≒今川義元 風雲繁盛記≒

空志戸レミ

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更新浜事情

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今日もまた義元は浜辺に姿を現した。

老臣たちの中には『太守が軽々しく出歩くなど』と諌める者もあった。しかし義元はそうした者達の諌める声に、『太守が民の暮らしを知らずしてなんとする!』と逆に叱りつけたという。

そんな義元が大量の木材を担いだ兵たちをひき連れ現れたと聞き、老いた浜長は慌てて出迎えに表に出た。

「これはこれは、ご太守さま。今日はどういった御用にございますか?」
「うむ、また試しを致したくての。すこし煩くするが、その方らの仕事の邪魔は致さぬ」

「はい。されど、何をなさるのでございましょう?」

このご太守さまはお優しいが、やることがいつも突飛。浜長は一体なにをするのかと心配になった。

「此度は風水車というての、まぁ説明は実物が出来てからでもよかろう。先に始めてよいか、儂も早く動く姿が見てみたいのじゃ」

「はぁ」
「そなたも楽しみにしておれ。それ、者どもかかれ!」

そう言うと義元は事情の説明もそこそこに、兵たちに号令を出してしまう。すると義元の命を受けた兵たちが、木材を担いだままザブザブ海へと入っていく。そして人海戦術により、あっという間に風水車なる物を完成させた。

その完成した姿に義元は満足気に頷くと、次の指示をくだす。

「うむ、では動かしてみよ」

義元はこうして試しを行なうことを楽しみとしており、特に自身で指揮することを好んでいた。

兵たちが留め具を外すと、潮風を受けた風車が回り出す。するとカラクリで繋がった水車もまた、人が回してもいないのに回りだした。そして離れて見ていた浜長の近くにまで、海の水を送ってみせたではないか。

「これは…!」
「どうだ浜長。これが風力を用いた水車。風水車よ」

義元はそう得意気に説明したが、浜長は却って顔色を悪くしてしまう。

「こ、これでは浜の者の仕事が減ってしまいます!どうかなにとぞ、なにとぞこのような事は…!」

浜長は浜の者達の仕事が減ってしまうのを恐れたのだ。せっかく辛い労働から解放され、最近は明るい村の様子だったというのに。これではまた浜の者達から笑顔が奪われてしまう。

しかし、それに対して義元は笑った。

「ほほほ。そのようなこと案ずるに及ばぬ。他の仕事もちゃんと用意してある。それ者ども、丘の上にも風車を建てよ!」
「「「おおお!」」」

海からあがったふんどし一丁の逞しい兵たちは、また別の木材を担ぐと今度は丘の方へと向かっていく。そしてまたあっという間に風車を組み上げてしまった。

これは試しの為に用意された風車自体が小ぶりであったのと、すでに完成した品をバラした状態で持って来ていた為。つまりは一夜城ならぬ、秒で風車。

「太守様、完成にございます」
「うむ、では動かしてみよ」

兵たちが留め具を外す。すると竹組みで出来た風車が風を受け、音をたて勢いよく回り出した。だがそれもそのはず。浜辺はゆるやかな坂となっており、陸と浜との境目であるこの丘が一番強い風となるため。そのゆるやかな坂を上るうちに風が集められ、丘でひとつとなるからだ。

だがそうして風車が回り出すと、なにやらギィギィゴトゴトと物凄い音。そんななか義元が目顔で戸板のなかを覗いてみよと示したので、浜長はそっと中を覗いてみることにした。

するとそこでは人もいないのに勝手に杵が臼を突き、独りでに石臼が回っているではないか。浜長がその様子に言葉を失っていると、義元の家来に肩を叩かれた。

それに振り向くといつのまにかご太守さまは離れた場所に居て、浜長に向け手招きをしていた。音の激しさを嫌い知らぬ間に離れたものらしい。

「どうじゃ浜長、驚いたか」
「はい、杵が勝手に臼を突いておりました。…あれは、付喪神にございますか?」

「そうではない。あれも風の力よ」
「はぁ、では風神様のお力で?」

「うぅむ…、まぁその理解でよかろう。あれは風神様の力をお借りしてな、杵や臼が動いておる。そしてあれらを用いて小麦などを粉にするのが、その方たちの新たな仕事となる」

「ではあのような品も、ワシらにお預けくださるので!?」
「うむ、地引網と同様、そなたらに預けおく。それゆえ大切に管理いたせよ」

地引網には大量の木綿糸が使われているので、とても高価。今川の財を用いて特別に作らせた物だからだ。それ故に網を預けたり塩の生産をさせるにあたって、義元は浜の漁村をまるごと企業化した。

つまり浜長を社長とし、ほかの村民を全て社員と位置付けたのだ。

単に地引網を預け勝手に漁をさせただけでは、上が富を独占し無駄に成金が誕生してしまう。それを防ぐため、漁村を義元の下に完全子会社化して管理。そのため出た利益は丸ごと回収し、決めた額で給金を支払っている。なのでこの浜長の給金もそう高くなく、浜の者の三割増しといったところである。

「しかし、凄い音にございますな。あれで壊れぬのですか?」

浜長が心配するように、風車からは酷い音が響いてきている。

「あれはの、壊れても良いように敢えて粗末に作ってある」
「敢えて、でございますか?」

「さよう。浜辺に作るのだ。強い風が吹けば丈夫に建てても壊れよう。ならばいっそ構造を簡素にして、壊れても直し易いようにしてある。だから材料にも木と竹しか使っておらぬ。そなたたち浜の者でも、慣れれば自分で直せるようになろう。ついでのことに、しっかり構造を覚えたら自分達で数を増やしても良いぞ?」
「それはまた、なんと…」

「田畑の方でも二毛作が広がり麦の収穫も増えておろう。それを粉にした方が高く売れる。さすればそなた達の生活も、もっと豊かになる」
「おお、なんとありがたきこと。浜の者たちを代表し、ご太守さまに感謝申し上げます」

しかしそう話している間にも強風を受けた風車は激しく回転。そのまま限界を超えたようで、まるで爆発したかのようにして爆ぜ飛んだ。

まだまだ改良は必要なようである。
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