27 / 82
金策思案
しおりを挟む
義元は春のうららかな景色に目を細めつつ、内心では悩んでいた。
(このままでは、いずれ金が足りなくなろう…)
去年は当主になったばかりで、家中の取りまとめに忙殺された。そのため、出来た事といえば塩の増産と奇天烈船の開発だけ。塩の作り方はそのうち外に漏れるはず。そしてこのさき奇天烈船の数を揃えようと思えば、その費えは増すばかり。
今は塩が爆売れしているので何とかなっているが、それに頼ってばかりでは心許ない。
(よし、ほかに金になる策を考えよう)
しかし見渡す景色のなかに、黄色い花を咲かせるあの菜の花の姿はない。菜の花があれば菜種から油が作れるのに、花がなければそれも出来ぬ。
(お、そうじゃ。そういえば浜で地引網をした時に、ワサビが欲しいと零したら公家なら持っておりましょうと走ってくれた者がおったの)
ワサビ。確かあれも、菜の花と同じアブラナ科。そして公家の間では、高貴な薬草と珍重されているらしい。
(うむ、これは金になりそうじゃ。ワサビ、漢字でいえば山葵か。たしか徳川家康が褒めた山葵の話も、ここ駿府であったはず。川原者の一部に上流へ移動して貰い、山葵の栽培をさせてみるか)
未来人の感覚を持つ義元からすれば、山葵は刺身や蕎麦に用いるもの。しかし戦国時代では、まだ食用よりも薬という位置付け。ツンとくるその辛さから、気付け薬として用いられているのだろう。寺でも教えられた記憶があるが、今まで失念していたようだ。
(そして、薬といえば砂糖よの)
義元も駿府・遠江の太守。とっても偉いのである。その権力を用いて贅沢三昧に耽るつもりはないが、日々の食事の味気なさから堺に砂糖を求めたことがあった。しかし、これが箆棒に高かったのである。
義元ならば買えぬ事もない。ではあるものの、そんな高価な品を日頃から食していると雪斎に知られたら、驕ったかと大目玉を食ってしまう。
(しかし、自分で作るのなら文句も言われまい)
先の未来のように公害なる空気の穢れがないので、春ともなれば多くの虫たちが飛んでいる。そのなかで一番数多く見かけるのが、日本蜜蜂だ。
(養蜂、これも吉凶占いとして広めるかの)
義元が未来の知識を用いて何かを行う際には、そうした理由付けの方が行ない易い。寺育ちであるし、文殊菩薩のお告げを受けたものとすればいいからだ。
(ほかには何があるかのう。山葵栽培、養蜂…おお、合鴨農法や養鶏も薦めねばの)
これも農民あがりの豊臣秀吉が、水田でアヒルの放し飼いを奨励したという話があったはず。未来の知識を持っていると、なにかと時代を先取りできて便利この上ない。
しかも駿府・遠江の太守という立場で、領内では誰憚ることなく―とはいかず家臣の理解を得なければだが、ほぼほぼ自由にできる。開発発展も、著しいものになろうというもの。
(領内には空いている土地はまだまだあるからの。桃や葡萄の果樹園を作るのも面白そうじゃ)
これらもまた、公家たちに喜ばれよう。さらにそれらを公家たちの伝手で京に献上すれば、今川の人気も高まるというもの。
あまりやり過ぎると他の戦国武将に目をつけられてしまう恐れがあるが、こちらの方が雅で粋に映ろう。ただの献金より覚え目出度くなる可能性が高い。今川義元は風流なのだ。
(よし、今年は内政に力を入れるとするかのう)
そう心に決めた義元が見上げた木の先では、鶯がしきりに啼いていた。
(このままでは、いずれ金が足りなくなろう…)
去年は当主になったばかりで、家中の取りまとめに忙殺された。そのため、出来た事といえば塩の増産と奇天烈船の開発だけ。塩の作り方はそのうち外に漏れるはず。そしてこのさき奇天烈船の数を揃えようと思えば、その費えは増すばかり。
今は塩が爆売れしているので何とかなっているが、それに頼ってばかりでは心許ない。
(よし、ほかに金になる策を考えよう)
しかし見渡す景色のなかに、黄色い花を咲かせるあの菜の花の姿はない。菜の花があれば菜種から油が作れるのに、花がなければそれも出来ぬ。
(お、そうじゃ。そういえば浜で地引網をした時に、ワサビが欲しいと零したら公家なら持っておりましょうと走ってくれた者がおったの)
ワサビ。確かあれも、菜の花と同じアブラナ科。そして公家の間では、高貴な薬草と珍重されているらしい。
(うむ、これは金になりそうじゃ。ワサビ、漢字でいえば山葵か。たしか徳川家康が褒めた山葵の話も、ここ駿府であったはず。川原者の一部に上流へ移動して貰い、山葵の栽培をさせてみるか)
未来人の感覚を持つ義元からすれば、山葵は刺身や蕎麦に用いるもの。しかし戦国時代では、まだ食用よりも薬という位置付け。ツンとくるその辛さから、気付け薬として用いられているのだろう。寺でも教えられた記憶があるが、今まで失念していたようだ。
(そして、薬といえば砂糖よの)
義元も駿府・遠江の太守。とっても偉いのである。その権力を用いて贅沢三昧に耽るつもりはないが、日々の食事の味気なさから堺に砂糖を求めたことがあった。しかし、これが箆棒に高かったのである。
義元ならば買えぬ事もない。ではあるものの、そんな高価な品を日頃から食していると雪斎に知られたら、驕ったかと大目玉を食ってしまう。
(しかし、自分で作るのなら文句も言われまい)
先の未来のように公害なる空気の穢れがないので、春ともなれば多くの虫たちが飛んでいる。そのなかで一番数多く見かけるのが、日本蜜蜂だ。
(養蜂、これも吉凶占いとして広めるかの)
義元が未来の知識を用いて何かを行う際には、そうした理由付けの方が行ない易い。寺育ちであるし、文殊菩薩のお告げを受けたものとすればいいからだ。
(ほかには何があるかのう。山葵栽培、養蜂…おお、合鴨農法や養鶏も薦めねばの)
これも農民あがりの豊臣秀吉が、水田でアヒルの放し飼いを奨励したという話があったはず。未来の知識を持っていると、なにかと時代を先取りできて便利この上ない。
しかも駿府・遠江の太守という立場で、領内では誰憚ることなく―とはいかず家臣の理解を得なければだが、ほぼほぼ自由にできる。開発発展も、著しいものになろうというもの。
(領内には空いている土地はまだまだあるからの。桃や葡萄の果樹園を作るのも面白そうじゃ)
これらもまた、公家たちに喜ばれよう。さらにそれらを公家たちの伝手で京に献上すれば、今川の人気も高まるというもの。
あまりやり過ぎると他の戦国武将に目をつけられてしまう恐れがあるが、こちらの方が雅で粋に映ろう。ただの献金より覚え目出度くなる可能性が高い。今川義元は風流なのだ。
(よし、今年は内政に力を入れるとするかのう)
そう心に決めた義元が見上げた木の先では、鶯がしきりに啼いていた。
13
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
マルチバース豊臣家の人々
かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月
後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。
ーーこんなはずちゃうやろ?
それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。
果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?
そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる