≒今川義元 風雲繁盛記≒

空志戸レミ

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隣国事情

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夏は戰の季節。そんな訳で近隣でも戰がはじまった。

武田は信濃へ侵攻し、北条は武蔵に向け兵を出す。この時代、少しでも余力があれば戰を始めるし、余力が無くても飢えから戰を始める。隣から奪う為の略奪戦争だ。

あとは内外に、うちは戰をするくらい勢い有るんだぞと示す意味合いもある。

で、そんな親類隣国に対し、今川家としては体外的な意思表示は避けつつも季節の贈り物にそれとなく気の利いた品を織り交ぜることで対応している。

その品とは打ち鮑に栗に昆布、そして芋茎。

一に打ち鮑、二に勝ち栗、三に昆布。この三種で、打ち勝ち喜ぶといった戦勝祈願になるからだ。贈り物でこれらを贈るというのは、勝利を願ってますよといった応援の意味合いになる。

芋茎は味噌を擦り込んで縄にすれば、戦闘糧食となる為。

兵たちはコレを腰などに縛りつけ、休憩時には鉄笠で煮て芋茎の味噌汁にする。芋茎を素の状態で贈るのは、そうした準備に労力を割いてくれれば多少は戰の日数が減ってくれるかもといった算段から。

今川家的には親類隣国に戰で負けてもらっては困るが、勝って強大になられても困る。強大化したら何時その牙がこちらに向くかを、より警戒せねばならないからだ。戦国時代は一時も気が抜けないのである。

そうした理由から、兵糧となる米は贈らない。

贈ったら戰が長引くし、その分だけ戦禍が拡大してしまう。求められれば売るには売るが、それとなく戦時価格に値はつり上げておく。今川義元は商売上手なのである。

尾張は今のところ大人しい。やはり経済的な損害が効いているのだろう。相変わらず調略的な動きはしているのだろうが、表だった行動は見られない。

西三河は変わらずの内紛状態。織田の息のかかった者達が松平家の乗っ取りを仕掛けているが、吉良の支援を受けた者達がそれに抵抗している。

これに今川家としては、なにも介入していない。

いま今川家の力で松平竹千代(広忠ver)を岡崎に戻しても、結局安定せず主従に軋轢を生むのは目に見えているから。ならば手元に置いて竹千代自身に力をつけさせ、しかるべき時に戻してやるのが最善。今は機をみる時であろう。


そして、今川家としては戰をしなくて良いのかという疑問に関しては、しなくても大丈夫だししない方が良いまである。

なぜなら義元は、初めから跡取りとして育てられた訳ではないから。そんなのが急に当主となったのに、『よっしゃ、これからはドンドン戰をやっていく。ガンガンいこうぜ!』などと言い出す方が家臣達は不安を覚えてしまう。大人しくしてくれていた方が安心なのである。

そんな訳で義元の意見と家臣達の意見も、ばっちりマッチ。

急に当主が亡くなってしまった後ですぐ跡目争いが起きた。そうした明らかな政情不安を巻き起こした後なので、今川家では政情の安定がみんなの願いなのだ。

それ故、義元が常備兵を動員しつつあちこち出かけ領地開発を行なっているくらいで、丁度いいといえる。訓練になるし、戰となれば即座に対応できる兵が居るというのは、人心の慰撫にも繋がる。


そう思案しつつも高台から見下ろす川辺では、今日も常備兵たちが元気に働いている。

「太守様。渦巻き揚水水車の設置が完了いたしました」
「うむ、早いの。見事な手際であった。これで来年には、この辺りにも麦や蕎麦などが育てられるであろう」

水利の悪い土地に渦巻き揚水水車で水を上げ、耕作に使える土地と変える。この開墾によって、今川家では戰をせずとも石高が上がっていく。

「来年が楽しみにございますなぁ」
「ほほほ、まだまだ未開の土地は有り余っておるからの。しかと頼むぞ」

「ハ、心得まして」

主従の見下ろす先では雑草しか生えていなかった荒れた土地に、陽光に照らされた水が銀の筋となって流れ始めていた。
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