断罪

宮下里緒

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三十三話 夢と狂気

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「あー遅いな。太志さん」

公園のベンチに座りコーヒーを飲みながら法事は落ち着き無くつぶやく、視線はさっきから右に行ったり左に行ったりと大忙しだ。

「おい、法事。お前さっきからマジうぜーって!少しは落ち着けよ。男ならもっとクールにいこうぜ」

「すんません。けど、そういう奈佐さんだってさっきから貧乏ゆすりが半端じゃないんですけど。何ですか、地震でも起こそうとしてるんですか?」

「うっうせー。さみーんだよ今日は!ほら、風強ぇーし!」

「そう言う割には額に汗かいてますけど」

「うっせーうっせ!」

「もーやめないか、二人共。公共の場であまり騒ぐもんじゃないよ」

子供のような喧嘩を始める二人を嗜める明志だがそんな彼にも表情に余裕がない。

「ボスのことが心配なのはわかるけど俺たちが騒いだって仕方がないし、大人しくすることだね」

「でもさぁ、太志さんが会いに行ってるのって荒見組と関係のあるやつなんでしょ。心配するなって方が無理ですよ。なんか、帰りも遅いみたいだし・・・もしかして何かあったのかも」

ばっと立ち上がり今にも大志を追いかけに行きそうになる法事を奈佐が腕をつかみ止める。

「バカ!俺らはここで待機!太志さんの命令忘れたんか?オメーは過保護すぎだっーの!オメーなんかに心配されなくても太志さんは心配いらねーよ。あの人の強さ忘れたわけじゃないだろう。あの人の前に立つ者はたとえそれがヤクザだろうと関係ねぇーよ、全殺しだ。それだけの力があの人にはある。オメーの出る幕じゃねぇーよ」

「まぁ、そういうことだ」

「太志さん!」

まるで、おやつを前にした子供のような明るさで呼びかける法事に太志の顔はとたんにどんよりしたものへと変わる。

「がなるな法事。お前の声は子犬みたいにキャンキャンとうるさい。明志の言うように静かにすることだ」

「すみません太志さん」

「ったく。まじおせーっすよ太志さん」

「お勤めご苦労様ですボス」

王の帰還に三者三様の挨拶をする部下たちの顔からは先ほどまでの不安は消え去り代わりに安堵の気持ちが溢れかえっていた。

それはおそらく半年前なら誰もが目を疑う光景だろ、そうたった半年で大志は彼らから絶対的なまでの信頼を勝ち取ってしまっていたのだった。

それも大志の力のなせる技なのか、だとしたら大志の力はもはや子供が持つべきレベルではない域にまで達している。

それが異常だということは多分誰も気づいていないのだろう、当の本人でさえ、だから彼らは止まらない、大志に導かれるままどんどんと力に溺れていくのだった。



「それで、ボス。話というのはケリがついたのですか?」

安堵の表情から一転し、明志が神妙な面持ちで訪ねてくる。

それと対をなすように大使はやけに軽い態度で応対してきた。

「ああ、推測通りあの薬をばら撒いていたのは荒見組の連中らしい。実際に現場を見たわけじゃないが荒見組と関わっているやつから聞き出した証言だ、嘘ということはないだろう。これで荒見組、もしくはその構成員がこの事件の黒幕だと判明したわけだ。結構あっさり真相にたどり着けたな」

「けどそんなの世間的には公表されていないだけで噂としては結構広まってましたよ。なんで今更危険を冒してまで売人に会ってきたんですか?」

「噂はあくまで噂だからな、俺は自分で見聞きしたこと以外は信じないことにしている。もともとそんな薬があること自体が噂の域を出ていなかったからな、それなら自分で動いたほうが早いと思っただけだ」

