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鵜殿サンダー長持
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入ってくる話はどこも戰話でキナ臭い。しかし、しばらくは戰せず内政に力を注ぐと宣言した義元。そのため、駿府と遠江の領内だけは平和だった。
ただそうなると、常備兵は持ち腐れ。けれども義元。そんな常備兵の数を徐々に増やしているのは、即座に動かせる兵がいると何かと便利だから。
「ほぉ、だいぶ整うたようじゃの」
「なるほど、これが。確かに四角くなっておりますな」
本日、義元が視察に来たのは常備兵によって改造された四角い田んぼ。近代農法を再現する為に、まずは自身の領地で試験を行なっていた。家臣達にもやらせ、もし失敗したらバッシングの嵐が吹いてしまう為だ。
「ここに太守様の薦める苗の植え方をすれば、稲の実りが増えるのでございますか?」
「うむ、間違いなく、とは申せぬがの。何分、お天道様や雷様のご機嫌もある故」
そう言って、義元は晴れ渡っている空を見上げる。空は青く澄み渡り、今日もよく晴れている。
「お、そうそう。カミナリ様と申せば、なんでも鵜殿どのの城に雷が落ちたそうにございますぞ」
「なに、それはまことか!」
噂話を口にした家来の言葉に、義元は驚いた反応を示した。
「はい。こちらに来る途中、知り合いにその話を伺いまして。戻ればそのご報告もあがっておりましょう。知り合いは鵜殿どのの家で家人をしております故」
「そうか。ではこれよりすぐ検分に参る。使いを出して支度いたせ」
「ハッ!」
…。
こうして義元が上ノ郷城に赴くと、城主を務める鵜殿長持が外まで主君を出迎えた。
「よくぞお越しくださいました」
「うむ、ご苦労。雷が落ちたと聞いた。みな大事ないか?」
「はい。驚いて腰を抜かした者はおりましたが、怪我をした者などはおりません」
「それは幸いじゃった。では早速城の様子を見せて貰おう」
「ご案内仕ります」
そう言って前に立ち案内する長持の背に向け、義元は話しかけた。
「そうそう。落雷のあったとき、そなたは城におったのか?」
「はい、居りました。春だというに俄かに空が曇りましたところ、ゴロゴロと鳴りだす不穏な気配。するとたちまちの豪雨。家の者がそれに驚いているとドンと大きな地揺れがし、眼が眩みましてございます」
「ほぉ、それで無事だったとは大したもの。そなたはこれより、鵜殿サンダー長持と名乗るが良い」
「は?三陀阿…にございますか」
「うむ、サンダーとはの、雷神様の加護を受けたという意味よ。これは秘事ゆえここだけの話にしておけ。漏らすとご加護が薄れるでの」
「なるほど…、それは大切。承知いたしました」
義元は相手が義弟ゆえ気安くそんな事を口にしたが、なんの根拠もない話。しかし長持は至極真面目にそれを受け取めた。
「儂が据えるよう申しつけた避雷針があるであろう。まず第一にその根元が見たい」
「分かりました。こちらにございます」
そうして長持の案内で城の中を進むと、太い柱に沿って針金が垂れている。そして柱の方には落雷で出来た黒い焦げ跡が、木の根のように走っていた。
「おお、これぞまさしく。避雷針をつけておいて良かったのう。下手をすれば落雷でこの城が火事になっておったわ」
「我が城をお守りくださり、ありがとうございます。このご恩。長持は代々子に伝えまする」
「うむ、よいよい。そなたたちが無事であれば儂はそれで満足じゃ。それより試したいことがある。みな、少々離れておれ」
義元は前に出ると両手を広げ、誰もいない空間を作らせる。そうして安全を確認してから、腰の脇差を抜いた。しかし主君が刃物を手にしたことで、その場にいる長持と小姓たちは顔色を変えた。
「太守様!な、なにを!?」
「うむ、大事ない。その方らは、そこで儂のすることをよく視ておれ」
義元は鷹揚に頷いて問題のないことを家臣達に告げると、我が身を避け脇差だけを焦げ跡の走る柱に近づけた。するとパチリと音がして、垂れていた針金が脇差に吸いついたではないか。
「なんとッ!?」
有り得ぬ現象に驚く長持たちに、義元は微笑んで教えてやる。
「これは磁化と申しての。雷神の加護を得た鉄は、このように鉄同士くっつくようになる」
義元が脇差を左右に揺らしても、針金は外れることなくついてくる。
「そ、その脇差が特別なのでは…?」
「これはただの脇差よ。そうじゃの、この脇差は記念にそなたに授けよう」
そう言うと義元は脇差を鞘に納め、長持に差し出した。
「受け取るがよい」
「あ、ありがたく頂戴いたします!」
「されば長持。相談じゃが、この避雷針は儂が貰うて帰ってもよいか?代わりの避雷針はすぐに用意させる」
「勿論にございます!この城をお守り頂いたうえ、このような褒美まで頂いては」
「そうか。では今みせた要領での、城中の金物を調べてみるがよい。磁化しておれば、それらを全て儂が買おう」
「心得ました。ただちに家の者に調べさせまする」
こうして義元は落雷という災難を幸運に変えることで、多くの磁鉄を手に入れたのだった。
それから、長持も自身の名を鵜殿三陀阿長持と名乗るようになった。周囲から意味や理由を訊かれても決して明かさず、どうしてもと乞われた時のみ『ある徳の高い御方に頂いた大切な名。明かせばご加護が薄れる』と言ったという。
