30 / 82
更新浜事情
しおりを挟む
今日もまた義元は浜辺に姿を現した。
老臣たちの中には『太守が軽々しく出歩くなど』と諌める者もあった。しかし義元はそうした者達の諌める声に、『太守が民の暮らしを知らずしてなんとする!』と逆に叱りつけたという。
そんな義元が大量の木材を担いだ兵たちをひき連れ現れたと聞き、老いた浜長は慌てて出迎えに表に出た。
「これはこれは、ご太守さま。今日はどういった御用にございますか?」
「うむ、また試しを致したくての。すこし煩くするが、その方らの仕事の邪魔は致さぬ」
「はい。されど、何をなさるのでございましょう?」
このご太守さまはお優しいが、やることがいつも突飛。浜長は一体なにをするのかと心配になった。
「此度は風水車というての、まぁ説明は実物が出来てからでもよかろう。先に始めてよいか、儂も早く動く姿が見てみたいのじゃ」
「はぁ」
「そなたも楽しみにしておれ。それ、者どもかかれ!」
そう言うと義元は事情の説明もそこそこに、兵たちに号令を出してしまう。すると義元の命を受けた兵たちが、木材を担いだままザブザブ海へと入っていく。そして人海戦術により、あっという間に風水車なる物を完成させた。
その完成した姿に義元は満足気に頷くと、次の指示をくだす。
「うむ、では動かしてみよ」
義元はこうして試しを行なうことを楽しみとしており、特に自身で指揮することを好んでいた。
兵たちが留め具を外すと、潮風を受けた風車が回り出す。するとカラクリで繋がった水車もまた、人が回してもいないのに回りだした。そして離れて見ていた浜長の近くにまで、海の水を送ってみせたではないか。
「これは…!」
「どうだ浜長。これが風力を用いた水車。風水車よ」
義元はそう得意気に説明したが、浜長は却って顔色を悪くしてしまう。
「こ、これでは浜の者の仕事が減ってしまいます!どうかなにとぞ、なにとぞこのような事は…!」
浜長は浜の者達の仕事が減ってしまうのを恐れたのだ。せっかく辛い労働から解放され、最近は明るい村の様子だったというのに。これではまた浜の者達から笑顔が奪われてしまう。
しかし、それに対して義元は笑った。
「ほほほ。そのようなこと案ずるに及ばぬ。他の仕事もちゃんと用意してある。それ者ども、丘の上にも風車を建てよ!」
「「「おおお!」」」
海からあがったふんどし一丁の逞しい兵たちは、また別の木材を担ぐと今度は丘の方へと向かっていく。そしてまたあっという間に風車を組み上げてしまった。
これは試しの為に用意された風車自体が小ぶりであったのと、すでに完成した品をバラした状態で持って来ていた為。つまりは一夜城ならぬ、秒で風車。
「太守様、完成にございます」
「うむ、では動かしてみよ」
兵たちが留め具を外す。すると竹組みで出来た風車が風を受け、音をたて勢いよく回り出した。だがそれもそのはず。浜辺はゆるやかな坂となっており、陸と浜との境目であるこの丘が一番強い風となるため。そのゆるやかな坂を上るうちに風が集められ、丘でひとつとなるからだ。
だがそうして風車が回り出すと、なにやらギィギィゴトゴトと物凄い音。そんななか義元が目顔で戸板のなかを覗いてみよと示したので、浜長はそっと中を覗いてみることにした。
するとそこでは人もいないのに勝手に杵が臼を突き、独りでに石臼が回っているではないか。浜長がその様子に言葉を失っていると、義元の家来に肩を叩かれた。
それに振り向くといつのまにかご太守さまは離れた場所に居て、浜長に向け手招きをしていた。音の激しさを嫌い知らぬ間に離れたものらしい。
「どうじゃ浜長、驚いたか」
「はい、杵が勝手に臼を突いておりました。…あれは、付喪神にございますか?」
「そうではない。あれも風の力よ」
「はぁ、では風神様のお力で?」
「うぅむ…、まぁその理解でよかろう。あれは風神様の力をお借りしてな、杵や臼が動いておる。そしてあれらを用いて小麦などを粉にするのが、その方たちの新たな仕事となる」
「ではあのような品も、ワシらにお預けくださるので!?」
「うむ、地引網と同様、そなたらに預けおく。それゆえ大切に管理いたせよ」