「そういった実力行使は俺に任せてくださいよ。薬なんてもんにうつつを抜かすやつなんて俺のミラクルパンチで一発っすよ」

握ろ拳を前に突き出しながらはしゃぐ奈佐を大志はうるさいとばかりにはしゃぐ。

「お前じゃ、あれの相手は無理だ」

あの、まるで自らの欲望で世界をうずめてしまったかのような黒く濁った吐き気のする目、あんなものと対峙できるのは同じくらい外れた人間じゃなきゃ無理だと大志は思う。

「そうですよ。太志さんより弱いのに奈佐さんじゃ足でまといですって」

「んだと!法事!!テメー!!!!」

再び喧嘩のようなじゃれあいをはじめる法事たちを尻目に大志と明志はこれからの話を続ける。

「それでどうするのですか?この町をゴミダメにしようとしているのが荒見組というのはわかりましたが、さっそく潰しにかかるのですか。今の俺たちの戦力なら不可能ではないと思いますが危険ですよ」

「そうだな。問題は荒見組だけというわけでもないし力は温存するべきか」

「ということは?」

「様子見だな今のところは。薬の方は地味に売人たちを狩るしかないか」

「そうです・・・ね」

自分で危険だと言っておきながらだが太志にしてはやけに慎重な素振りに明志は少しの不安を覚える、やはりいかに太志といえどヤクザを相手にするのは無理があるのではないかと。

そんな明志の思いに気づいたのか太志は彼を横目で見ながら尋ねる。

「なぁ、明志。お前はどれだけ戦力が集まれば荒見組を完全勝利のうちに潰せると思う?」

「そうですね・・・今の倍いや、三倍ほどの力があればいくらヤクザといえどひとたまりもないかと思いますが」

「そうか。二年だな」

つぶやくような大志の言葉、それを耳にしたとき明志の心は震えた。

「に、二年というのは」

「明志。俺は二年でそれだけの力をつけることをお前たちに約束しよう。二年後荒見組を潰す。この町にヤクザなんて不必要だ。薬なんて、自分たちの根城を腐らせるような力に一体何の意味がる?腐った部分は切り捨てるべきだ」

まるで明日のスケジュールを確認しているかのような軽さ、だがそれゆえに明志は確信するこの人は本当にそれを成し遂げると、そしてそれ以上のことをこの人はやり遂げる。

「戦争でもする気ですか?」

「戦争?馬鹿か。戦争になんてならない。やるのはただの蹂躙だ。言っただろ、この町を支配するのはこの俺だと。そう、全て正しく支配するさ」

その王の宣言に明志はただただ歓喜するのであった。





バッキリという壮大な音、その音に呼ばれるかのように桐村修は重い体をベッドから起き上がらせた。

ベッド横のガラスには木の枝が張り付いてまるでイソギンチャクのように見えた。

どうやら先ほどの音の正体はこの枝らしい。

窓の外は巨大な扇風機でも回っているのかと思わせるほどの強風、どうやら台風はもう上陸しているようだった。

ゴォーと轟く風音、それが鳴るたびにまるで自分の脳まで揺さぶられるかのような頭痛が襲ってきた。

それもそのはず昨日、百合の件のショックが大きすぎた修は一晩中布団の中で激しい公開に見舞われながら一睡もできず夜を明かしてしまったのだった。

「からだ、だるい」

そう呟くと修は再びベッドへと倒れこむ。

目の前に見える真っ白な天井は曇り空のせいでなんだか薄汚れて見えた。

部屋の空気は重く、寝ているのになんだかとても息苦しく修は再びベッドから起き上がる。

「百合・・・」

その名前を呟くたびに胸がまるで万力で締めつかられるように痛み昨日の馬鹿な行動をした自分を殺したくなる。

あの時の今まで感じたことがないほどの百合の冷たい態度、今まで百合が向けたことのない自分に対する拒絶。

このままじゃ百合に見捨てられる、それは嫌だ、そんなのこの世が滅びるより絶望だ。

「嫌だ、嫌わないで。俺を嫌わないでよ。百合、ユリ、ゆりー!・・・謝らなきゃ、今すぐ謝って、許してもらわなきゃ。だって百合は俺のそばにいないとダメなんだから」

顔を覆いながらそう呟くと修はフラフラとまるで夢遊病者のような足取りで嵐の中へと出ていくのであった。





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