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造船所見学
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造船所の縄張りは、かなり広くとられている。その理由は造船所とは名ばかりで、義元の思いつく試しを作り出す為の総合研究所でもあるからだ。そのゆえ船を建造する為に深く掘られた場所以外にも、職人たちの居住施設ほか様々な建物が林立している。
そこへ警備厳重な門を潜り立入った勘助は、たちまちその瞳を輝かせた。
「太守様、あの細工師はなぜあのように小さな魚をノミで打っているのでございますか?」
勘助がまず目を付けたのは、鋳潰した古銭で疑似餌を作っている職人。
「うむ、アレは疑似餌よ。ああいう金属で出来た魚でもの。キラキラと光を反射し泳いでいれば、生きてる魚と間違え食いつくのじゃ」
「おお、それは幟や陣幕だけを残す、偽兵の兵法に通じますな。お、あっちの竹で出来た陣盾はなんでございます?」
次に勘助が眼をつけたのは、並んで揃えられている竹製の陣盾。
「ふむ、あれは言うなれば、多機能連結式竹製陣盾。まぁ長いので通称は、その見た目から月盾と呼ばれておる」
「月盾、にございますか…」
かなり興味を持ったのか、勘助は竹製の陣盾をしげしげ眺めている。そこでその機能を説明してやろうと、義元は月盾の生産を任されている職人にそのひとつを持ってこさせた。
「ほれ、この足の生えておるのが月の名の由来であるが、この足は嵌め込み式での。引き抜いて逆さに付け直すと、杭になっておる」
「おお!」
「それゆえ、この杭を地面に打ち付け、後ろのつっかえ棒を伸ばせば、容易には倒れぬ陣盾となろう」
「なるほど」
「しかしこれだけでは騎馬にでも飛び込んでこられれば、容易に蹴散られてしまう。そこでコレじゃ」
義元が目顔で合図すると、職人も心得て盾の竹筒の上から中に入っていた別の竹、短い竹槍を取り出す。それを月盾の表にある型穴へと嵌め込んでみせ、竹槍付陣盾に進化させた。
それを見て勘助も感嘆の声を上げる。
「おお、これならば騎馬でも飛び込むのは躊躇われますな」
「そうであろう。しかも横に連結できる故、繋げるほどに強度は増す。そのうえ全て竹で出来ておるから、道具さえあれば現地でいくらでも増やせる。勘助、想像してみよ。戦場に突然、容易には崩せぬ壁がポンと生まれるのだ。その壁に敵は動きを制限され、逆にこちらは打てる手が増えよう。如何じゃ?」
するとそれを聞き、勘助は涎を垂らさんばかりに興奮しはじめた。
「お!おおお!この陣盾の壁が急に戦場に現れる!こ、これは!であれば…!む、むほぉおおッ!」
脳内戦場でこの月盾を用いた策が綺麗に嵌ったのか、勘助は白目を剥いて喜んでいる。だが義元はそれに苦笑すると、見咎めて呼び戻した。
「これ、頭のなかで戦うのもその辺にいたせ。それでは見学が先に進まぬぞ?」
「お?おお、これは失礼を。すっかり自分の世界に入り込んでおりました」
「それは見学を終えたあとで存分に致すが良い。他にも役立ちそうな物を色々作っておるからの」
「それは楽しみにございます」
そうして次に勘助が興味を持ったのは、木工職人の工房だった。
「はて、あの職人はおかしな物を作っておりますが、あれは何でございますか?」
勘助の視線の先では、熱で伸ばして平らにした竹の板を、長い木の棒へと渦を巻くよう巻きつけている様子。
「おお、あれはの。弦巻揚水器といって、回転することで水を汲み上げるカラクリを作っておるところだ」
「…?」
ここではその見た目から弦巻揚水器と呼んでいるが、元は古代ギリシャの発明家・アルキメデスが考案した装置。故に本来の名はアルキメディアン・スクリューという。この弦巻構造がグルグル回ると、なんだかそれに釣られて水も昇ってしまうというなんとも不思議な装置である。
「そこに木の持ち手がついた竹があるであろう。その竹を桶の水に浸けてな、石臼のように回してみるがよい」
「はあ、これでいったい何が起きますので…?」
「うむ、やってみればすぐに分かるが、回すのはもう少し早いがよいぞ」
「こ、こうでございますか?」
勘助が下部を水桶に浸けた竹筒の持ち手を早く回すと、脇に突き出た竹筒から水がチョロチョロと零れだした。
「なんと!?」
「それが弦巻揚水器の仕組よ。どうじゃ、面白いであろう」
「…は。しかし、これは少々疲れますな。これならば釣瓶で良いのでは?」
しかしその言葉に義元は含みのある笑みで答えた。
「ふふふ、分かっておらぬのう勘助。これは円運動であることが味噌なのだ」
「と、申されますと?」
「頭の中でこれと水車を組み合わせてみよ。さすれば人の手などなくとも、川の水が流れる限りいくらでも水を汲み上げられよう?」
「ッ!!」
「どうじゃ分かったか?」
「つ、つまりコレがあれば、今まで水利が悪く田畑に出来なかった土地でも耕作できるようになると!?」
「そういうことじゃの」
「か、感服仕りました!」
