ヤンデレだらけの短編集

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花言葉

ホオズキ

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「自分の存在にお前が必要だ」と言われて、それを認めたとしたら、どんな関係になるのだろう。

 台詞だけを聞いたら、たいへんな告白に聞こえるかもしれない。
年頃の男女であれば、恋人にでもなるのだろうか。
では、どちらも男だったら、その関係にどんな名前をつけるのだろう。

「俺たちの関係って、何なんですかね」

 聞いた。
 
 告白のような言葉を受け入れて、4ヶ月が経った。


 内心では、愛さんはホモなのか、身体を求められたりするのかと身構えていたが、愛さんからそのような様子は全く感じられない。
愛さんが恋愛的な意味で自分のことを好きかもしれない、なんて自意識過剰に過ぎなかったのだろう。


 「何故、今になってそんなことを聞くのか」と言われて、話さなければならない、と思った。

 きっと、大丈夫だ。
 だって、愛さんは俺のことを好きとも言っていないし、恋人らしい素振りを見せたこともない。
 一つだけ、気にかかるのは、愛さんに告白のようなものをされた日のことが「記念日」と呼ばれていて、それなりに高価な物を贈られることだ。
だが、それもよく面倒を見てくれる先輩という範囲に収まらないこともないだろう。

 兎に角、愛さんは俺のことをそういう目で見てはいないのだと、それを確認したい。

 「彼女が出来そうなんです」

 そう言って、恐る恐る愛さんを伺う。
愛さんは、ソファに足を組んで座っていて、読んでいる本から顔を上げようともしない。
興味なしといったところだろうか。
よかった、と俺は胸を撫で下ろした。
やはり、杞憂だったのだ。


 「どんな女だ」と尋ねるその声は淡々としていて、俺の自慢話に仕方無く付き合っているような調子だった。

 悩みの種がなくなった俺は、明るく喋りだした。

「俺、愛さんが俺のこと好きなんじゃないかって心配してましたあ、よかったです、勘違いで。」

どんな女かあ、芸能人で言ったら・・・つらつらと特徴を述べる。
愛さんはやはり本から顔を上げない。
ここまで興味を持たないなら、本当に安心である。(主に俺の尻が)

 俺は上機嫌に、愛さんの隣に座った。
ぽふり、とソファが俺の重さ分沈む。

「愛さん、ちゃんと聞いてますかあ、俺に彼女が出来そうで羨ましいんですかあ~」

 愛さんの肩に顎をのせて、がくがくと口を開閉させると、愛さんは鬱陶しそうに溜め息を吐いた。
ぱたりと本を閉じ、テーブルに置く。
それから俺のおでこを押して肩からどかした。
強い力ではなかったが、額から愛さんの掌が退く気配はない。

不思議に思っている間にも、ゆっくりと一定の力で押され続けるので、俺は背中をのけ反らせた。


 「愛さん、ちょ、ストップストッ・・・」

このままでは倒される、ということを理解した俺は、愛さんの胸ぐらを掴みバランスをとった。
が、そのまま愛さんも一緒に倒れてくる。
背中に柔らかいソファの感触がする。
顔の横には愛さんの手が置いてある。
愛さんは俺のお腹の辺りにのしかかっているが、重さをそこまで感じないので加減してくれているのだろう。

「愛さん」

やめてくださいよ、じゃれあいの延長だと思った俺は、軽い調子でその名前を呼んだ。

「俺がお前のことを好きじゃなくてよかった?勘違いだった?・・・ふざけるな」

 愛さんは、地を這うような低い声でそう言った。
無表情ではあったが、その目は冷ややかな怒りを湛えているのが分かった。

「あまり性急なことはしたくなかったが、甘やかしすぎたらしい」

 愛さんの、普段の無愛想ながらに穏やかな雰囲気はどこかに飛んでいってしまったようだ。
にやりと一瞬だけ口許を歪めると、俺の喉仏の辺りに噛みついた。

 ひぐっと詰まったような悲鳴が喉から洩れる。
本気で噛んだわけではなかろうが、急所に歯を立てられたのだと思うと、恐怖で身体が固まったように動かなかった。

「そのままじっとしていろ」

愛さんが喋ると喉に息が当たる。

Tシャツに手がかけられて、一気に首もとまで捲り上げられる。
ここまでされて、これからの展開が分からないほど馬鹿ではない。

俺は、大きく右腕を振り上げた。
が、次の瞬間に手首を捕まれる。

「じっとしていろ、と言ったんだ」

体格にも差があるし、今の体勢も分が悪い。

「待って、話っ」

話し合いに持ち込んだ方がいいと思ったが、愛さんは俺の声を無視して、晒された肌に手を這わせた。
冷たい手に脇腹を撫でられて、びくりと身体が動く。
その手に、つつ、と身体のラインをなぞられると、羞恥か、屈辱か、顔に熱が集まった。

