≒今川義元 風雲繁盛記≒

空志戸レミ

文字の大きさ
42 / 82

津島奇襲作戦

しおりを挟む
造船所も本当に造船を行なっている区画に入ると、かなり騒々しくなる。多くの職人と水兵たちが船を建造する為に働いているからだ。そしていま大きく目立っているのは、地面に無数の杭を打ち付けた所へ丸太を据え曲げ加工を行なってる場所。

これは丸太をそのまま船底船体とする為で、丸太をじっくり火で炙りつつ三角板を杭との間に打ち込む。これにより負荷をかけ曲げたい方向に変形させていくのだ。

「ほぉ~、これは…。なんとも大掛かりなモノにございますな…」

何本もの丸太がそうして加工されている姿に、勘助は感嘆の声を漏らしている。

「なにせここでは、今までに無かった日ノ本一の船を作ろうとしておるからの」

それ故に規模も大きく時間もかかる。だが新生・義元の持つ知識と様々な職人たちを一纏めにしたことで技術交流が生まれ、新機軸の造船職人たちも誕生していた。

「兵たちまで働いておるようですが、あれは何故で?」
「うむ、ああした加工には力がいるからの。それに作られている段階から船に関わっていたとなれば、思い入れも一汐。構造にも理解が及ぶし、水兵に造船を手伝わせるのは色々と利が多い」

「なるほど、左様にございますな」

そのまま地面を掘り返して作った場所に降りると、そこにはまだ竜骨と肋材しか組まれていない。しかしそれだけでもその大きさが窺える。

「おお…、これは大きいですな。長さは1町(109.09m)程になりましょうか?」
「そうじゃの。可能な限り大きくとは注文を付けたが、実現可能な大きさとなると、これくらいが良いとの話じゃ」

そしてそのまま水蛇作成組の元まで進んで行くと、勘助はそこで足を止めた。

「これはまた面妖な…。形から察するに、船の忍びにございますか?」

水蛇艇はその船体を魚の革ですっかり包んでいるので、海に浮かぶと視認し辛い。青魚特有の反射で波に紛れるし、夜はなおのこと夜陰に紛れる。それゆえ勘助は水蛇艇を船の忍びと呼んだのだろう。

「うむ、そのような物だ。これはだの―」

そこで勘助に、最近の海事情と水蛇について教えてやる。

「―なるほど、尾張がそのような真似を。それで水蛇艇を用いて報復を考えておいでなのですな。ふむ、それならば某に妙案がございます…」

おお、流石は名軍師。ちょっと説明されただけで、もう策を思いつくとは。

「うむ、では申してみよ」
「さればでござる。斯く斯く然々で、ちょんちょんめけめけというのは如何でございましょう?」

「ほお、それは面白い。採用じゃ。早速行動に移そう」


…。


ある月のない晩のこと。紺染めのほっかむりをした阿武船が伊勢湾の沖に姿を現した。しかし紺染めのほっかむりをしているが故に、遠目には波と夜陰に紛れ陸からその姿を捉えるのは難しい。

その阿武船の背部から、まるで子を産みだすかのように青く小さな船が姿を現した。今川家の秘匿兵器、水蛇艇である。

水蛇艇は音もなく津島の港に近づくと、やがてそれぞれの艇からヒョウヒョウビヨビヨと不気味な音を立てだした。水蛇艇の操縦者が、紐笛を振り回し音を出しているのだ。

笛の音が幾つも重なり、不気味な不協和音となって寝静まった津島の港に届く。すると船の番をしていた者達が驚いて、音の出所を探しはじめた。

そして、海で鎌首をもたげこちらを睨んでいる大蛇の姿を目撃した。

「うひゃあああ!」
「で、でたぁあ!」

しかし番の者達が慌てて人を呼びに行っている間に、大蛇は海霧の向こうに消えてしまう。一体なにごとかと港は一時大騒ぎになったが、原因となった大蛇はもう姿を消しているので追及のしようがない。ともかくもその騒ぎを治め、朝を迎えた。

しかし朝になると大事な商船が浸水し、そのほとんどが使い物にならなくなっていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

マルチバース豊臣家の人々

かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月 後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。 ーーこんなはずちゃうやろ? それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。 果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?  そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

強いられる賭け~脇坂安治軍記~

恩地玖
歴史・時代
浅井家の配下である脇坂家は、永禄11年に勃発した観音寺合戦に、織田・浅井連合軍の一隊として参戦する。この戦を何とか生き延びた安治は、浅井家を見限り、織田方につくことを決めた。そんな折、羽柴秀吉が人を集めているという話を聞きつけ、早速、秀吉の元に向かい、秀吉から温かく迎えられる。 こうして、秀吉の家臣となった安治は、幾多の困難を乗り越えて、ついには淡路三万石の大名にまで出世する。 しかし、秀吉亡き後、石田三成と徳川家康の対立が決定的となった。秀吉からの恩に報い、石田方につくか、秀吉子飼いの武将が従った徳川方につくか、安治は決断を迫られることになる。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...