題して。ヨシモー、アルキメデスの知恵をパクって山本勘助にマウントをとるの図。いやしかし、こんな事を紀元前に思いついたというのだから、アルキメデスは本当に天才であるな。
そこへ警備厳重な門を潜り立入った勘助は、たちまちその瞳を輝かせた。
「太守様、あの細工師はなぜあのように小さな魚をノミで打っているのでございますか?」
勘助がまず目を付けたのは、鋳潰した古銭で疑似餌を作っている職人。
「うむ、アレは疑似餌よ。ああいう金属で出来た魚でもの。キラキラと光を反射し泳いでいれば、生きてる魚と間違え食いつくのじゃ」
「おお、それは幟や陣幕だけを残す、偽兵の兵法に通じますな。お、あっちの竹で出来た陣盾はなんでございます?」
次に勘助が眼をつけたのは、並んで揃えられている竹製の陣盾。
「ふむ、あれは言うなれば、多機能連結式竹製陣盾。まぁ長いので通称は、その見た目から月盾と呼ばれておる」
「月盾、にございますか…」
かなり興味を持ったのか、勘助は竹製の陣盾をしげしげ眺めている。そこでその機能を説明してやろうと、義元は月盾の生産を任されている職人にそのひとつを持ってこさせた。
「ほれ、この足の生えておるのが月の名の由来であるが、この足は嵌め込み式での。引き抜いて逆さに付け直すと、杭になっておる」
「おお!」
「それゆえ、この杭を地面に打ち付け、後ろのつっかえ棒を伸ばせば、容易には倒れぬ陣盾となろう」
「なるほど」
「しかしこれだけでは騎馬にでも飛び込んでこられれば、容易に蹴散られてしまう。そこでコレじゃ」
義元が目顔で合図すると、職人も心得て盾の竹筒の上から中に入っていた別の竹、短い竹槍を取り出す。それを月盾の表にある型穴へと嵌め込んでみせ、竹槍付陣盾に進化させた。
それを見て勘助も感嘆の声を上げる。
「おお、これならば騎馬でも飛び込むのは躊躇われますな」
「そうであろう。しかも横に連結できる故、繋げるほどに強度は増す。そのうえ全て竹で出来ておるから、道具さえあれば現地でいくらでも増やせる。勘助、想像してみよ。戦場に突然、容易には崩せぬ壁がポンと生まれるのだ。その壁に敵は動きを制限され、逆にこちらは打てる手が増えよう。如何じゃ?」
するとそれを聞き、勘助は涎を垂らさんばかりに興奮しはじめた。
「お!おおお!この陣盾の壁が急に戦場に現れる!こ、これは!であれば…!む、むほぉおおッ!」
脳内戦場でこの月盾を用いた策が綺麗に嵌ったのか、勘助は白目を剥いて喜んでいる。だが義元はそれに苦笑すると、見咎めて呼び戻した。
「これ、頭のなかで戦うのもその辺にいたせ。それでは見学が先に進まぬぞ?」
「お?おお、これは失礼を。すっかり自分の世界に入り込んでおりました」
「それは見学を終えたあとで存分に致すが良い。他にも役立ちそうな物を色々作っておるからの」
「それは楽しみにございます」
そうして次に勘助が興味を持ったのは、木工職人の工房だった。
「はて、あの職人はおかしな物を作っておりますが、あれは何でございますか?」
勘助の視線の先では、熱で伸ばして平らにした竹の板を、長い木の棒へと渦を巻くよう巻きつけている様子。
「おお、あれはの。弦巻揚水器といって、回転することで水を汲み上げるカラクリを作っておるところだ」
「…?」
ここではその見た目から弦巻揚水器と呼んでいるが、元は古代ギリシャの発明家・アルキメデスが考案した装置。故に本来の名はアルキメディアン・スクリューという。この弦巻構造がグルグル回ると、なんだかそれに釣られて水も昇ってしまうというなんとも不思議な装置である。
「そこに木の持ち手がついた竹があるであろう。その竹を桶の水に浸けてな、石臼のように回してみるがよい」
「はあ、これでいったい何が起きますので…?」
「うむ、やってみればすぐに分かるが、回すのはもう少し早いがよいぞ」
「こ、こうでございますか?」
勘助が下部を水桶に浸けた竹筒の持ち手を早く回すと、脇に突き出た竹筒から水がチョロチョロと零れだした。
「なんと!?」
「それが弦巻揚水器の仕組よ。どうじゃ、面白いであろう」
「…は。しかし、これは少々疲れますな。これならば釣瓶で良いのでは?」
しかしその言葉に義元は含みのある笑みで答えた。
「ふふふ、分かっておらぬのう勘助。これは円運動であることが味噌なのだ」
「と、申されますと?」
「頭の中でこれと水車を組み合わせてみよ。さすれば人の手などなくとも、川の水が流れる限りいくらでも水を汲み上げられよう?」
「ッ!!」
「どうじゃ分かったか?」
「つ、つまりコレがあれば、今まで水利が悪く田畑に出来なかった土地でも耕作できるようになると!?」
「そういうことじゃの」
「か、感服仕りました!」
題して。ヨシモー、アルキメデスの知恵をパクって山本勘助にマウントをとるの図。いやしかし、こんな事を紀元前に思いついたというのだから、アルキメデスは本当に天才であるな。
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