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津島奇襲作戦
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造船所も本当に造船を行なっている区画に入ると、かなり騒々しくなる。多くの職人と水兵たちが船を建造する為に働いているからだ。そしていま大きく目立っているのは、地面に無数の杭を打ち付けた所へ丸太を据え曲げ加工を行なってる場所。
これは丸太をそのまま船底船体とする為で、丸太をじっくり火で炙りつつ三角板を杭との間に打ち込む。これにより負荷をかけ曲げたい方向に変形させていくのだ。
「ほぉ~、これは…。なんとも大掛かりなモノにございますな…」
何本もの丸太がそうして加工されている姿に、勘助は感嘆の声を漏らしている。
「なにせここでは、今までに無かった日ノ本一の船を作ろうとしておるからの」
それ故に規模も大きく時間もかかる。だが新生・義元の持つ知識と様々な職人たちを一纏めにしたことで技術交流が生まれ、新機軸の造船職人たちも誕生していた。
「兵たちまで働いておるようですが、あれは何故で?」
「うむ、ああした加工には力がいるからの。それに作られている段階から船に関わっていたとなれば、思い入れも一汐。構造にも理解が及ぶし、水兵に造船を手伝わせるのは色々と利が多い」
「なるほど、左様にございますな」
そのまま地面を掘り返して作った場所に降りると、そこにはまだ竜骨と肋材しか組まれていない。しかしそれだけでもその大きさが窺える。
「おお…、これは大きいですな。長さは1町(109.09m)程になりましょうか?」
「そうじゃの。可能な限り大きくとは注文を付けたが、実現可能な大きさとなると、これくらいが良いとの話じゃ」
そしてそのまま水蛇作成組の元まで進んで行くと、勘助はそこで足を止めた。
「これはまた面妖な…。形から察するに、船の忍びにございますか?」
水蛇艇はその船体を魚の革ですっかり包んでいるので、海に浮かぶと視認し辛い。青魚特有の反射で波に紛れるし、夜はなおのこと夜陰に紛れる。それゆえ勘助は水蛇艇を船の忍びと呼んだのだろう。
「うむ、そのような物だ。これはだの―」
そこで勘助に、最近の海事情と水蛇について教えてやる。
「―なるほど、尾張がそのような真似を。それで水蛇艇を用いて報復を考えておいでなのですな。ふむ、それならば某に妙案がございます…」
おお、流石は名軍師。ちょっと説明されただけで、もう策を思いつくとは。
「うむ、では申してみよ」
「さればでござる。斯く斯く然々で、ちょんちょんめけめけというのは如何でございましょう?」
「ほお、それは面白い。採用じゃ。早速行動に移そう」
…。
ある月のない晩のこと。紺染めのほっかむりをした阿武船が伊勢湾の沖に姿を現した。しかし紺染めのほっかむりをしているが故に、遠目には波と夜陰に紛れ陸からその姿を捉えるのは難しい。
その阿武船の背部から、まるで子を産みだすかのように青く小さな船が姿を現した。今川家の秘匿兵器、水蛇艇である。
水蛇艇は音もなく津島の港に近づくと、やがてそれぞれの艇からヒョウヒョウビヨビヨと不気味な音を立てだした。水蛇艇の操縦者が、紐笛を振り回し音を出しているのだ。
笛の音が幾つも重なり、不気味な不協和音となって寝静まった津島の港に届く。すると船の番をしていた者達が驚いて、音の出所を探しはじめた。
そして、海で鎌首をもたげこちらを睨んでいる大蛇の姿を目撃した。
「うひゃあああ!」
「で、でたぁあ!」
しかし番の者達が慌てて人を呼びに行っている間に、大蛇は海霧の向こうに消えてしまう。一体なにごとかと港は一時大騒ぎになったが、原因となった大蛇はもう姿を消しているので追及のしようがない。ともかくもその騒ぎを治め、朝を迎えた。
しかし朝になると大事な商船が浸水し、そのほとんどが使い物にならなくなっていたのだった。
これは丸太をそのまま船底船体とする為で、丸太をじっくり火で炙りつつ三角板を杭との間に打ち込む。これにより負荷をかけ曲げたい方向に変形させていくのだ。
「ほぉ~、これは…。なんとも大掛かりなモノにございますな…」
何本もの丸太がそうして加工されている姿に、勘助は感嘆の声を漏らしている。
「なにせここでは、今までに無かった日ノ本一の船を作ろうとしておるからの」
それ故に規模も大きく時間もかかる。だが新生・義元の持つ知識と様々な職人たちを一纏めにしたことで技術交流が生まれ、新機軸の造船職人たちも誕生していた。
「兵たちまで働いておるようですが、あれは何故で?」
「うむ、ああした加工には力がいるからの。それに作られている段階から船に関わっていたとなれば、思い入れも一汐。構造にも理解が及ぶし、水兵に造船を手伝わせるのは色々と利が多い」
「なるほど、左様にございますな」
そのまま地面を掘り返して作った場所に降りると、そこにはまだ竜骨と肋材しか組まれていない。しかしそれだけでもその大きさが窺える。
「おお…、これは大きいですな。長さは1町(109.09m)程になりましょうか?」
「そうじゃの。可能な限り大きくとは注文を付けたが、実現可能な大きさとなると、これくらいが良いとの話じゃ」
そしてそのまま水蛇作成組の元まで進んで行くと、勘助はそこで足を止めた。
「これはまた面妖な…。形から察するに、船の忍びにございますか?」
水蛇艇はその船体を魚の革ですっかり包んでいるので、海に浮かぶと視認し辛い。青魚特有の反射で波に紛れるし、夜はなおのこと夜陰に紛れる。それゆえ勘助は水蛇艇を船の忍びと呼んだのだろう。
「うむ、そのような物だ。これはだの―」
そこで勘助に、最近の海事情と水蛇について教えてやる。
「―なるほど、尾張がそのような真似を。それで水蛇艇を用いて報復を考えておいでなのですな。ふむ、それならば某に妙案がございます…」
おお、流石は名軍師。ちょっと説明されただけで、もう策を思いつくとは。
「うむ、では申してみよ」
「さればでござる。斯く斯く然々で、ちょんちょんめけめけというのは如何でございましょう?」
「ほお、それは面白い。採用じゃ。早速行動に移そう」
…。
ある月のない晩のこと。紺染めのほっかむりをした阿武船が伊勢湾の沖に姿を現した。しかし紺染めのほっかむりをしているが故に、遠目には波と夜陰に紛れ陸からその姿を捉えるのは難しい。
その阿武船の背部から、まるで子を産みだすかのように青く小さな船が姿を現した。今川家の秘匿兵器、水蛇艇である。
水蛇艇は音もなく津島の港に近づくと、やがてそれぞれの艇からヒョウヒョウビヨビヨと不気味な音を立てだした。水蛇艇の操縦者が、紐笛を振り回し音を出しているのだ。
笛の音が幾つも重なり、不気味な不協和音となって寝静まった津島の港に届く。すると船の番をしていた者達が驚いて、音の出所を探しはじめた。
そして、海で鎌首をもたげこちらを睨んでいる大蛇の姿を目撃した。
「うひゃあああ!」
「で、でたぁあ!」
しかし番の者達が慌てて人を呼びに行っている間に、大蛇は海霧の向こうに消えてしまう。一体なにごとかと港は一時大騒ぎになったが、原因となった大蛇はもう姿を消しているので追及のしようがない。ともかくもその騒ぎを治め、朝を迎えた。
しかし朝になると大事な商船が浸水し、そのほとんどが使い物にならなくなっていたのだった。
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