≒今川義元 風雲繁盛記≒

空志戸レミ

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山本勘助が子供たちを教え始めると、すぐにこれは良い先生が来てくれたと評判になった。

ただ、どうもこれは雪斎との対比が大きかった模様。

言わずもがな我が師、太原雪斎は大変に優れた人物。しかしその優秀さが、子供たちを教えるには少々問題となっていたようなのである。

領主様の師であり、今も信任厚い宰相という立場。すると寺に子供を学びに通わせる親の方でも、『よいか、雪斎殿に気に入られるようしっかり勉学に励むのだぞ。それがそなたの出世に響いてくるのだからな』などと言い含めて送り出す。

だがいざ雪斎と対面してみると、その優秀な者が持つ独特の近寄りがたい雰囲気に気圧されてしまい、すっかり緊張。せっかく学んでいるのにその内容がサッパリ頭に入ってこないなんて子供たちも結構多かったらしい。

しかしそうした雪斎と比べると、勘助はひどく子供たちに親しみやすかった。

足軽どものなかに混じってしまえば見分けがつかぬ程の風采のあがらなさに加え、身体じゅうに負った傷の凄味を紛すピョコピョコと歩く滑稽な姿。それらが混然となり、子供たちの注目を集めたのだ。

(あの人物はいったい何者なのだ…?)

だがその疑問はすぐに解ける。彼は十年もの歳月をかけ諸国を巡り、さまざまな事を学んできたという。

そして学びを教える時には、必ず自分の武辺話から始めた。

勉強は嫌いでも武辺話を好きな子供は多い。それを知り、勘助は実体験の武辺話を語ったのだ。その内容は血湧き肉躍る山本勘助危機一髪。

だがそれをただの自慢話や武勇伝で終わらせるような事はせず、『辛うじて命は繋いだが、これこれこうした知識を知っていなければあそこで命を落としていた事であろう。その時に受けた傷がコレじゃ』と、自身の身体の傷を指差す。

すると子供たちは武辺話の興奮から震え上がり、自分もしっかりと学ばねばと意識が切り替わるのだ。すばらしい。大変に優秀な教育係が向こうから働きたいとやってきてくれて、大助かりである。


そこでそんな勘助を労う為、義元は造船所のなかを勘助に見せてやることにした。

「は?た、太守様御自らが、某をご案内くださるのでございますか??」
「うむ、造船所は儂が直接采配しておる。それゆえ説明出来る者も限られるでな。儂が説明したほうが早い」

「そ、それはなんとも、光栄にございます!」

勘助が恐縮し頭を下げていても、義元としても不思議に感じる。

(なんとも不思議なものよの。未来の歴史を知る儂からすれば、勘助は武田の名軍師。それが今川家に仕えたいと居座り続けておったというのだから)

「ほほほ、構わぬ。そう緊張せずついて参れ。そなたには駕籠を用意した」
「ご配慮、かたじけのうございます」

義元は北条に贈る際に一頭だけ残した大人しい馬に乗る。そして勘助のためには、小者をふたり用意していた。

これは常備兵の体力考査には受かったものの、どうも荒事は苦手だった者たち。それ故こうして勘助の乗る駕籠を運ばせたり、身の回りの世話をさせるには丁度良いかと試している。勘助が気に入れば、ふたりはそのまま勘助の小者となる予定だ。

造船所は今川館から久能街道を南にくだった、久能山の麓にある。久能城も大幅に改造され、今は海軍基地としての色合いが強い。

「しかし、なんでも造船所はかなり警備が厳しいとか。そこへ某のような者が立ち入っても宜しいのでございますか?」

造船所へと向かう道中、駕籠に揺られながら勘助は色々気にしている様子。

「無論、中で見たことに関しては一切の他言は厳禁である。それゆえ中を見たら最後、生涯よその大名への転職は叶わんぞ?」

するとそれを聞き、勘助はニタリと笑みをこぼす。

「と、申されますと、逆を申せば一生今川家でお使い頂けるので?」
「ほほほ、そなたは子供達から評判がいいからの。そのように人気の先生を辞めさせるわけがなかろう。それでは儂が子供らに責められるわ」

「それはまた、なんとも有難いお言葉。この勘助、なお一層の努力に励みまする」
「うむ、期待しておるぞ」

義元的にも山本勘助を手放すなど考えられない。

だから義弟の武田晴信には申し訳ないが、勘助を武田に譲ることもあり得ない。勘助自身が第一志望でこの今川への就職を望んだのだから、このまま今川家で働いてもらうことでファイナルアンサーである。

そして、知的欲求の強い勘助であれば、きっと造船所の見学も楽しんでくれるに違いない。
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