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山本勘助採用
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この日、牢人家老の庵原 忠胤が変わった風采の男を義元の前に連れてきた。
「ほれ、この方がおまえの会いたがっていた今川の当主様だ。ご挨拶いたせ」
そう忠胤に促され前にすさって頭をさげたのは、片目が潰れ頭の禿げあがった顰め面の中年。だが、なんというか不良少年あずけたらプロボクサーに育て上げそうな雰囲気を持った男だった。
「お目通りが適い恐悦至極。山本勘助と申します」
「なに、そなた山本勘助と申すか!」
(なんと、山本勘助と言えば武田信玄に仕える名軍師ではないか)
それがなぜここ駿府にと、義元は忠胤に問う視線を送った。
「ハ。この者、常備兵の志願にやって来たのですが、何分にもこのカラダ。それゆえ採用は出来ぬと申したのですが一向に聞き入れませぬ。そのうえ、ご開明な当主様なら儂の価値を必ず分かってくださると居座り続けましてな。どうしても会いたい。一目だけでも会わせろというので、止むなく連れて参りました」
「なるほど、そうか。そなたはそれほどまでに儂に会いたかったか」
義元に眼を向けられると、勘助は床に額を擦りつけて懇願した。
「わ、わしゃあ中国から四国、九州と渡り歩いて兵法を会得。さらには城取り(築城術)から陣取り(戦法)まで修めて参りました。そうやって十年あちこち渡り歩いて戻って来ると、生まれ故郷がまるで別の場所のように栄えておった。嬉しかったぁ。そうか、わしゃあこのお方にお仕えするために今まで頑張って来たんだと、ようやく分かりました。だからご当主さま、どうか儂を使こうてくださりませ!」
身を揉んで頼み込む勘助。傾しいで座る姿から足の具合も悪いようだが、前についた指も不足している。だがそれは相当な修羅場を潜り抜けた者だと一目で分かる風貌。
(しかし驚いたの。これほど貴重な人材が向こうから仕えたいとやって来るとは…)
そう驚くと同時に、それだけ自分も良い当主と認められているのかとこそばゆくもあった。
「さて、生まれ故郷と申したが、そなた駿府の出か?」
「はっ、駿河国は富士郡の生まれにございます」
(え、てことは史実・義元は山本勘助を雇用し損ねてるってこと!?)
なんということか。こんな大サービスのボーナスチャンスを逃すなんて。もし雪斎が亡くなった後もこの勘助がいてくれれば、あの桶狭間デスティニーは起きなかったかもしれないというのに。
だが、この新生・義元はそんなミスは犯さない。
「うむ。よかろう、採用じゃ」
大きく頷いて山本勘助の採用を決定。
「「は!?」」
しかし採用だと言っているのに、忠胤も勘助も目を見開いて驚いている。
「あ、え、いや!よ、宜しいのでございますか?」
忠胤は信じられぬと確認をとるが、義元はもうすっかり雇う気でいる。
「うむ、その脚では常備兵に組み込むのは難しかろう。しかし若い者達を教える教育係としてなら、問題はないはず。あちこち渡り歩いたというなら、含蓄も充分あろう。のう勘助」
「ハ!」
「雪斎も仕事を多く抱えて忙しい。だからそなたは雪斎の下についてな、童たちの面倒をみよ。そなたの学んだという知識を余すことなく教え、童たちが良き将となるよう鍛えるのだ」
「ハハッ!」
「うむ、働きに期待しておるぞ」
これは庵原忠胤からすれば、まさかの展開。当主様から直接駄目だと言われ諦めさせるつもりだったのが、全く逆の事態となったことで言葉を失った。
「これは、なんとも、はや…」
「これ忠胤」
「は」
「そなたには常備兵の採否を任せていたが、これからは常備兵という枠に囚われずの。もっと広く考えよ」
「と、申されますと?」
「応募に来た者が、この駿府・遠江の役に立つ者かどうかをよく考えるのだ」
「なるほど」
「手先の器用な者ならば職人たちの弟子につかせる。読み書きが出来るのならば中間(事務方)として使えよう。武芸でなくとも一芸に秀でている者ならば、使いようはある。その使い方は儂が考える故、そなたはそうした者が来た時には帰すでないぞ?」
「帰してはなりませんか?」
「うむ、ならぬの。少しは使こうてみねば、役に立つか立たぬかは分からぬもの。それを容易く帰していては、余所で雇われた時に大きな損をするではないか。この勘助とて余所で雇われていたら、大きな損となっていたかもしれぬぞ?」
「わかりました。では以後は兵という枠に囚われず、ひろく採否をとり行なう事と致します」