地引網には大量の木綿糸が使われているので、とても高価。今川の財を用いて特別に作らせた物だからだ。それ故に網を預けたり塩の生産をさせるにあたって、義元は浜の漁村をまるごと企業化した。
つまり浜長を社長とし、ほかの村民を全て社員と位置付けたのだ。
単に地引網を預け勝手に漁をさせただけでは、上が富を独占し無駄に成金が誕生してしまう。それを防ぐため、漁村を義元の下に完全子会社化して管理。そのため出た利益は丸ごと回収し、決めた額で給金を支払っている。なのでこの浜長の給金もそう高くなく、浜の者の三割増しといったところである。
「しかし、凄い音にございますな。あれで壊れぬのですか?」
浜長が心配するように、風車からは酷い音が響いてきている。
「あれはの、壊れても良いように敢えて粗末に作ってある」
「敢えて、でございますか?」
「さよう。浜辺に作るのだ。強い風が吹けば丈夫に建てても壊れよう。ならばいっそ構造を簡素にして、壊れても直し易いようにしてある。だから材料にも木と竹しか使っておらぬ。そなたたち浜の者でも、慣れれば自分で直せるようになろう。ついでのことに、しっかり構造を覚えたら自分達で数を増やしても良いぞ?」
「それはまた、なんと…」
「田畑の方でも二毛作が広がり麦の収穫も増えておろう。それを粉にした方が高く売れる。さすればそなた達の生活も、もっと豊かになる」
「おお、なんとありがたきこと。浜の者たちを代表し、ご太守さまに感謝申し上げます」
しかしそう話している間にも強風を受けた風車は激しく回転。そのまま限界を超えたようで、まるで爆発したかのようにして爆ぜ飛んだ。
まだまだ改良は必要なようである。
老臣たちの中には『太守が軽々しく出歩くなど』と諌める者もあった。しかし義元はそうした者達の諌める声に、『太守が民の暮らしを知らずしてなんとする!』と逆に叱りつけたという。
そんな義元が大量の木材を担いだ兵たちをひき連れ現れたと聞き、老いた浜長は慌てて出迎えに表に出た。
「これはこれは、ご太守さま。今日はどういった御用にございますか?」
「うむ、また試しを致したくての。すこし煩くするが、その方らの仕事の邪魔は致さぬ」
「はい。されど、何をなさるのでございましょう?」
このご太守さまはお優しいが、やることがいつも突飛。浜長は一体なにをするのかと心配になった。
「此度は風水車というての、まぁ説明は実物が出来てからでもよかろう。先に始めてよいか、儂も早く動く姿が見てみたいのじゃ」
「はぁ」
「そなたも楽しみにしておれ。それ、者どもかかれ!」
そう言うと義元は事情の説明もそこそこに、兵たちに号令を出してしまう。すると義元の命を受けた兵たちが、木材を担いだままザブザブ海へと入っていく。そして人海戦術により、あっという間に風水車なる物を完成させた。
その完成した姿に義元は満足気に頷くと、次の指示をくだす。
「うむ、では動かしてみよ」
義元はこうして試しを行なうことを楽しみとしており、特に自身で指揮することを好んでいた。
兵たちが留め具を外すと、潮風を受けた風車が回り出す。するとカラクリで繋がった水車もまた、人が回してもいないのに回りだした。そして離れて見ていた浜長の近くにまで、海の水を送ってみせたではないか。
「これは…!」
「どうだ浜長。これが風力を用いた水車。風水車よ」
義元はそう得意気に説明したが、浜長は却って顔色を悪くしてしまう。
「こ、これでは浜の者の仕事が減ってしまいます!どうかなにとぞ、なにとぞこのような事は…!」
浜長は浜の者達の仕事が減ってしまうのを恐れたのだ。せっかく辛い労働から解放され、最近は明るい村の様子だったというのに。これではまた浜の者達から笑顔が奪われてしまう。
しかし、それに対して義元は笑った。
「ほほほ。そのようなこと案ずるに及ばぬ。他の仕事もちゃんと用意してある。それ者ども、丘の上にも風車を建てよ!」
「「「おおお!」」」
海からあがったふんどし一丁の逞しい兵たちは、また別の木材を担ぐと今度は丘の方へと向かっていく。そしてまたあっという間に風車を組み上げてしまった。
