時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは

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32.テクルスの乙女

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アレックスさんはターンを繰り返し会場入口近くに移動したっところで曲が終わった。礼もそこそこにアレックスさんが手を引き扉に向かう。後ろから声をかけられた気がしだが今は聞こえないフリで急ぐ。会場出て直ぐにミハイルさんがいていきなり抱っこされた。

「下ろして自分で」
「春香嬢急ぐから我慢してくれ」

ミハイルさんとアレックスさんは早足でローランド殿下の控室に向かう。
控室に入ると殿下と宰相様がいた。ミハイルさんはソファーに下ろしてくれ、横に殿下が座り手を握って来る。

宰相のモーリス様から舞踏会が終わるまではこの控室から出ないように指示がでた。訳が分からず殿下に聞いたら、ちゃんとした情報が掴めるまでの間念のため処置だから心配ないって…
ってめっちゃ物々しいですけど…さっきまで正装だった男性陣は帯剣し雰囲気も怖い。
少しするとレイモンド様とアビー様も来たけど、これまた帯剣している。アビー様はドレスからスラックスにブラウスだ。何が始まるのだろうか…

従僕さんが軽食を控室に用意してくれ、皆さんと軽く食べる。時間は10時半になり舞踏会が終わるようだ。誰も何も言ってくれず只々待つばかり。

控室にジョシュさんが入ってきた。

「何事も無く終わりましたよ。皆さん陛下の執務室へ移動ください」

控室に居た皆さん安堵の表情を浮かべ移動する。
ミハイルさんと殿下に挟まれ物々しい。2人ともあまり顔色が良く無い。

陛下の執務室に着いたら侍女さんか着替えを用意して下さっていて、隣の部屋を借り楽なワンピースに着替える事が出来た。良かった…少し窮屈でしんどかったんだ…
皆んながそろいレイモンド様が話し出す。

「春香とのダンスが終わった時にバーミリオン侯爵が“ヴェルディアの王”の名を出した。そしてテクルスが異世界から乙女を召喚した事を知ったと」

でた“ヴェルディアの王”。このフレーズだけで皆んなは状況が分かるみたいだ。たが私は全く分からない。説明プリーズ!
私の表情を察したアレックスさんが陛下に私へ説明が必要な事を進言してくれ、モーリス様が説明くださる。

“ヴェルディア王国”はゴラスと海峡を挟んだ北に位置する軍事国。国土の半分は雪と氷に覆われ資源の乏しい国で、他国からの輸入に頼っている。
気性が荒く昔は資源を得る為に武力で他国に攻め行っていた歴史がある。
昔 資源豊富なゴラスの港に攻め行った時に嵐が起こりヴェルディアの軍艦の大半が沈没し、多くのヴェルディア戦士が荒れた海に投げ出された。この時指揮をしていた王太子ロナルドも同様に。
王太子は死を覚悟した時神テクルスの啓示が下る。

『人は知識ある生き物。本能のまま奪い取るのでは無く、知識と言葉を使い交渉し得よ。約束出来るのであれば助けようと』

王太子が神テクルスに誓うと嵐は止んだ。当時のゴラスの女王は神テクルスの啓示を受けて、ヴェルディア人の救助を始め多くの戦士を救い保護した。

数日後、ヴェルディア王がゴラスを訪れた感謝を述べ、またこれ迄の謝罪をし友好を築きたいと持ちかけた。それ以降ゴラスとヴェルディアは友好関係が続いている。

それまで信仰を持たなかったヴェルディアは神テクルスを熱心に信仰するようになる。信仰心の厚いヴェルディア王家は代々ゴラスから王太子の妃を迎えてきた。

「ヴェルディアがテクルスの熱狂的な信者なのは分かりましたが、何故関係ないレイシャルが警戒しないといけないのですか?」

私の質問に殿下が溜息を吐きミハイルさんを見ている。

「今、ヴェルディアのジャン王太子は適齢期で妃を選ばれている。代々ゴラスの王家から選ばれジャン王太子はゴラス第1王女のアンリ王女に求婚中だ。しかしアンリ王女は他の殿方にご執心で断り続けている。今のゴラス王家には未婚王女はハンナ第2王女がいらっしゃるが、ハンナ王女は次期女王が決まっていてヴェディアには嫁げない。この問題は数年前から出ていて解決していないのだ」

「ならばゴラスの貴族女性でいいんじゃないの?」
「さっきも話した通りヴェルディア王は神テクルスに強い信仰心をもっている。神テクルスが造った国の王家はテクルス最も近いと考え、故に貴族では駄目なのだ」
「今の話を聞いてもレイシャルが関係してくるのが分からないんですが…」
「ゴラス王家から妃が望めない時に、テクルスが召喚した乙女が現れたとしたら…」
「あっ…もしかして私が標的ターゲット⁉︎」
「ご明答!」

だから急に物々しくなったんだ。って事はバーミリオン侯爵が私の情報をヴェルディア王に知らせるって事⁈

「バーミリオン侯爵様がヴェルディア王に私の事を知らせたって事⁈」
「春香それは違うよ」
「侯爵は恐らく今日の舞踏会にヴェルディアの密偵が居て、春香の事を知り得たと知らせたんだ。油断ならない奴だが愛国心はある様だ」
「他国の舞踏会に密偵でつきものなんですか?」
「いや…恐らくミハイルの監視だ」
「?」

ミハイルさん表情が曇る。そうアンリ王女の想い人はミハイルさんだった。

「あんな見てくれだけで頭の足りない女が公爵家ウチの嫁になんてあり得ない!ミハイルが気に入っても絶対反対よ!」

とアビー様が吠えて横でレイモンド様が頷く。

「俺は加護の影響で女性に関心が無く、アンリ王女の求婚を断ってきた。それに過去の慣例からしてヴェルディアの王太子が求婚して来るのが分かっていたしな。下手にアンリ王女に答えるとレイシャルとヴェルディアの問題に発展する恐れがある。それに・・・だから」
「えっ?ミハイルさん最後が聞こえなかった?」

アビー様は私の手を取り首を振り

「春香ちゃんは知らない方がいい」

と呟いた。ミハイルさんの表情は険しくスルーする事にした。


「モーリス首尾は⁈」
「港を閉鎖し船が停泊出来そうな岬に騎士を配置しました」
「数日は警戒する様に。春香嬢すまぬが暫く公爵邸にも町屋敷にも帰してやれぬ。暫くはコールマン侯爵家邸宅で過ごして欲しい」
「コールマン侯爵家?」
「俺の領地だ」

振り返るとアレックスさんが私を見ている。

「アレックスさんのご実家ですか?」
「そうだ。王城より安全だ」

アレックスさんの説明によるとコールマン侯爵家屋敷の周りはお堀があり侵入が困難。
それにコールマン侯爵家は猟獣を飼育と訓練をし守りは鉄壁。グリフという狼と鷲を両方の資質を持った猟獣がいて、コールマン侯爵家以外の者に一切懐かない。

「余所者の私は無理じゃないですか!」
「大丈夫。私の匂いが付いていれば襲わない」

ミハイルさんと殿下が一斉に立上がり怒りを露わにし

「アレックス!春香に匂いを付けるなんてどうする気だ!」
「やっ疚しい事をするつもりありません!私のタイなど持ち身に付けて頂ければ大丈夫です」

グリフの嗅覚は優れていて微かな匂いの差も分かるらしい。従来侯爵家の使用人もグリフが匂いを覚えるまで、領主一家の身の回りの物を身につけるらしい。匂いを付けるなんて言うからびっくりした。タイをお借りするくらいは大した事では無い。

「春香ちゃんの荷物は町屋敷で準備させ侯爵家に送ってあるわ。身一つで大丈夫だからね」
「あっありがとうございます」

皆さんの迅速さに驚きつつ、また移動になる事を思うと落ち着かない。

殿下が手を握り覗き込んで

「春香に負担ばかりかけて申し訳ない。私も一緒に行ければいいが立場的に無理でね。とりあえず10日程の事だから我慢して欲しい」
「はい。皆さんにご迷惑おかけします」

陛下が私の目の前に膝をつき手を取り

「春香嬢はレイシャルにとって大切な人だ。国をあげて守ろう」
「ありがとうございます」

こうしてコールマン侯爵家にお世話になる。そして今晩は城に泊まり明日朝一にコールマン侯爵家領地に向かう事になった。
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