「いやだ、なんで、」

空いている左腕で目元を隠す。
ぼそりと呟いた言葉を、愛さんは聞き逃さなかった。

「何で、か。お前は、嘘つきだ」

きつく睨み付けられる。

「気づいていただろう、本当は」

俺は、口元がひきつるのを感じた。

ぐい、と顔を隠していた腕を退かされる。
ふいと横を向くが、愛さんの手が頬に添えられて、無理矢理に目を合わせられる。

「目も合わせないし、家にもあまり来なくなった・・・気付いたからだろう」

言われたことは図星で、俺は黙って愛さんの目を見つめ返すことしかできなかった。

「そうやって都合が悪くなったら黙りこんで、知らない振りをして」

お前は、卑怯だ。

そう言われて、俺の目から涙が溢れた。
卑怯だと言われても仕方がないことをしたかもしれない。

 けど、じゃあ、どうすればよかったんだ。
どうすれば、こんなことにならなかったんだ。

拒絶すればいいのだろうか、嫌いだと叫んでみれば事態は好転するのだろうか。

「愛さんだって、曖昧な言葉しか、使わなかったじゃないですか。」

お前こそ卑怯だ。
言いきらない内に、足が布に擦れる感触がして、すうっと涼しくなった。
ジャージを脱がされたのだと、すぐには分からなかった。
手を抜いてだるだるのズボンを履いてくるべきではなかった。
俺は今朝の自分の行動を悔いた。

 太ももにぴたりと手を添えられる。
起き上がろうとするが、愛さんの重みで上半身を少し浮かすことしか出来ない。
手をばたつかせれば愛さんの手によって一つに纏められた。

愛さんは目を細めて俺を見下ろしていた。
その目にゆらゆらと揺れているのは、情欲で間違いないのだろう。

ゆっくりと、指先が内股まで移動すると、すりすりと撫でられる。
その度にぞくぞくと背中が痺れる。
漏れそうになる声を抑えて、はふはふと息を逃がした。

「あ、愛さん、嫌だ、やめて」

 肌を撫でる手が止まる合間に静止の言葉を掛ける。
愛さんは一瞬手を止めると、より上にその手を移動させた。

「ひっあ、」

 足の付け根の辺りを揉むように押され、堪らずに声が洩れる。
ぐりぐりと付け根を揉まれ、足が勝手にびくつく。

「あっ、やだ、いや、ぁ」

 もはや声を押さえることも出来ずに、背を仰け反らせ、感覚を逃がそうと身を捩る。
しかしそれらの行為は何の意味も為さなかった。
愛撫の手は止まらないし、身体は自分の意思に反して昂った。

「うぁ、愛さん、あいさん、おねがいまっ、て」

 犯られる。

そう確信した俺は、情けなくも愛さんに許しを乞うしかなかった。

「あいさん、ごめんなさい、ごめんなさっ、」

すると愛さんは、愉快そうに口許を緩めて「何に対して謝っているのか」と問うた。

「嘘、うそです、彼女は出来ないです、だから、んん、やめっ」

 一度手を止めてくれたが、またすぐに動き出す。
勃ちかけているものを擦られると、へなへなと身体の力が抜けた。

「うう、やあ、やだ、やだやだ、ごめんなさい、もうしないで」

もはやまともな言葉を考えることも出来なかった。
いやいやと首を振る。

「どうすれば止めてくれるんだろうな」

愛さんは、幼子に問うような優しい口調で囁いた。

「んんう、あ、あいさ、すきっ、」

 正常な思考回路は働いていなかった。
とにかく、今、愛さんを止められる言葉はないか。
やけくそだった。

 しかし、愛さんの手はぴたりと止まった。
正解だったのだろうか。

 恐る恐る愛さんの顔を見上げようとしたが、それよりも早く愛さんの掌に目元を覆われた。
視界が暗くなって、何も見えない。

「あいさん?なに・・・ひぁ、」

 声を掛けると、きゅっと根本を握られた。
再びやわやわと揉みしだかれる。

「え、や、また、なんで」

 視界が奪われている分、触れられている感触に意識が向けられる。
無理矢理に高められる感覚が堪らなく苦しかった。

「あいさん、まって、やだあ、すき、すきです、だからとめてえ」

 何度も好きと繰り返す。

 気づけば両手は自由になっていたので、目元を覆っている逞しい腕を掴んだ。
 ぎゅう、と握ると、ふっと視界が明るくなった。
愛さんの指に指を絡め、所謂恋人繋ぎをする。

「あいさん、すき」

 愛さんは横を向いて俺を見ないようにしていたが、きゅっと絡める指に力を込めると、ちらりと俺を見た。

「・・・好き?」

 それからぼそりと呟いて、扱いていた手を止めた。
止めただけで離れてはいないのが気になるが、今はそんな場合ではない。

「ん、すきです、すき、だから、無理矢理しないで」

そう言うと、愛さんは"すき、"と復唱して、そうっと手を離した。

「愛さんがはっきりしてくれないから、不安でこんなことしたんです、」

 自分の頭は酷く冷静だった。口が勝手につらつらと言葉を紡ぐ。

「こわい愛さんは嫌、です。優しく、してください」

 自分の言っていることが白々しくて寒気がする。
それでも愛さんを動揺させるには充分だったようで、愛さんは俺の服が乱れているのを軽く直して、ぎゅうぎゅうに俺を抱き締めた。

「たみくん、たみくん、たみ、俺のものか」

 呼び方がお前から名前に戻っている。そのことに安堵した。

 愛さんの背中をぽんぽんと叩く。

「あいさんのですよ」

 そう言うと、愛さんは俺の髪をくしゃくしゃに撫でて、「怖くして悪かった」と謝った。
俺が「これから優しくしてください」と言うと、そっと額に唇を当てられた。

 取り返しのつかないことになってしまった。

 愛さんの広い胸に抱き締められている俺は、何も見えてはいなかった。





ホオズキ:偽り
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