これは試しの為に用意された風車自体が小ぶりであったのと、すでに完成した品をバラした状態で持って来ていた為。つまりは一夜城ならぬ、秒で風車。
「太守様、完成にございます」
「うむ、では動かしてみよ」
兵たちが留め具を外す。すると竹組みで出来た風車が風を受け、音をたて勢いよく回り出した。だがそれもそのはず。浜辺はゆるやかな坂となっており、陸と浜との境目であるこの丘が一番強い風となるため。そのゆるやかな坂を上るうちに風が集められ、丘でひとつとなるからだ。
だがそうして風車が回り出すと、なにやらギィギィゴトゴトと物凄い音。そんななか義元が目顔で戸板のなかを覗いてみよと示したので、浜長はそっと中を覗いてみることにした。
するとそこでは人もいないのに勝手に杵が臼を突き、独りでに石臼が回っているではないか。浜長がその様子に言葉を失っていると、義元の家来に肩を叩かれた。
それに振り向くといつのまにかご太守さまは離れた場所に居て、浜長に向け手招きをしていた。音の激しさを嫌い知らぬ間に離れたものらしい。
「どうじゃ浜長、驚いたか」
「はい、杵が勝手に臼を突いておりました。…あれは、付喪神にございますか?」
「そうではない。あれも風の力よ」
「はぁ、では風神様のお力で?」
「うぅむ…、まぁその理解でよかろう。あれは風神様の力をお借りしてな、杵や臼が動いておる。そしてあれらを用いて小麦などを粉にするのが、その方たちの新たな仕事となる」
「ではあのような品も、ワシらにお預けくださるので!?」
「うむ、地引網と同様、そなたらに預けおく。それゆえ大切に管理いたせよ」
地引網には大量の木綿糸が使われているので、とても高価。今川の財を用いて特別に作らせた物だからだ。それ故に網を預けたり塩の生産をさせるにあたって、義元は浜の漁村をまるごと企業化した。
つまり浜長を社長とし、ほかの村民を全て社員と位置付けたのだ。
単に地引網を預け勝手に漁をさせただけでは、上が富を独占し無駄に成金が誕生してしまう。それを防ぐため、漁村を義元の下に完全子会社化して管理。そのため出た利益は丸ごと回収し、決めた額で給金を支払っている。なのでこの浜長の給金もそう高くなく、浜の者の三割増しといったところである。
「しかし、凄い音にございますな。あれで壊れぬのですか?」
浜長が心配するように、風車からは酷い音が響いてきている。
「あれはの、壊れても良いように敢えて粗末に作ってある」
「敢えて、でございますか?」
「さよう。浜辺に作るのだ。強い風が吹けば丈夫に建てても壊れよう。ならばいっそ構造を簡素にして、壊れても直し易いようにしてある。だから材料にも木と竹しか使っておらぬ。そなたたち浜の者でも、慣れれば自分で直せるようになろう。ついでのことに、しっかり構造を覚えたら自分達で数を増やしても良いぞ?」
「それはまた、なんと…」
「田畑の方でも二毛作が広がり麦の収穫も増えておろう。それを粉にした方が高く売れる。さすればそなた達の生活も、もっと豊かになる」
「おお、なんとありがたきこと。浜の者たちを代表し、ご太守さまに感謝申し上げます」
しかしそう話している間にも強風を受けた風車は激しく回転。そのまま限界を超えたようで、まるで爆発したかのようにして爆ぜ飛んだ。
まだまだ改良は必要なようである。
13
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
マルチバース豊臣家の人々
かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月
後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。
ーーこんなはずちゃうやろ?
それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。
果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?
そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる