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強兵指南
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梅雨の長雨で面会希望者の数も減っている。すると、これはよい機会だと母に呼ばれた。
「そなたは民に慕われておるが、もっと風雅と貫禄を身につけねば…」
そう言って眉を剃られた挙句、公家メイクされた。
「おうおう、見よ。男ぶりが上がったであろう、のう甲斐の方よ」
「ほほほ、ほんに。我らが殿は海道一の美男にございます」
姑に合わせられる嫁が優秀なのか本音なのかよく分からない。磨かれた金属鏡に映る姿はどう見てもアレなのだが、母はそれでご満悦の様子。ともあれこれも親孝行と諦め、そのままでいることにした。
奥へ通じる渡り廊下の途中でふと足を止め、雨雲に覆われた空を見上げる。
しかしこうして雨が降っているのを見ると、心がざわつく。そう、雨はあの未来に起こりうる桶狭間デスティニーを想起させるのだ。
(その未来だけは、なんとしても回避せねば…)
そこで出来た時間を駆使し、義元は常備兵の再編成を行なった。個別に面談し自身の長所や短所を聞きだすと、その体格や性格から班の組み替えを行なったのだ。
それにより大柄な者は重装歩兵とすべく、高い頻度の栄養補給と筋トレにより仁王像の如き肉体へと改造を開始。小柄ですばしっこい者は軽装連絡兵として、ランニングや馬術の稽古を訓練に組み込んでいく。
普通の体格の者たちもその背丈に合わせ班組。並んだ時にぴっちり綺麗に見えるよう、背丈を揃えた。これにより槍を構えて槍衾を作る時などに、敵から見て付け入る隙がないように思わせられるのだ。
事実、これは古参の兵にどちらに突っ込むのが嫌かと訊いたところ、すべからく背丈の揃っている方は嫌だと答えた。そこまで徹底しているなら、訓練の方も相当されているに違いないと見えるらしい。
「雨だからと気を緩めず、しっかり体を鍛えるのだぞ」
「「「ハッ!」」」
で、ここは久能山城。
久能山城は花倉の乱の後、義元が領有管理している。駿河湾に面した標高300メートルほどの有度山。この200メートルくらいの位置に建てられた山城であるが、駿府の町に近く常備兵たちを詰めておくのに都合がいい。
そこで梅雨の間はこの久能山城で常備兵たちを徹底トレーニング。幾ら汗をかいても外に出れば、即天然シャワー浴び放題なのでとても効率的である。そして未来知識もフルに活用し、無理と無駄のない筋肥大を促進させる。
「それ、少しでも筋肉が痛いと思うたらの、他の部分を鍛えよ。そして身体を鍛えている間にも、大豆をふかした饅頭がここにある。これを食べて精をつけよ」
すると効果の早い者はすぐにも身体が大きくなりだしたので、その噂を聞きつけた武将たちも筋肥大トレーニングに参加するようになった。
「親綱に元信、そなたら雨のなか親子で参ったのか?」
「うははは!なにやら太守様直伝の鍛えをすると、金剛力を授かれると聞きましてな。この親綱、居ても経っても居られず馳せ参じましたわ!」
「そうか、では親綱には儂直々に指導せねば申し訳が立たぬの。花倉の乱で世話になった労に報いよう」
こうして岡部親子と共に汗を流していると、周囲の者達がギョッとして義元の顔に驚いた。
「た、太守様!お顔がッ!?」
「む…?おわ!これは、化粧が落ちたか。どうやらこの化粧をした時に汗をかくと、大変な事になるの」
義元が急ぎ化粧を落とすと、周囲の者達もホッと胸を撫で下ろした。
「ああ、よかった。太守様が熱さで溶けてしもうたのかと胆をつぶしましたわ」
「そう言うな元信。この化粧をしておると母の機嫌がいいでな。これも親孝行よ」
「聞いたか元信。太守様のなんという懐の深さよ。おまえも太守様を見倣うて、儂にもっと親孝行をするがよい」
「ははは。では親父殿を早々に倒して、子の成長をみせることと致しまする」
「言うたな小童めが。儂に勝とうなど十年早いわ!」
岡部親子のじゃれ合いに、身体を鍛えていた兵たちからドッと笑いが起こる。外では梅雨の雨がほぞ降っているが、ここ久能山城の城内は男達の熱気と笑いで咽かえりそうな程。これがきっと、明日への大きな力となろう。