こうして駿府常備兵採用受付番所が駿府職業安定所とその名を変えると、多くの者が雇用を夢見て訪れるようになったという。
「ほれ、この方がおまえの会いたがっていた今川の当主様だ。ご挨拶いたせ」
そう忠胤に促され前にすさって頭をさげたのは、片目が潰れ頭の禿げあがった顰め面の中年。だが、なんというか不良少年あずけたらプロボクサーに育て上げそうな雰囲気を持った男だった。
「お目通りが適い恐悦至極。山本勘助と申します」
「なに、そなた山本勘助と申すか!」
(なんと、山本勘助と言えば武田信玄に仕える名軍師ではないか)
それがなぜここ駿府にと、義元は忠胤に問う視線を送った。
「ハ。この者、常備兵の志願にやって来たのですが、何分にもこのカラダ。それゆえ採用は出来ぬと申したのですが一向に聞き入れませぬ。そのうえ、ご開明な当主様なら儂の価値を必ず分かってくださると居座り続けましてな。どうしても会いたい。一目だけでも会わせろというので、止むなく連れて参りました」
「なるほど、そうか。そなたはそれほどまでに儂に会いたかったか」
義元に眼を向けられると、勘助は床に額を擦りつけて懇願した。
「わ、わしゃあ中国から四国、九州と渡り歩いて兵法を会得。さらには城取り(築城術)から陣取り(戦法)まで修めて参りました。そうやって十年あちこち渡り歩いて戻って来ると、生まれ故郷がまるで別の場所のように栄えておった。嬉しかったぁ。そうか、わしゃあこのお方にお仕えするために今まで頑張って来たんだと、ようやく分かりました。だからご当主さま、どうか儂を使こうてくださりませ!」
身を揉んで頼み込む勘助。傾しいで座る姿から足の具合も悪いようだが、前についた指も不足している。だがそれは相当な修羅場を潜り抜けた者だと一目で分かる風貌。
(しかし驚いたの。これほど貴重な人材が向こうから仕えたいとやって来るとは…)
そう驚くと同時に、それだけ自分も良い当主と認められているのかとこそばゆくもあった。
「さて、生まれ故郷と申したが、そなた駿府の出か?」
「はっ、駿河国は富士郡の生まれにございます」
(え、てことは史実・義元は山本勘助を雇用し損ねてるってこと!?)
なんということか。こんな大サービスのボーナスチャンスを逃すなんて。もし雪斎が亡くなった後もこの勘助がいてくれれば、あの桶狭間デスティニーは起きなかったかもしれないというのに。
だが、この新生・義元はそんなミスは犯さない。
「うむ。よかろう、採用じゃ」
大きく頷いて山本勘助の採用を決定。
「「は!?」」
しかし採用だと言っているのに、忠胤も勘助も目を見開いて驚いている。
「あ、え、いや!よ、宜しいのでございますか?」
忠胤は信じられぬと確認をとるが、義元はもうすっかり雇う気でいる。
「うむ、その脚では常備兵に組み込むのは難しかろう。しかし若い者達を教える教育係としてなら、問題はないはず。あちこち渡り歩いたというなら、含蓄も充分あろう。のう勘助」
「ハ!」
「雪斎も仕事を多く抱えて忙しい。だからそなたは雪斎の下についてな、童たちの面倒をみよ。そなたの学んだという知識を余すことなく教え、童たちが良き将となるよう鍛えるのだ」
「ハハッ!」
「うむ、働きに期待しておるぞ」
これは庵原忠胤からすれば、まさかの展開。当主様から直接駄目だと言われ諦めさせるつもりだったのが、全く逆の事態となったことで言葉を失った。
「これは、なんとも、はや…」
「これ忠胤」
「は」
「そなたには常備兵の採否を任せていたが、これからは常備兵という枠に囚われずの。もっと広く考えよ」
「と、申されますと?」
「応募に来た者が、この駿府・遠江の役に立つ者かどうかをよく考えるのだ」
「なるほど」
「手先の器用な者ならば職人たちの弟子につかせる。読み書きが出来るのならば中間(事務方)として使えよう。武芸でなくとも一芸に秀でている者ならば、使いようはある。その使い方は儂が考える故、そなたはそうした者が来た時には帰すでないぞ?」
「帰してはなりませんか?」
「うむ、ならぬの。少しは使こうてみねば、役に立つか立たぬかは分からぬもの。それを容易く帰していては、余所で雇われた時に大きな損をするではないか。この勘助とて余所で雇われていたら、大きな損となっていたかもしれぬぞ?」
「わかりました。では以後は兵という枠に囚われず、ひろく採否をとり行なう事と致します」
こうして駿府常備兵採用受付番所が駿府職業安定所とその名を変えると、多くの者が雇用を夢見て訪れるようになったという。
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