを。大工たちには太い丸太を継いで、長くて太い丸太を作らせていた。ほかの職人にも大きな布を縫わせるなど、船に手を出さずともやることは多かった。
そして今日はその丸太の耐久試験を行うというので、太守自らが視察に来ていた。
穏やかな波の駿河湾には、継いだ丸太で縦に直列にされた二成型の阿武船が三隻浮かんでいる。
阿武船とはこの戦国時代における大型戦艦。で、二成型とは、船の上に箱のような構造物が載っているから。ここが居住だったり人員や物資の収納空間となっている。
そして三隻なのは、建造を予定している大型船がちょうどそのくらいの大きさだからである。
その船種はガレオン船。
新生・義元には丸ごと鉄で出来た船の知識もある。ではあるものの、それを建造できるほどの技術的知識を有している訳ではない。そしてそれは、戦国時代の技術でも到底無理な話。
そこで妥当な線というと、このガレオン船となる。
(ガレオン船は海賊映画に出て来る船といえば分かりが良かろうか。にしても未来の人間というは、そうした娯楽が数多くあって楽しそうじゃの)
しかし海の上でテストを行うとあって、周囲からは丸見えである。
「信忠。近隣の者達は遠ざけてあるの?」
「はい。今日の事は、神事によって吉凶を占う儀式と布れてあります故、近場の者は畏れて海を見ますまい。もし少しでも見てしまった場合には、一刻は富士山を拝み許しを乞えと申しております」
そう答える富士信忠は、富士山本宮浅間大社の大宮司。
他にも、太原雪斎 葛山氏元 岡部元信 庵原将監 鵜殿長持といった今川頭脳集団と、木に詳しい山家三方衆から菅沼定村が視察に参加している。
「うむ、では始めよ」
そう義元が試験開始を告げると、手旗と鐘の音によって指示が送られ阿武船に乗った兵たちが動き出す。櫓をこいで急旋回を行なうのだ。
「ふむ、まずまずの動き。試しは順調のようですな」
そう感想を口にするのは庵原将監。庵原家は雪斎のご実家でもある。海では三隻直列の阿武船が、鈍重な動きで旋回している。船には右旋回左旋回を繰り返すよう前もって指示を出してあるので、次は左旋回に入る。
しかしここでトラブル発生。
最後尾の船の船体が負荷に耐えきれず破損。その船に乗った兵が慌てた様子で旗を振っている。
「試験を中止いたせ」
「ハッ!」
義元の命はすぐさま伝えられ、直列船は造船所脇に作った港へと戻っていく。
「やれやれ、これは失敗にございますなぁ」
葛山氏元は永正17年(1520年)生まれで義元のひとつ下。そして駿河・甲斐・相模・三国のちょうど国境沿いという要衝をまかされているとあって、義元にもやや気安かった。
だが氏元がそう言うを、義元が聞き咎めた。
「これ氏元。浅はかに失敗などと決めつけるでない。あれはあれで成功よ」
「は、あれで成功なのでございますか?」
その言葉を受け、義元は菅沼定村に話をふった。
「そうよ。さて定村、いま起きた事、そなたはなんと見る?」
「されば…、継いだ丸太には問題のなかったようにございますので、船体の方に不都合があったのでは?」
「そうじゃの。三隻の船が合わせて旋回する力に、船の方が持たなかった。では長持、この問題を解決するにはなんと致す?」
義元、今度は鵜殿長持に話をふる。こうして家臣たちに実物を見せ考えさせる様子は、さながら教師と生徒。
だが義元も、寺では顔を見るたび和尚に質問を浴びせられ考える訓練を積まされていた。それを家臣達に行っているのだ。
「…そうですな。船の板が壊れた様子でしたので、その板を厚く丈夫な物に替えてみてはいかがでしょう?」
「うむ、そうであるな。それであれば容易く壊れることもあるまい。わかったか氏元。失敗を成功の元とする。これが思案というものじゃ」
「は、恐れ入ってございます」
「みなもよう覚えておけ」
「「ハッ!」」
その様子に、太原雪斎だけは何も言わず、陽光を照り返して輝く駿河湾に目を細めていた。
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