「そなたは民に慕われておるが、もっと風雅と貫禄を身につけねば…」
そう言って眉を剃られた挙句、公家メイクされた。
「おうおう、見よ。男ぶりが上がったであろう、のう甲斐の方よ」
「ほほほ、ほんに。我らが殿は海道一の美男にございます」
姑に合わせられる嫁が優秀なのか本音なのかよく分からない。磨かれた金属鏡に映る姿はどう見てもアレなのだが、母はそれでご満悦の様子。ともあれこれも親孝行と諦め、そのままでいることにした。
奥へ通じる渡り廊下の途中でふと足を止め、雨雲に覆われた空を見上げる。
しかしこうして雨が降っているのを見ると、心がざわつく。そう、雨はあの未来に起こりうる桶狭間デスティニーを想起させるのだ。
(その未来だけは、なんとしても回避せねば…)
そこで出来た時間を駆使し、義元は常備兵の再編成を行なった。個別に面談し自身の長所や短所を聞きだすと、その体格や性格から班の組み替えを行なったのだ。
それにより大柄な者は重装歩兵とすべく、高い頻度の栄養補給と筋トレにより仁王像の如き肉体へと改造を開始。小柄ですばしっこい者は軽装連絡兵として、ランニングや馬術の稽古を訓練に組み込んでいく。
普通の体格の者たちもその背丈に合わせ班組。並んだ時にぴっちり綺麗に見えるよう、背丈を揃えた。これにより槍を構えて槍衾を作る時などに、敵から見て付け入る隙がないように思わせられるのだ。
事実、これは古参の兵にどちらに突っ込むのが嫌かと訊いたところ、すべからく背丈の揃っている方は嫌だと答えた。そこまで徹底しているなら、訓練の方も相当されているに違いないと見えるらしい。
「雨だからと気を緩めず、しっかり体を鍛えるのだぞ」
「「「ハッ!」」」
で、ここは久能山城。
久能山城は花倉の乱の後、義元が領有管理している。駿河湾に面した標高300メートルほどの有度山。この200メートルくらいの位置に建てられた山城であるが、駿府の町に近く常備兵たちを詰めておくのに都合がいい。
そこで梅雨の間はこの久能山城で常備兵たちを徹底トレーニング。幾ら汗をかいても外に出れば、即天然シャワー浴び放題なのでとても効率的である。そして未来知識もフルに活用し、無理と無駄のない筋肥大を促進させる。
「それ、少しでも筋肉が痛いと思うたらの、他の部分を鍛えよ。そして身体を鍛えている間にも、大豆をふかした饅頭がここにある。これを食べて精をつけよ」
すると効果の早い者はすぐにも身体が大きくなりだしたので、その噂を聞きつけた武将たちも筋肥大トレーニングに参加するようになった。
「親綱に元信、そなたら雨のなか親子で参ったのか?」
「うははは!なにやら太守様直伝の鍛えをすると、金剛力を授かれると聞きましてな。この親綱、居ても経っても居られず馳せ参じましたわ!」
「そうか、では親綱には儂直々に指導せねば申し訳が立たぬの。花倉の乱で世話になった労に報いよう」
こうして岡部親子と共に汗を流していると、周囲の者達がギョッとして義元の顔に驚いた。
「た、太守様!お顔がッ!?」
「む…?おわ!これは、化粧が落ちたか。どうやらこの化粧をした時に汗をかくと、大変な事になるの」
義元が急ぎ化粧を落とすと、周囲の者達もホッと胸を撫で下ろした。
「ああ、よかった。太守様が熱さで溶けてしもうたのかと胆をつぶしましたわ」
「そう言うな元信。この化粧をしておると母の機嫌がいいでな。これも親孝行よ」
「聞いたか元信。太守様のなんという懐の深さよ。おまえも太守様を見倣うて、儂にもっと親孝行をするがよい」
「ははは。では親父殿を早々に倒して、子の成長をみせることと致しまする」
「言うたな小童めが。儂に勝とうなど十年早いわ!」
岡部親子のじゃれ合いに、身体を鍛えていた兵たちからドッと笑いが起こる。外では梅雨の雨がほぞ降っているが、ここ久能山城の城内は男達の熱気と笑いで咽かえりそうな程。これがきっと、明日への大きな力となろう。
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