その長持が大病もせず天寿を全うすると、子孫たちは長持にあやかろうと子の幼名に三陀阿と名付けるようになった。
ただそうなると、常備兵は持ち腐れ。けれども義元。そんな常備兵の数を徐々に増やしているのは、即座に動かせる兵がいると何かと便利だから。
「ほぉ、だいぶ整うたようじゃの」
「なるほど、これが。確かに四角くなっておりますな」
本日、義元が視察に来たのは常備兵によって改造された四角い田んぼ。近代農法を再現する為に、まずは自身の領地で試験を行なっていた。家臣達にもやらせ、もし失敗したらバッシングの嵐が吹いてしまう為だ。
「ここに太守様の薦める苗の植え方をすれば、稲の実りが増えるのでございますか?」
「うむ、間違いなく、とは申せぬがの。何分、お天道様や雷様のご機嫌もある故」
そう言って、義元は晴れ渡っている空を見上げる。空は青く澄み渡り、今日もよく晴れている。
「お、そうそう。カミナリ様と申せば、なんでも鵜殿どのの城に雷が落ちたそうにございますぞ」
「なに、それはまことか!」
噂話を口にした家来の言葉に、義元は驚いた反応を示した。
「はい。こちらに来る途中、知り合いにその話を伺いまして。戻ればそのご報告もあがっておりましょう。知り合いは鵜殿どのの家で家人をしております故」
「そうか。ではこれよりすぐ検分に参る。使いを出して支度いたせ」
「ハッ!」
…。
こうして義元が上ノ郷城に赴くと、城主を務める鵜殿長持が外まで主君を出迎えた。
「よくぞお越しくださいました」
「うむ、ご苦労。雷が落ちたと聞いた。みな大事ないか?」
「はい。驚いて腰を抜かした者はおりましたが、怪我をした者などはおりません」
「それは幸いじゃった。では早速城の様子を見せて貰おう」
「ご案内仕ります」
そう言って前に立ち案内する長持の背に向け、義元は話しかけた。
「そうそう。落雷のあったとき、そなたは城におったのか?」
「はい、居りました。春だというに俄かに空が曇りましたところ、ゴロゴロと鳴りだす不穏な気配。するとたちまちの豪雨。家の者がそれに驚いているとドンと大きな地揺れがし、眼が眩みましてございます」
「ほぉ、それで無事だったとは大したもの。そなたはこれより、鵜殿サンダー長持と名乗るが良い」
「は?三陀阿…にございますか」
「うむ、サンダーとはの、雷神様の加護を受けたという意味よ。これは秘事ゆえここだけの話にしておけ。漏らすとご加護が薄れるでの」
「なるほど…、それは大切。承知いたしました」
義元は相手が義弟ゆえ気安くそんな事を口にしたが、なんの根拠もない話。しかし長持は至極真面目にそれを受け取めた。
「儂が据えるよう申しつけた避雷針があるであろう。まず第一にその根元が見たい」
「分かりました。こちらにございます」
そうして長持の案内で城の中を進むと、太い柱に沿って針金が垂れている。そして柱の方には落雷で出来た黒い焦げ跡が、木の根のように走っていた。
「おお、これぞまさしく。避雷針をつけておいて良かったのう。下手をすれば落雷でこの城が火事になっておったわ」
「我が城をお守りくださり、ありがとうございます。このご恩。長持は代々子に伝えまする」
「うむ、よいよい。そなたたちが無事であれば儂はそれで満足じゃ。それより試したいことがある。みな、少々離れておれ」
義元は前に出ると両手を広げ、誰もいない空間を作らせる。そうして安全を確認してから、腰の脇差を抜いた。しかし主君が刃物を手にしたことで、その場にいる長持と小姓たちは顔色を変えた。
「太守様!な、なにを!?」
「うむ、大事ない。その方らは、そこで儂のすることをよく視ておれ」
義元は鷹揚に頷いて問題のないことを家臣達に告げると、我が身を避け脇差だけを焦げ跡の走る柱に近づけた。するとパチリと音がして、垂れていた針金が脇差に吸いついたではないか。
「なんとッ!?」
有り得ぬ現象に驚く長持たちに、義元は微笑んで教えてやる。
「これは磁化と申しての。雷神の加護を得た鉄は、このように鉄同士くっつくようになる」
義元が脇差を左右に揺らしても、針金は外れることなくついてくる。
「そ、その脇差が特別なのでは…?」
「これはただの脇差よ。そうじゃの、この脇差は記念にそなたに授けよう」
そう言うと義元は脇差を鞘に納め、長持に差し出した。
「受け取るがよい」
「あ、ありがたく頂戴いたします!」
「されば長持。相談じゃが、この避雷針は儂が貰うて帰ってもよいか?代わりの避雷針はすぐに用意させる」
「勿論にございます!この城をお守り頂いたうえ、このような褒美まで頂いては」
「そうか。では今みせた要領での、城中の金物を調べてみるがよい。磁化しておれば、それらを全て儂が買おう」
「心得ました。ただちに家の者に調べさせまする」
こうして義元は落雷という災難を幸運に変えることで、多くの磁鉄を手に入れたのだった。
それから、長持も自身の名を鵜殿三陀阿長持と名乗るようになった。周囲から意味や理由を訊かれても決して明かさず、どうしてもと乞われた時のみ『ある徳の高い御方に頂いた大切な名。明かせばご加護が薄れる』と言ったという。
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