≒今川義元 風雲繁盛記≒

空志戸レミ

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金策思案

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義元は春のうららかな景色に目を細めつつ、内心では悩んでいた。

(このままでは、いずれ金が足りなくなろう…)

去年は当主になったばかりで、家中の取りまとめに忙殺された。そのため、出来た事といえば塩の増産と奇天烈船の開発だけ。塩の作り方はそのうち外に漏れるはず。そしてこのさき奇天烈船の数を揃えようと思えば、その費えは増すばかり。

今は塩が爆売れしているので何とかなっているが、それに頼ってばかりでは心許ない。

(よし、ほかに金になる策を考えよう)

しかし見渡す景色のなかに、黄色い花を咲かせるあの菜の花の姿はない。菜の花があれば菜種から油が作れるのに、花がなければそれも出来ぬ。

(お、そうじゃ。そういえば浜で地引網をした時に、ワサビが欲しいと零したら公家なら持っておりましょうと走ってくれた者がおったの)

ワサビ。確かあれも、菜の花と同じアブラナ科。そして公家の間では、高貴な薬草と珍重されているらしい。

(うむ、これは金になりそうじゃ。ワサビ、漢字でいえば山葵か。たしか徳川家康が褒めた山葵の話も、ここ駿府であったはず。川原者の一部に上流へ移動して貰い、山葵の栽培をさせてみるか)

未来人の感覚を持つ義元からすれば、山葵は刺身や蕎麦に用いるもの。しかし戦国時代では、まだ食用よりも薬という位置付け。ツンとくるその辛さから、気付け薬として用いられているのだろう。寺でも教えられた記憶があるが、今まで失念していたようだ。

(そして、薬といえば砂糖よの)

義元も駿府・遠江の太守。とっても偉いのである。その権力を用いて贅沢三昧に耽るつもりはないが、日々の食事の味気なさから堺に砂糖を求めたことがあった。しかし、これが箆棒に高かったのである。

義元ならば買えぬ事もない。ではあるものの、そんな高価な品を日頃から食していると雪斎に知られたら、驕ったかと大目玉を食ってしまう。

(しかし、自分で作るのなら文句も言われまい)

先の未来のように公害なる空気の穢れがないので、春ともなれば多くの虫たちが飛んでいる。そのなかで一番数多く見かけるのが、日本蜜蜂だ。

(養蜂、これも吉凶占いとして広めるかの)

義元が未来の知識を用いて何かを行う際には、そうした理由付けの方が行ない易い。寺育ちであるし、文殊菩薩のお告げを受けたものとすればいいからだ。

(ほかには何があるかのう。山葵栽培、養蜂…おお、合鴨農法や養鶏も薦めねばの)

これも農民あがりの豊臣秀吉が、水田でアヒルの放し飼いを奨励したという話があったはず。未来の知識を持っていると、なにかと時代を先取りできて便利この上ない。

しかも駿府・遠江の太守という立場で、領内では誰憚ることなく―とはいかず家臣の理解を得なければだが、ほぼほぼ自由にできる。開発発展も、著しいものになろうというもの。

(領内には空いている土地はまだまだあるからの。桃や葡萄の果樹園を作るのも面白そうじゃ)

これらもまた、公家たちに喜ばれよう。さらにそれらを公家たちの伝手で京に献上すれば、今川の人気も高まるというもの。

あまりやり過ぎると他の戦国武将に目をつけられてしまう恐れがあるが、こちらの方が雅で粋に映ろう。ただの献金より覚え目出度くなる可能性が高い。今川義元は風流なのだ。

(よし、今年は内政に力を入れるとするかのう)

そう心に決めた義元が見上げた木の先では、鶯がしきりに啼いていた。
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